バレエにも本気?最新の研究成果を踏まえたガイド『ベートーヴェン 革新の舞台裏』
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
ベートーヴェン研究を生涯の課題とされている平野昭さんが、最新の研究成果を踏まえて書かれたガイド本『ベートーヴェン 革新の舞台裏』がすごく面白い。
本書には、これまで常識とされていたベートーヴェン観を覆すようなことがたくさん盛り込まれており、それが断定調ではなく、あくまで楽曲を楽しむためのヒントを提示するような形で書かれている。
たとえば、交響曲第4番の第3楽章は、新全集(ヘンレ版)では、旧全集(ブライトコップフ版)やジョナサン・デル・マー校訂版(ベーレンライター版)にはない「メヌエット」の表示があること。これを従来のように「スケルツォ」のイメージでとらえていた人にとっては、大きな問題提起となりうる情報である。
とりわけ驚きなのが、さほど話題に上ることの多くないバレエ音楽《プロメテウスの創造物》についての記述。
本書によれば、1801年初演のバレエ《プロメテウスの創造物》は、当時ウィーンで相当な成功を収めており、ウィーンに滞在していたイタリアの舞踊家サルヴァトーレ・ヴィガーノ(作曲家ボッケリーニの甥)の企画・振付・主演ともども、ベートーヴェンはバレエ音楽作曲家としても脚光を浴びていたのである。それは、これからウィーンでますます活動を充実させていこうとする若き作曲家にとって、大切な舞台でもあった。
それだけではない。ベートーヴェンにとってバレエ《プロメテウスの創造物》は、交響曲やピアノ変奏曲など、さまざまな作品との関連性を持つという意味で、いまもなお大変な重要作であり、序曲のみならず全曲を聴くことが本書では推奨されているのだ。
本書にはベートーヴェンが生きていた当時のウィーンの状況や、周辺人物とのエピソードを描いた興味深い記述も多く、音楽愛好者にとって新たな視点とインスピレーションを与えてくれる一冊である。
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