レクイエム:死者を悼む鎮魂歌。ミサ曲との違いは?
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
日本語では、「鎮魂曲」と訳されるレクイエム。亡くなった人を悼む内容の作品で、カトリックの典礼で歌われることを目的としています。
前回のミサの記事で紹介しましたが、ミサ曲とは、カトリックの典礼で歌われる音楽のことを言います。レクイエムも同じ目的なのでミサ曲の一つなのです。
では、何がミサ曲と違うのでしょうか。歌詞はどちらもすべてラテン語なのですが、まず歌われる曲の種類や、歌詞が違います。レクイエムでしか歌われない音楽をいくつかご紹介します。
ミサ曲はまずキリエから始まるのですが、レクイエムではキリエの前に入祭唱があります。入祭唱は「主よ、彼らに永遠の安息を与えてください」という言葉から始まるのですが、この安息という言葉を、ラテン語でレクイエムというのです。
入祭唱に続くキリエが終わると、次に続唱が歌われます。続唱では、以下の6つの曲が歌われます。
最後の審判が来る、怒りの日(Dies irae)。
「罪なき人間はいない、すなわちすべての人間が裁かれる」という内容の、奇しきラッパの音(Tuba mirum)。
「どうか罪が赦されるように」という内容の、偉大なる王(Rex tremendae)、思い出したまえ(Recordare)、呪われたもの(Confutatis)。
そして罪人として裁きを受けても、いつか蘇る時がくることを祈る、涙の日(Lacrimosa)。
司祭が、パンをキリストの肉に、ワインをキリストの血と見立てて捧げるときに歌われます。この奉納唱では、主イエスよ(Domine Jesu)、いけにえ(Hostias)の2曲が歌われます。
サンクトゥスとベネディクトゥス、アニュス・デイが歌われた後に演奏される、聖体拝領唱。
キリストの肉体に見立てたパンとワインを、信徒に分け与える際の音楽です。
ミサが終わってから歌われる曲です。
続唱の中で登場した最後の審判をもう一度思い出すという内容です。まさに、「ミサが終わっても忘れるなよ」と言わんばかりの内容です。
出棺する際に歌われます。
天使たちが天国へ死者を導き、永遠の安らぎを得られるように祈る文言となっています。
ミサ曲と比較すると、レクイエムでは歌われる曲と歌われない曲があります。レクイエムでは「キリエ」と「サンクトゥス」、「アニュス・デイ」は歌われますが、「グローリア」と「クレド」は歌われません。
そして、死後の世界に思いを寄せた内容が多いことがわかります。もともと、ミサ曲と同じくグレゴリオ聖歌がレクイエムとして歌われてきましたが、15世紀にフランドル楽派を代表する作曲家・オケゲムが初めてレクイエムに独自の音楽をつけ、それからさまざまな作曲家がレクイエムを作曲するようになりました。
グレゴリオ聖歌:怒りの日
特にモーツァルトは、レクイエムを書いている途中に亡くなり、まさに自分のためのレクイエムとなってしまったのです。
それからレクイエムは、典礼を目的としない、前述の形式を無視した象徴的な作品としても書かれるようにもなりました。恩人シューマンの死に接したブラームスが書いたドイツ・レクイエム、第二次世界大戦の戦没者を悼み、平和を願って書いたブリテンの戦争レクイエム、三善晃のレクイエムがその代表です。
レクイエムは、死という誰もわからない世界、その世界に行ってしまった人に思いを馳せた、特別な作品なのです。
ブリテン:「戦争レクイエム」〜怒りの日 “Out there, we’ve walked quite friendly up to death”
レクイエムを聴いてみよう
1. オケゲム:レクイエム〜聖体拝領唱
2. モーツァルト:レクイエム KV626〜涙の日
3. ヴェルディ:レクイエム〜怒りの日
4. ブラームス:ドイツ・レクイエム〜第4曲「いかに愛すべきかな」
5. フォーレ:レクイエム〜楽園へ
6. 三善晃:レクイエム〜第1曲
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