ブラームスの交響曲を名盤で聴こう! 音楽評論家が選ぶBEST 3と楽曲解説
2021.10.04
プロコフィエフ《ピーターと狼》の意外な奥深さを知る本
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
コロナ以前と以後で、音楽界がまったく変わってしまったなか、個人的に最近もっともよく聴いているのが、3月8日にニコニコ生放送で無観客ライブ配信されて10万人の視聴者を集めて話題になった、東京交響楽団のコンサートを収録したライブCDである。
これまで、ミューザ川崎シンフォニーホールでの東京交響楽団のレコーディングを数多く手がけてきたオクタヴィアレコードの録音スタッフの力があってこそ、あの日のニコニコ生放送にも、良質なコンディションでしっかりとマイクで捉えた、芯のある美しい音が配信されていたという事実を、このディスクの解説から初めて知った。
それまでにはなかった異常な状況下で、無観客ライブという選択を取らざるを得なかった東京交響楽団が、持ち前の豊麗なアンサンブルを発揮しながら、どれほど真剣な、燃えるような演奏を繰り広げていたかが、ここには優秀録音によって見事に収められている。
「コロナ以前」のオーケストラの最後の輝きを伝えるこの演奏を聴くと、改めて思う。何と素晴らしいオーケストラ文化を、当たり前のように私たちは手にしていたのか、と。そのかけがえのなさを、今一度確かめておく上でも、これは感慨深い、特別なディスクである。