
ハープ:語源は「曲がったもの」→「つまむ」!? 長い歴史と使われ方を紹介!

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第109回は「ハープ」。

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール優勝。2025年、第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門第2位、古典派交響曲ベスト...
ハープというと、まず思い浮かぶのは、天使かギネスビールのロゴか……いえ、ハープはオーケストラの中でも彩りを添える、もっとも華のある楽器と言っても過言ではありません!
しかし、この言葉の歩んできた道をたどるとずいぶんワイルドで、ちょっと不穏な一面まで見えてきます。今回は花形とも言える楽器、ハープについてご紹介します!
日本語のハープは、英語のharpの借用です。そのharpは、古英語hearpe、古高ドイツ語harphaなどに由来し、つまむ、ひっかけるを意味します。他の言語でも、arpa(イタリア語)、harpe(フランス語)、Harfe(ドイツ語)のように、ほとんどの言葉において、似たような言葉に集約されます。
さらに歴史をたどると、ゲルマン祖語harpǭ(動詞はhrapōną )まで行き着きます。意味は曲がっているものですが、これは曲げた指で爪弾く楽器を特徴づけている、もしくはハープが曲がった形をしていることに由来する、と言われています。
このハルパという言葉を聞いて思い浮かぶのは、北欧の楽器、ニッケルハルパではないでしょうか。もちろんこの楽器の名前のハルパは、ハープと同じ語源です。
ニッケルハルパで演奏された音源:エリック・サールストロム「スペルマンスグレーデ」
そのハープが歴史上初めてはっきり登場するのは、6世紀末ごろのラテン語詩人ウェナンティウス・フォルトゥナトゥスの詩だと言われています。彼は、「ローマ人はリラで、野蛮人(蛮族)はハルパであなたを讃える(Romanusque lyra plaudit tibi, barbarous harpa)」と書き、エリートなローマ文化の竪琴リラと、北方のゲルマン人が使う弦楽器ハルパとを対比させています。
ただし、ハープという楽器そのものの歴史は、言葉より遥かに古いです。考古学的には、メソポタミアやイランで紀元前3300〜3000年ごろの弓形ハープの絵が確認されており、その少しあとにはエジプトでも弓形ハープが頻繁に描かれるようになります。つまり、楽器としてのハープはharpという名前が登場するずっと前から、普通に世界で活躍していたということになります。
では、ハープの草創期にはどのような場面で使われていたのでしょうか。
エジプトの墓の壁画を眺めると、宴会の場で歌う盲目のハープ奏者(琵琶法師のようですね!)や、葬儀で大きなハープを抱えて歌う人たちが頻繁に見られます。そこから派生して、ハープ奏者の歌というジャンルまで生まれました。内容は、「嘆いても仕方ないから、どうせ死ぬんだし、あまり来世を気にしすぎず、今のうちに人生を楽しめ」というシニカルなものが多いです。天使が奏でる楽器どころか、むしろ人間くささの漂う、現世讃歌のようなものだったのです。

盲目のハープ奏者をかこむ小アンサンブルが、献酒を行なう神官の後ろで演奏している場面です。その横には、「遠慮せずに休日を楽しめ! 見よ、誰も(死後の世界に)持ち物を持っていくことは許されない。そして去るものは誰も戻ってはこない!」という歌詞が書いてあります。
古代のハープを用いた演奏
文字の世界でも、ハープは特等席を与えられています。古代エジプトではハープの形が一つのヒエログリフとして使われていました。
ハープの形を見ていきましょう。古代のハープは、長い棒に弦を張った弓形ハープ、L字型に折れ曲がった角型ハープが主流でした。それが中世ヨーロッパに入ると、今のペダルハープの先祖に当たる枠型ハープが登場し、やがてペダル装置を搭載して半音階も自在にこなす現在の形へと進化していきます。

©Musée du Louvre, Hervé Lewandowski
音楽史上、ハープが明確に役名を与えられて登場するのは、モンテヴェルディの歌劇《オルフェオ》(1607年)でしょう。楽器編成表には、arpa dopia(2列の弦をもつハープ)と名指しされ、重要な楽器の一つとして取り入れられました。
モンテヴェルディ:歌劇《オルフェオ》〜第3幕より「大いなる霊よ(Possente spirto)」

Arpa dopiaと楽譜に書かれています。
そしてヘンデルも、ハープをソロの楽器としたハープ協奏曲(1738)を作曲します。こうして、もともと北方の蛮族の楽器というイメージがあったハープが、オペラやコンチェルトの主役を張るまでに出世したのです。
ヘンデル:ハープ協奏曲 HWV294〜第1楽章
このように歴史の長いハープですが、なんと日本にも立ち寄っています。奈良・正倉院には、シルクロードを旅して唐へたどり着いた古代のハープ(箜篌、くご)が今も保存されています。残念ながら、その後の日本では定着せず、姿を消してしまいましたが、もし日本で人気を得ていたら雅楽にハープの親戚が混ざっていたかもしれなかったのです。

©東京国立博物館
ハープに由来する楽器の名前はいくつかあります。そのうちの一つが、鍵盤楽器の祖先の一つであるハープシコード(harpsichord)。こちらの名前も文字通り、ハープ(harp)+弦(chord)に由来しています。
弦を爪(プレクトラム)ではじいて弾きますが、指ではなく鍵盤ではじくハープ、と言ってもいいのかもしれません。実際、16〜17世紀には英語以外でも、arpicordoのように、ハープ+弦タイプの名前で呼ばれることもありました。
そして、ハーモニカのことを英語でmouth harp、またはFrench harpと呼ぶこともあります。さらに、「顎のハープ」と呼ばれたjaw harp(口琴)という楽器があり、口に金属のバネのようなものを加えてそれをはじいて音を出します。
ベートーヴェンの先生に当たる、アルブレヒツベルガーは、この楽器のための協奏曲も書いています。
アルブレヒツベルガー:口琴とマンドリンのための協奏曲 ホ長調〜第1楽章

オーケストラの楽器の中でも、もっとも古い楽器の一つといっても良い楽器であるハープは、長い歴史の中で、世界各地で人々の心の拠り所となっていたのです。
ハープを聴いてみよう
1 モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 K. 299〜第3楽章
2 ベルリオーズ:《幻想交響曲》作品14〜第2楽章「舞踏会」
3 ドビュッシー:フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ〜第3楽章
4 フランセ:2台のハープのための協奏曲〜第1楽章
5 ブリテン:ハープのための組曲 作品83〜第3曲「夜想曲」
6 ヒナステラ:ハープ協奏曲 作品25〜第1楽章





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