読みもの
2020.07.13
週刊「ベートーヴェンと〇〇」vol.25

ベートーヴェンとピアノ(その1:シュタイン)

年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
第25回は、ベートーヴェンとは切っても切れない重要な楽器、「ピアノ」について。数回に渡って、ベートーヴェンとピアノの関係性を見ていきましょう。

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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ピアノがもっとも進化した時代に生きたベートーヴェン

本日のお題は、ズバリ、「ベートーヴェンとピアノ」。このテーマだけで分厚い本が一冊作られそうなくらい、ベートーヴェンにとってピアノはとても大事な楽器だったし、彼ほどバラエティ豊かなピアノに接した作曲家は、後にも先にもいないかもしれない。1回では書き切れないので、今回は「その1」としよう。

というのも、ベートーヴェンが生きていた頃は、ピアノがもっともスピーディーかつ大幅に変化を遂げた時代であり、生産技術もアップし、続々と新製品の開発が取り組まれていたのだ。ベートーヴェンは、ピアノ工房のモニターよろしく、彼らに希望やアドバイスを提言したのだった。

そもそも、ピアノっていつ生まれた楽器で実際どんな楽器なの? というお話から初めてしまうと、ひたすら本題にたどり着けないので、非常に迷うがバッサリ割愛する(苦笑)。

最初期に触れた楽器、シュタイン

さて、ベートーヴェンがピアノという楽器と最初に出会ったのは、ウィーンに出る前のボン時代のこと。ピアノと言っても、現代の黒々とした大きなそれとは大きく異なるものだ。

最初期に触れた楽器の一つが、ドイツはアウグスブルクの職人、ヨハン・アンドレアス・シュタイン(1728~1792)という人物が作ったピアノである。見た目はとてもウッディで華奢な印象。現代人の目にはチェンバロに見えるかもしれない。

ヨハン・アンドレアス・シュタインによるピアノ(ベルリン、ベルリン楽器博物館)

モダンピアノの音域は広く88鍵(7オクターヴと3音)あるが、シュタインのピアノは61鍵(5オクターヴ)とコンパクト。軽いタッチで演奏が可能で、響きも軽やか。のちに「ウィーン式」と呼ばれるようになるアクション機構によって、鍵盤の先についたハンマーが跳ね上がり、弦を打つ。

このピアノをベートーヴェンに贈った人物がいる。音楽好きで知られるウィーンの名門貴族ヴァルトシュタイン伯爵だ。後年ベートーヴェンは、ピアノソナタ第21番ハ長調 op.53(1803~04)を彼に献呈し、このソナタは《ヴァルトシュタイン》と呼ばれることになった。

フェルディナント・フォン・ヴァルトシュタイン(1762年3月24日〜1823年5月26日)。ドイツ系ボヘミアの貴族出身、芸術家のパトロン。

ヴァルトシュタイン伯爵が1788年にボンを訪れたとき、8つ年下のベートーヴェン(当時18歳)の才能に惚れ込み、まだ台数のさほど多くはなかったシュタインのピアノをプレゼントしたのだった。

1791年ころにベートーヴェンが作曲したピアノ連弾曲に「ヴァルトシュタイン伯爵の主題による4手ピアノのための8つの変奏曲」WoO67があるが、ひょっとすると二人で仲良く鍵盤の前に座って演奏したのかもしれない。

1788年製のシュタインのレプリカ(2007年製)で演奏された、ベートーヴェンの最初期のピアノソナタ集 (演奏:ロナウド·ブラウティハム)

「ヴァルトシュタイン伯爵の主題による4手ピアノのための8つの変奏曲」WoO67(演奏:アレッサンドロ·コッメッラート、エレーナ·コスタ)※楽器はシュタインではない

飯田有抄
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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