読みもの
2023.01.31
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第118話

ブレハッチゆかりのビドゴシチで、ショパン・コンクールから17年の歳月を振り返る

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

ビドゴシチの街を流れる運河(撮影:筆者)

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ポーランド、ワルシャワから北西230キロに位置する、ビドゴシチ。ビスワ川が流れ、かつて水上交通の主要都市として栄えたといいます。旧市街や運河の眺めも美しく、整った町並みと素朴さが共存する素敵な街です。

ビドゴシチの旧市街

クラクフやグダンスクのような古都に比べると、名前を聞く機会は少ない街かもしれません。しかしピアノ・ファン、ショパン・ファン、そしてラファウ・ブレハッチ・ファンにとっては、おそらくここは聖地(?)のひとつ……というのも、若き日のブレハッチさんが研鑽を積み、青春時代を過ごした学校のある街なのであります。

パデレフスキ・コンクールで初めて審査員を務めたブレハッチ

2022年11月、パデレフスキ国際ピアノコンクールの取材のためビドゴシチに行ってまいりました。コンクールでは、そのブレハッチさんが初めて審査員をつとめていらっしゃいました。

実は私、2005年ブレハッチさんがショパン・コンクールに優勝した翌月、当時働いていた雑誌の取材のため、ビドゴシチからさらに西に行った街、ナクウォにあったブレハッチさんのご実家を訪ねたことがありました。

当時彼はご両親、妹さんと4人で暮らしていました。紅茶とポーランドのケーキを用意してくれたり、お母様と冗談を言い合ったりしている普通の20歳の青年の横顔。コンサート終演後のバックステージやインタビューの場ではみられないその表情は、かなり印象に残っています。

あれから17年、今回はコンクール中、インタビュー以外にも空き時間に久しぶりにいろいろお話しできる機会がありました。

17年前とほぼ何も変わっていないそのキャラクター、ますます精度の上がった、素朴で若干わかりにくいジョーク。ある日など、審査員席での姿キマってますよ!といったら、ピアノを弾いてる時よりいいってこと?ねえ、そうなの?と詰め寄られました。迂闊なことをいうと、自虐ジョークで攻めこんでくる。

ビドゴシチ大聖堂

姪っ子ちゃんお気に入りの《幻想ポロネーズ》

しかし年齢と経験を重ねたからでしょう、芯のしっかりした自信が感じられる雰囲気に、流れた歳月を感じました。コンクールの最後に行なったインタビューでは、ショパン・コンクールのときに会場に来ていたあの子どもだった妹も、最近赤ちゃんを産んだんだ、僕の弾く《幻想ポロネーズ》が大好きみたいなんだよ!と嬉しそうに話していました。それにしても赤ちゃんで《幻ポロ》は、シブい。

そんなブレハッチさん、2月末には来日。それに先駆けて、10年ぶりとなるオール・ショパンのアルバムもリリースされます。

コンクールから長い年月を経て、「歳を重ねたからこその自然な流れかもしれないけれど、テンポ・ルバート、ダイナミクスの幅、感情を迸らせるという面で、より自由になったように思う」と話します。“ショパンの再来”という重荷をエネルギーに変えて、彼は自分の音楽を手に入れたのでしょう。

ちなみにサントリーホールのリサイタルでは、その姪っ子ちゃんお気に入りの《幻想ポロネーズ》も披露されますので、ぜひこの機会に。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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