読みもの
2024.07.16
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その97

サルタレッロ:語源はイタリア語で飛び跳ねる! メンデルスゾーンを魅了した踊り

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第97回は「サルタレッロ」。

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

バルトロメオ・ピネッリ(1781〜1835)《サルタレッロ・ロマーノ》(1807〜8)

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

前回の記事で、急速な踊りのタランテッラを紹介しましたが、今回も同じくかなり速い踊りのサルタレッロをご紹介いたします!

続きを読む

サルタレッロは、タランテッラと同じような曲調ですが、起源がまったく違います。まずタランテッラは、南イタリア発祥の踊りで、タランチュラに噛まれた時に踊り狂う曲、という言われがあります。

しかし、サルタレッロは庶民による民俗的な踊りが発祥の速い踊りではあるものの、15世紀にはすでに宮廷の踊りとして好んで踊られていました。

もっとも古いサルタレッロの出典は、14〜15世紀に書かれた、トスカーナ手稿譜によるもので、数曲のサルタレッロが収録されています。庶民の間では、速いテンポで踊られており、踊りの名前もイタリア語で飛び跳ねるという意味のsaltareに、意味を少し弱く(または可愛く)する-elloがくっつき、Saltarelloと呼ばれるようになったのです。

トスカーナ手稿譜〜サルタレッロ

15世紀に入ってから、厳格ながら優雅な踊りが主流だった宮廷で、少し落ち着いたテンポのサルタレッロが踊られるようになりました。

しかし時代が進むにつれて、庶民たちと同じように、宮廷でも速いテンポの曲が踊られるようになります。そこで、サルタレッロのテンポもだんだんと上がっていき、踊りの前のお辞儀も短くなり、足をものすごい速さで交互に入れ替えつつ、走り回るような踊りになっていきました。

フランチェスコ・リナルディ(1755?〜1798?)《田舎でのサルタレッロ》

1831年、イタリアを旅したメンデルスゾーンが、サルタレッロについて、父親に次のような手紙を残しています。それは、フランスの画家ホラース・ヴェルネが、ローマにあるフランス・アカデミーの校長を務めていた際、そこを訪ねたときのことです。

私は学生たちと一緒に踊った。とても楽しい時間だった。ヴェルネと彼の娘がサルタレッロを踊ったのだけど、お父さんにも見せてあげたかったよ。途中で娘がタンバリンを手に取って、とんでもない気迫で踊り、タンバリンを叩き始めたんだけど、我々はもう手も動かせないほどでさ……その光景とやら、自分が画家ならどれほど見事な絵が描けたことか!

(1831年1月17日、ローマ、父宛)

交響曲第4番《イタリア》を書き、第4楽章にサルタレッロと名付けました。交響曲自体は長調なのにもかかわらず、終楽章が短調で終わる曲ですが、決して悲劇的ではありません。さらに、イタリアやスペインでは、明るく情熱的な作品に、短調を使うことは頻繁にあります。

彼がここまでの体験をしたサルタレッロを作品にどうしても入れたかったことと、サルタレッロには短調の曲が多いため、短調で書かれるのは自然なことだったのです。

メンデルスゾーンもこれほど興奮したサルタレッロ、一聴の価値ありです!!

メンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》作品90〜第4楽章「サルタレッロ」、自筆譜

サルタレッロを聴いてみよう

1. 作者不詳:サルタレッロ(14世紀)
2. 作者不詳:サルタレッロ(14世紀後期)
3. ゴルツァニス:サルタレッロ
4. メンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》作品90〜第4楽章「サルタレッロ」
5. グノー:サルタレッロ
6. エネスク:夜想曲とサルタレッロ〜サルタレッロ

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ