増える新たな分野の専攻、変わる社会と音大 ~映画音楽、コンピュータ音楽、ゲーム音楽、ポピュラー、ジャズ、ミュージカル、バレエ、声優、アニメ、CM、ビジネスほか
昨今、音大にはタイトルに挙げたような新たな分野の専攻が次々と登場し、人気を集めています。それにより、音大は大まかに言って2つの顔をもつようになってきています。ここではその新たな分野の事例をご紹介します。
*記事は内容の更新を行っている場合もありますが、基本的には上記日付時点での情報となりますのでご注意ください。
執筆:堀内亮(音楽大学講師)、荒木淑子(音楽ライター)、各編集グループスタッフ。音楽之友社および『音楽大学・学校案内』編集グループは、1958年に年度刊行書籍『音楽大...
伝統的な顔と新しい顔
伝統的な音大の顔といえば、純クラシック音楽の実技や音楽学・音楽教育などを専門とする世界でした。いっぽう昨今の新しいトレンドは、その周囲に広がるポピュラーなどのさまざまな音楽や、ビジネスと結びついた世界です。
分野は、たとえばポピュラー音楽といってもCM、ゲーム、アニメ、映画と多岐にわたり、目指す職業もクリエイター(コンポーザー)、音響専門家、歌手、声優とさまざまな専門領域に分かれます。つまり、これまでは専門学校、専修学校などが得意としていた分野に音大が進出しているのです。
例1:クリエイター養成系の専攻で学べる音大ならではの内容
例を挙げると、そういった分野のなかにゲーム音楽があります。かつてのゲームが小中学生の玩具であったのが、今やクオリティの高いゲームが大人をも夢中にさせています。
その市場はすでに巨大なものですが、新型コロナウィルス感染症が始まった年には、「ステイホーム」生活のなか、あるゲームが国民的流行現象を生み出しました。リアルな生活とヴァーチャルなゲーム世界の境界があいまいになり、「昨日、友達の〇〇と会ったよ」と言われ「えっ?それってリアル、それともゲームで?」などと会話することも増えています。
そのように、私たちの生活に浸透するゲームに音楽はなくてはならない要素です。ゲーム音楽を守備範囲とする専攻は、クラシックの作曲専攻と区別するためにコンポジション、クリエイション、デザインといったことばを冠していることが多いです。
ゲーム音楽を学べる音大の専攻に、一般的に共通する特色は何でしょうか。まず、基礎的なクラシック音楽の作曲法をしっかりと学べること。その上で、自分が得意なジャンルだけではなく、オールラウンドに創作するカリキュラムになっていること。さらに、全学に開かれている科目のなかで、楽器の実技、それも西洋楽器はもとより民族楽器や邦楽器など世界と日本のさまざまな楽器を学ぶことができることです。
ゲーム音楽や商業音楽のクリエイターに必要なことの1つに多くの「音楽の引き出し」をもつことがあげられます。多様な楽器を実際に演奏し、またその演奏を支えている理論を講義系の音楽史や音楽学などの科目で学ぶ、それは一般的な音大の環境です。
つまり、発注元から注文を受け、相手がのぞむ作品(商品)を提供するためには広く深い音楽経験と知識が必要なのです。自分が好きなジャンルしか作ることのできない作曲家への仕事は限られたものになります。音大で学ぶことで、クラシックも含めて自分の裾野を広げることができるのです。裾野が狭い人は安く早く仕上げる価格競争のなかで淘汰されていくでしょう。
例2:就職・仕事に役立つマネジメント専攻
もう1つ、音楽をマネジメント、プロデュースする人材を育てることを目的とする専攻の例を挙げます。音大はこれまで音楽家、学者・教育者を育ててきましたが、音楽と聴衆を結ぶ役割を果たすのが音楽マネジメントです。
「ミュージッキング(音楽すること)」(音楽に関わるすべての行為をさす。クリストファー・スモールの著書名)ということばがありますが、ある演奏会を成立させるにはステージマネージャーからチケットのもぎり、企画、広報や楽器の調律などおびただしい数の仕事が関わっています。何か1つが欠けてもよい演奏会にはならないのですが、その重要なマネジメントという分野が大学で学べるようになってきています。
クラシックの演奏会だけではなく、ポップスやロックの音楽フェスティバルや、大学の地元地域社会でつくる芸術作品や学校、病院などへの出張演奏会など、学生が自ら企画し、準備と本番にいたる多種多様な仕事を体験することができるのが特色です。
これまでは音大を卒業後、就職してはじめてマネジメントの世界にふれる、といったケースが大半でした。そのようなかたちで現場の徒弟制度のなかで見よう見まねで学んできたマネジメントを、在学中から系統立てて勉強できるメリットがある上に、マネジメントを支える理論面の講義科目もしっかり学ぶことで、自ら音楽プロジェクトの企画を立ててみたい、という夢をかなえることもできるのです。
このような新しい専攻はいずれも、とても強く卒業後の就職、仕事を意識しています。音楽を芸術や創作活動としてだけではなく生計を立てる手段として捉える、当たり前のことですが、それがとてもハードルが高いという現状がありました。4年学べば音楽を仕事にできる、という音大の挑戦は、今後もどんどん広がっていくのではないでしょうか。
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そういえば、もよりの駅から音大に向かう朝の歩道、かつてははなやかな女性らしいファッションであふれていましたが、今では意外にも男性が多く、女性もスニーカーにユニセックスな装いでリュックやエレキギターを背負うなど多種多様になってきていることに音大の変化が現れています。
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