アニメーション映画『ウルフウォーカー』〜音楽でも醸し出す中世アイルランドの神秘
音楽プロデューサーの野崎洋子さんが、北欧・ケルトの音楽や取り巻く文化をガイドする連載。第10回の題材は、神秘的なアニメーションと透明感のある音楽で話題性が高まっているアイルランドの映画。そのケルト三部作を、10月30日公開の最終章『ウルフウォーカー』を中心に、音楽とともに紐解きます。
1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...
アイルランドのアニメーション3部作が完結!
アイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンの最新作『ウルフウォーカー(原題:WolfWalkers)』が、10月30日から日本でも公開されます。
カートゥーン・サルーンは、1999年アイルランドのキルケニーという美しい中世の街に拠点を構えています。「ポスト・スタジオジブリ」の声も高い本国だけでなく、多くの作品がアカデミー賞にノミネートされ、世界的な評価を得ています。
カートゥーン・サルーンによる『ウルフウォーカー』の舞台裏
『ウルフウォーカー』は、このスタジオが制作してきた『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ ・シー 海のうた』に続く「ケルト3部作」の完結編ともいうべき作品です。
1作目『ブレンダンとケルズの秘密』〜世界一美しい聖なる本と少年修道士の物語
2008年に公開された『ブレンダンとケルズの秘密』 は、世界一美しい聖なる本「ケルズの書」を巡る、少年修道士ブレンダンの物語。第82回アカデミー賞長編アニメ賞にいきなりノミネートされるという快挙を得た冒険ファンタジーです。アニメーションで丁寧に美しく描かれたケルトの世界は圧巻で、日本でもケルトやアイルランド文化のファンだけではなく、多くの映画ファンを魅了しました。
2作目『ソング・オブ・ザ ・シー 海のうた』〜幼い兄妹の大冒険!
そして2作目が、2014年の『ソング・オブ・ザ ・シー 海のうた』 。アイルランドの神話をベースに、幼い兄妹の大冒険と別れを、まるで絵本が動き出したかのような映像美で描く、こちらも素晴らしいファンタジーです。音楽ファンの間では、お母さん役の声を人気シンガーであるリサ・ハニガンが務めて話題となりました。こちらも、第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされ、大ヒットを記録。
アイルランド・ダブリン生まれのリサ・ハニガンが歌う「Song Of The Sea」
3作目『ウルフウォーカー』〜キルケニーに伝わる狼伝説
そして満を期して、本作品『ウルフウォーカー』が、2020年のハロウィンの時期にあわせて登場となりました。カートゥーン・サルーンが拠点とするキルケニーに伝わる狼伝説がベースとなったユニークなストーリーです。駐日アイルランド大使館のツイートによれば、狼伝説が残るのはアイルランド広しと言えども、このキルケニーだけなのだとか。
ご存知でしたか?眠ると魂が抜け出しオオカミに変身するという伝説が残るのは、アイルランドの中でもキルケニーのみ🐺!映画『#ウルフウォーカー』の公開を記念し、キルケニー城ではプロジェクションマッピングが行われています。詳しくはこちらから👉 https://t.co/Htwnp0NXLe https://t.co/uzwG7fS1NK
— アイルランド大使館 Ireland in Japan (@IrishEmbJapan) October 20, 2020
舞台は中世のアイルランド。城壁に囲まれたこの街にやってきたイングランド人の娘とその父を中心に物語は展開していきます。
父は森で狼たちを追い払う仕事をし、娘は家の中に閉じ込められ家事をするように命令されます。とても好奇心が強く行動的な娘は、父の仕事を尊敬するあまり、父を多少でも手伝おうと、言いつけを守らず壁を乗り越えて、一人冒険へと繰り出します。
そこで森の中へと迷いこみ、偶然ウルフウォーカーである女の子と出会い、友情を育むようになるのです。しかし、お父さんのボスである護国卿の怒りがついに爆発し、狼たちが住む森は焼き払われることが決定しました。友だちと護国卿に囚われた彼女のお母さんを助けるため、必死に戦う娘……。
この作品では、ケルトの神秘的な世界観やアイルランドの歴史などがベースになっているわけですが、とにかく以前のカートゥーン・サルーン作品と比べても圧倒的に物語がわかりやすい。
女の子同士の友情、親子(父と娘)の人間関係、母と娘の関係、そして子どもが大人になる成長の過程などがくっきりと描かれ、目まぐるしく展開するストーリーにハラハラドキドキが止まりません。とにかく見ていてあっという間の100分間でした。
『ウルフウォーカー』予告編
歌からインスピレーションを受けて
注目の音楽は、カートゥーン・サルーン作品ではお馴染み、数々の映画音楽を手掛けるフランス出身のブリュノ・クレと、アイルランドの伝統音楽グループ、キーラ(KiLA)が担当し、非常に印象に残る作品に仕上がっています。
アイルランドの伝統音楽グループ、キーラのプロモーション映像
挿入歌を歌うのは、ノルウェーの人気シンガー、オーロラ(AURORA)。トム・ムーア監督によれば、ランニング中に偶然彼女のこの歌をSpotifyで聴いたことによって、本作品のインスピレーションが固まったのだそう。まるで森を走り回る狼になった女の子たちの心の声のような歌です。
ノルウェー出身のポップ・シンガー・ソングライター、オーロラ(1996〜)による挿入歌「Running With The Wolves」
ストーリーも映像の美しさも圧倒的な完成度で、アカデミーのノミネート常連の彼らですが、もう次は間違いなく取るのではないか。そう思わせてくれる力強い作品に仕上がりました。
キャラクターも一人ひとりが愛らしく、ぜひぜひファンタジー好きの子どもたちに見てほしい。日本語版吹き替え版もあって、そこではFoorin’でおなじみの新津ちせちゃん、池下リリコちゃんが女の子たちの声を担当しています。
東京では有楽町ヒューマントラストシネマ、そして恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺、大阪はテアトル梅田ほか、全国で10月30日(金)から。ぜひお見逃しなく。
10月30日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次ロードショー
監督:トム・ムーア/ロス・スチュアート
脚本:ウィル・コリンズ
声の出演:オナー・ニーフシー/エヴァ・ウィッテカー/ショーン・ビーン
音楽:ブリュノ・クレ/KiLa/オーロラ
2020年/アイルランド・ルクセンブルク/英語/103分/ヴィスタ/カラー/ドルビー・デジタル/
日本語字幕:稲田嵯裕里 原題:WolfWalkers
配給:チャイルド・フィルム/後援:駐日アイルランド大使館
©️WolfWalkers 2020
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