付き合ったら色気のある会話が減ったのはなぜ?! という恋愛のお悩みをドビュッシーの歌曲で解決
読者から寄せられた恋愛のお悩みを、メゾソプラノの鳥木弥生さんが歌曲をもとにスパッと解決する連載。 鳥木さんがお悩みに効く歌曲を処方します。
第5回は、艶っぽい会話が好きな女性からのご相談。話が合うと思っていた男性が、いざお付き合いをすると全然色気のある会話に乗ってこない! こんなとき、ドビュッシーの歌曲でどう乗り越える?
武蔵野音楽大学卒業後、ロシア、セルヴィアなど東欧各地におけるリサイタルで活動を開始。第1回E.オブラスツォワ国際コンクールに入賞し、マリインスキー歌劇場において、G....
私は文学好きで、おしゃべり好きな女性です。
特に、艶っぽい言い回しや、色事を連想させるような比喩(いわゆる下ネタかもしれませんが、上品な部類だと思うもの)などを使って少し際どい会話をするのが、相手の性別等を問わず好きなのですが、そんな私ととても話が合う男性の友人がいて、みんなと話していても、ついつい2人で盛り上がってしまう、というようなこともよくありました。
その彼と、最近お付き合いをするようになりました。
より深くセクシーな会話を2人きりで、時間制限なしで楽しめることを期待していたのですが、なぜか彼は、私とそのような会話をすることを避けるようになってしまったのです。
私はほとんどそれ目当てで付き合い始めたのに、これでは意味がありません。どうしたらいいのでしょうか?
恋愛マスターからのおことば
彼への期待値が高かったんですね。「ほとんどそれ目当てで付き合い始めた」のですから……それはそれは、困ったものです。
実は、私も相談者様と同じく、文学とおしゃべりが好きで、歌詞や台詞にしばしば現れるダブル・ミニング、掛詞、ほのめかしも大好きです!
大概の音楽家は(モーツァルトの時代から?!)下ネタ好き。そんな意味もあったなんて! と恥ずかしくて歌えなくなってしまう同僚などもごくまれにいますが、私には相談者様の気持ちがよーくわかります。
それまで自分たちのことは棚に上げながら話していた数々の事物を、一緒に棚卸しして、時間制限なしで突き詰めたらどんなに楽しいだろう! と、思いますよね!
相談者様がガッカリしてしまうのももっともで、彼なんて「結局口先だけか!」「弱虫!意気地なし!」となじられて当然です(そこまでは言ってないか)。
ただ、好意的に捉えるのなら、やはり恋愛にはお互いミステリアスな部分や、いい意味でのギャップなども必要不可欠なので、彼は相談者様への恋心を長持ちさせるために、あえて物事を突き詰めずにいるのかもしれません。
世の中にはまだまだ相談者様と趣味の合う方で、フレッシュな気持ちで楽しめる相手がいると思いますので、さっさと次に! というのが一番有用なアドバイスかもしれません(何しろ「これでは意味がない」とまでおっしゃっているので)。が、ここはひとつ、彼と別れる、別れないは別として、詩や音楽を通し、欲望をおひとりで突き詰めてみるのはいかがでしょう?
ベルギー生まれのフランスの詩人ピエール・ルイスは、1894年、古代ギリシャの散文詩集『ビリティスの歌』を翻訳し、発表しました。レズビアンの語源となったことでも知られるレスボス島のサッフォーと同じ、紀元前6世紀に生まれて親交もあった女性詩人ビリティスの作品ということで話題になり、評論家たちもこぞって論じましたが、実際は翻訳ではなく、すべてルイスの創作だったのです。とんだひとり上手です!
内容は少女ビリティスが性に目覚め、恋をし、やがて遊女になるまでの自伝(風)で、ルイスの友人でもあったドビュッシーは、この詩集をもとに3つの作品を作りました。
そのうち、ドビュッシーがビリティス少女時代の詩から3篇を選んで作曲した《ビリティスの3つの歌》の1曲目「パンの笛」を相談者様に処方します。少々ほのめかしが過ぎる詩に、ドビュッシーの音とフランス語の耳触りも相まり、非常に官能的な歌曲です。私も聴きながら、翻訳をしながらニヤニヤしていますので、きっと相談者様のお気に召すと思います!
《ビリティスの3つの歌》以外の「ビリティスの歌」を題材としたドビュッシーの2作品でも、第1曲目に牧神パンが登場します。パンはギリシャ神話のなかでは、好色さの象徴とされています。そして、詩人ルイスもまた、色好き、性豪として有名でした。それは晩年まで続き、目に余る振る舞いが原因でさすがの(?)ドビュッシーも彼を見捨てたのでは、とも言われています。
……突き詰めすぎも良くないのかもしれませんね。お互い気をつけましょう。
処方された歌曲
ドビュッシー作曲 《ビリティスの3つの歌》より「パンの笛」(詞:ピエール・ルイス)
Pour le jour des Hyacinthies, il m’a donné une syrinx
faite de roseaux bien taillés, unis avec la blanche cire
qui est douce à mes lèvres comme le miel.
ヒュアキントス祭りに彼がくれたパンの笛
綺麗に切り揃えた葦を 結び付けている白色の蝋は
私の唇に甘く 蜜のよう
Il m’apprend à jouer, assise sur ses genoux;
mais je suis un peu tremblante.
Il en joue après moi, si doucement que je l’entends à peine.
私は彼の膝の上で 吹き方を覚えた
少しだけ 怖くて震えたけど
私のあとに彼も ほとんど聴こえないくらいに優しく吹いた
Nous n’avons rien à nous dire, tant nous sommes près l’un de l’autre;
mais nos chansons veulent se répondre,
et tour à tour nos bouches s’unissent sur la flûte.
私たちは何にも話さなくてよかった お互いが側にいれば
でも二人の音楽は応え合いたくて
唇はかわるがわる 笛の上で一つになった
Il est tard; voici le chant des grenouilles vertes qui commence avec la nuit.
Ma mère ne croira jamais
que je suis restée si longtemps à chercher ma ceinture perdue.
もう遅い 青蛙たちの歌がほら 夜とともに始まる
私のママは決して信じないでしょう
こんなに長い時間 私が なくした帯を探していたなんて
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