遠くなったビートルズではあるがその60年の歴史の細部を描いたドキュメンタリーと実像に迫る新刊本に注目!
ラジオのように! 心に沁みる音楽、今聴くべき音楽を書き綴る。
Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画として、ピーター・バラカンさんの「自分の好きな音楽をみんなにも聴かせたい!」という情熱溢れる連載をアーカイブ掲載します。
●アーティスト名、地名などは筆者の発音通りに表記しています。
●本記事は『Stereo』2022年10月号に掲載されたものです。
ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...
デビュー60年、もはや歴史となったビートルズ
今年の10月5日はビートルズのデビュー・シングル『ラブ・ミー・ドゥー』の発売から60年です。60年。もはや歴史です。
ぼくが生まれた1951年から60年間遡ると1891年、イギリスではヴィクトリア女王の時代、日本は明治時代。歴史の教科書で知っていることはありますが、実感はありません。もちろん研究しようと思えばいくらでも情報はあるはずですが、そこまでの関心がないのが正直なところです。
2022年に生まれた人たちが青春時代を迎える頃にはビートルズはどのように語られているのでしょうか。ポピュラー音楽の世界に一大革命を起こした彼らはぼくらの世代にとって避けて通れない存在ですし、ぼくのラジオ番組宛てに今でも毎週必ず何かビートルズ関連のリクエストが届きます。でも、すでに若い世代にしてみれば過去のバンドです。教科書に「イマジン」の歌詞が載っていても、子どもたちにはジョン・レノンという人物の実感は当然ありません。
以前アメリカの30代のミュージシャンに言われてハッとしたことがあります。ビートルズが解散した1970年以降に彼らの音楽に出会った人にとって「ビートルズの音楽」は一塊だ、と。言われてみれば確かにそうなるでしょう。「赤盤」と「青盤」のコンピレイションが70年代に発表された時、すでにぼくにはピンとこない選曲で、通して聴いたことはないと思います。しかし、かなり多くの人にはそれこそがビートルズの入り口となっているわけです。
ビートルズ『The Beatles 1962-1966』(通称「赤盤」)『The Beatles 1967-1970』(通称「青版」)
その後もさまざまなベスト盤などの編集盤が発表され、今はもちろん配信でも聴けるので、ぼくのように、たとえば「64年のビートルズ」とか、「66年のビートルズ」と言った時にその時期の曲が瞬時に頭に浮かぶわけではありません。そんな会話の話し相手が段々いなくなることを寂しく感じますが、しかたがないことです。
ある時代の実像に迫る2本のドキュメンタリー
しかし、特定の時期のビートルズを描いた面白い作品が今も作られています。少し前に公開されたドキュメンタリー映画『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』では、自己発見のために1967年にインドに旅行したポール・サルツマンというカナダ人がたまたま参加したマハリシ・マヘシュ・ヨギの講演に感銘を受け、マハリシがヒマラヤ山脈の麓で運営していたアシュラムに出かけることにします。
しかし、到着すると門番の人から「すみません、今は閉め切っています。ビートルズが滞在中です」と告げられて驚きます。門の外にあるテントにしばらく、適度な食事を与えてもらいながら寝泊まりしますが、1週間経ったところで中に通され、アシュラムでビートルズとごく普通に交流することになります。
彼の体験、また彼がさりげなく撮った写真から滅多に接することができないビートルズの素顔が見えてきます。ちょうどマネジャーのブライアン・エプスタインが亡くなり、次の動きを模索していた彼らは翌年に発表される『White Album』の曲を次々と形にしつつありました。当時謎めいた印象のこれらの曲の背景も語られ、ぼくはかなり興味深く見ました。
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