北欧とケルト、暮らしと音楽 Vol.1

ノルウェーの氷のパーカッショニスト、テリエ・イースングセットが創り出す「東京の音」

読みもの
2018.09.14

アイルランドやブリテン諸島、北欧に中欧。西洋音楽の本拠地から見れば辺境ともいえる地域には、また違った景色が広がっている。ケルト/北欧を中心としたヨーロッパの音楽を届ける仕事に従事するThe Music Plant代表の野崎洋子さんが、現地の暮らしとともに音楽をご紹介する新連載がスタートします。

第1回に登場するのは、ユニークな音の創作活動で一目を置かれるノルウェーのパーカッショニスト、テリエ・イースングセット。自然にあるあらゆる素材――氷、樹木、石、山羊の角など――から音楽を作るテリエが、東京にやってきた。彼が東京の素材から作り出す音楽に耳を傾けてみよう。

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写真:Sadanori Kasahara (c-house)
案内人
野崎洋子 音楽プロデューサー
野崎洋子
案内人
野崎洋子 音楽プロデューサー
1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

ノルウェー~冬の厳しい自然を愛する人々が生み出す文化の魅力~

人口たった520万人の北欧の国、ノルウェー。みなさんはいったいどんなイメージを抱くだろうか。絶景フィヨルドやヴァイキング、充実した社会福祉制度、お洒落で機能的な家具、自然を愛するエコなライフ・スタイル……

そして、今年秋に来日する世界的に有名なムンクの『叫び』に見られるような、暗くて陰鬱なイメージをもつ人もいるかもしれない。確かに緯度の高いこの国における冬の日照時間の極端な短さは、旅する者にとっては耐えがたいもの。さぞかしこの国に住む人々は、そんな冬を憂鬱な季節と嫌っているに違いないと想像するが、実はそれは大きな間違い。

ノルウェー人は、氷や雪に閉ざされた冬の厳しい自然が大好き。そもそもこの国は、アムンセン、ナンセンなどの有名な探検家の出身国でもあり、北極や南極など極地における世界的な記録は、ノルウェーのすぐれた探検家たちによってほぼ独占されているのだ。

ノルウェーの第2の都市ベルゲン(写真:筆者)
トナカイやエゾジカなどの加工肉は絶品!(写真:筆者)
ベルゲンのフロイエン山からフィヨルドをのぞむ(写真:筆者)

また音楽ファンには、作曲家のエドヴァルド・グリーグ、ピアニストのレイフ・オヴェ・アンスネスを始めとした優れたクラシックの音楽家たちを輩出したことでも知られ、80年代から活躍するポップ・グループ、アーハの《テイク・オン・ミー》は、日本でも大ヒットし多くの人に愛された。

ノルウェー人は古来から芸術的であり、かつアウトドア派なのだ。自然を楽しむ繊細さと強靭な精神力、優れた身体能力をもつ人たち。それがノルウェー人だと言えるのかも。

テリエ・イースングセット~氷の楽器を奏でるパーカッショニスト~

そんなノルウェーだから、この国に氷を使ったパーカッショニストがいることに、誰も驚きはしないだろう。
テリエ・イースングセットは、この地球上のありとあらゆる場所で自然にできた氷を使った楽器を制作し演奏する打楽器奏者である。もちろん作った楽器は、公演後そのまま水となり溶けてなくなるので、そんなエコなコンセプトも彼の自慢の1つだ。

八丈島のシダの森の中で音探しをするテリエ

テリエのユニークな活動、アイス・ミュージックは、日本でも2015年、ユニクロのヒートテックのTVCMに採用され全国的に放送された。また昨年ストックホルムで開催されたノーベル賞授賞式記念晩餐会で行なわれたライヴ・パフォーマンスも記憶に新しい。日本生まれで英国在住の作家、カズオ・イシグロ氏も出席した晩餐会だ。

90年代半ばよりノルウェーの音楽シーンを中心に活躍してきたテリエは、静謐でユニークな音世界の構築で、世界でもっともクリエイティブな25人のパーカッショニストの1人と呼ばれ、その活動はジャズや伝統音楽、ヘヴィ・メタルのアーティストとの共演等、多岐に渡る。

自然を愛する彼は、氷以外にも多くの自然素材を元にパーカッションを制作。樹木、石、野生山羊の角など、なんでも目についた新しい素材は叩いて吹いて音を確認する。コンサートでは、エンジニアとの共同作業のもと、音響機材を駆使し、独特の広大なサウンド・スケープを聴く者に体験させてくれるのだ。

テリエが集める「東京の音」

そのテリエが東京にやってきて、自然の中に存在する音の素材を探して旅に出た。実は東京都には森林がしめる土地が約4割近くも存在する。あらゆる音を探して、奥多摩、八丈島などへも。川縁の小石、森に落ちていた木の枝すらも、テリエにとっては宝の山なのである。
そんな東京都の自然の中に存在する素材と、それらが奏でる音たちは、2018年2月より開催されている連続公演で耳にすることができる。

八丈島の海岸で音の素材探し
八丈島の林で、若い(細い)竹を探す
八丈島の大賀郷中学校での演奏会。口琴と鹿の角笛以外は、すべて八丈島で見つけた素材を楽器にして演奏している。
あきるの市の澤入木材様で、木の楽器を作る。スギの木に夢中!
八丈島のカフェ空間舎で開かれた夜の演奏会。満点の星空の下で音楽を聴く

「このプロジェクトのことをノルウェーで話すと、 『東京にそんなに自然が残っているのか!』とびっくりされるよ」とテリエは語る。「多くの人が東京はビルに囲まれて自然なんて1つも残っていないって思っているのさ。でもちょっと中心部を離れると、ここにはまだまだ手つかずの自然が残っている」

 

半年前には、小澤酒造(澤乃井/創業1702年)の清酒の仕込み水からできた氷を削って楽器を制作。都心のホールで氷の楽器を使ったアイス・ミュージックのコンサートを行なった。

実際、氷で楽器を作るということ自体、大変な作業だ。冷凍庫の中で何時間もかけて氷を削りチューニングしていく制作過程を経ても、演奏しているそばから楽器はみるみる溶け、音程もどんどん変化していく。満員のホールで聴いたその不思議な音世界は、青梅の井戸の奥に潜む太古の息づかいを聴いているようだった。

氷の楽器の素材となった「清酒の仕込み水」を提供した、澤乃井で有名な奥多摩の清酒会社「小澤酒造」を訪問
2月のICEMUSIC公演の氷の楽器を製作中!(氷の水は、小澤酒造様提供の清酒の仕込み水)

そして今月末には、このプロジェクトの最終公演が都内で計画されている。過酷な冬と豊かな大自然を芸術までに昇華させたノルウェー人のタフネスさも感じられる公演になるだろう。

公演情報
テリエ・イースングセット『東京の音』ファイナル 3DAYS 公演

日時: 2018年9月28日(金)~30日(日)
会場: 新宿 Pit Inn
チケット料金: 前売り3,500円~/当日4,000円~
公式サイト: http://tokyosounds.jp/

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