イベント
2024.12.17
2025年1月24、25、26日に来日公演!

フィドルの越境者、ネマニャ・ラドゥロヴィチ〜ヴァイオリンが持つ魔性の魅力を引き出す

山崎浩太郎
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

©Edouard Brane
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メロディとリズムが密接に連関し、ヴァイオリンがもつ“野生的な”力を魅せる

この人のヴァイオリンを初めて聴いたのは、2007年のことだった。初来日公演か、それに近いものだったのではないかと思う。

強烈だった。全身から発するオーラと、その音楽。セクシーにゆらめく音色とうねるフレーズ、情熱にみちたリズムの躍動、スケールの大きさ。緩急強弱と音色が自由自在に変化して、遠近感が豊かで立体的な、活力に満ちた音楽が展開する。

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盛りあがってくると、足をドンドンと踏みならし、無伴奏ソナタが「足音伴奏つき」みたいになる。そして、みるみる弓がチーズのようにささくれていき、一曲終るごとにフサになって垂れさがる。それをちぎりちぎりしながら演奏を続けていく。お上品に整える演奏とは正反対で、ロックみたいという人もいるだろうが、決定的に素晴らしいのは、そのリズムに柔軟な弾力があることだった。

ⒸHiromichi Nozawa
ネマニャ・ラドゥロヴィチ(ヴァイオリン)
セルビア生まれ。ザールラント音楽演劇大学(ドイツ)、ベオグラード芸術大学で学んだ後、14歳で渡仏。15歳でパリ国立高等音楽院に入学しP.フォンタナローザに師事、さらにクレモナでS.アッカルドの指導を受ける等、研鑽を積む。
03年ハノーファー国際をはじめとする5つのコンクールで第一位を獲得するなど受賞多数。
世界の一流オーケストラと共演するほか、カーネギーホール、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ウィーン・コンツェルトハウスをはじめとする著名コンサートホールで公演を行っている。また、室内楽にも情熱を注いでおり、自身がリーダーを務めるアンサンブル「悪魔のトリル」および「ドゥーブル・サンス」との演奏活動も活発に行っている。ベオグラードのタシュマイダン・スタジアムで行われたドゥーブル・サンスの公演では1万席がソールドアウトとなった。
ドイツ・グラモフォンより『パガニーニ・ファンタジー』『ジャーニー・イースト』『バッハ』『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲』『バイカ~黒海の物語』をリリース。2021年ワーナー・クラシックスと契約、これまでにアルバム『ルーツ』『ベートーヴェン』『バッハ』をリリースしている。
セルビアのニシュ芸術大学より名誉博士号を贈られている。また、2017年フランス芸術文化勲章「シュヴァリエ」受章。

ヴァイオリンは、メロディを歌う楽器であるのと同時に、リズム楽器でもある。通常のクラシックのコンサートではピアノやオーケストラに伴奏され、メロディ偏重の楽器になりがちだが、民俗楽器としてのヴァイオリン、すなわちフィドルは、リズム楽器でもあるのだ。

メロディとリズムが密接に連関することで音楽が躍動し、一流のフィギュアスケーターのように回転しながら跳躍し、ハーモニーが生まれる。ネマニャは、クラシックのヴァイオリンがその根源に持っている、フィドルの野性的な、魔性といってもいい力を感じさせてくれるのだ。

ネマニャがつくった弦楽アンサンブルとの共演で魅力を最大限味わう

それから数年聴き続けるうちに、ネマニャは自らがつくった弦楽アンサンブル、ドゥーブル・サンスと共演して来日したり、録音したりすることがふえていった。

これは、個人的にとても納得がいくことだった。それまで、何度かピアノ伴奏で聴く機会があったのだが、本能的、生物的としかいいようのない微妙な伸縮と波動をもって、一瞬も停まることなく、空間を曲線的に運動し続けるネマニャのヴァイオリンは、錨のように点を打ち込んで、現在地を確認し続けていくピアノの音とは、すれ違うことも見受けられた。合わせようと停まって音を伸ばした瞬間、ネマニャの魅力は薄れてしまうように思えた。

同じ弦楽器を主体とするアンサンブルとの共演なら、そんな問題は起こらない。ドゥーブル・サンス、「二重の意味」とか「両義性」という意味を持つ言葉をアンサンブル名にしているのは、じつに意義深い。ヴァイオリンとフィドルの境界を自由に行き来する越境者、ネマニャ自らにふさわしい言葉なのだ。

今回の来日公演で演奏される曲目にも、まさに越境する音楽が含まれている。

ベートーヴェンの《クロイツェル》ソナタは、ピアノ・パートを弦楽合奏にネマニャ自ら書き換えたものだし、バッハのヴァイオリン協奏曲ニ短調BWV1052Rの原曲はチェンバロ協奏曲だが、もともとヴァイオリン協奏曲だったものを、バッハがチェンバロ独奏に書き換えたと考えられている作品だ。

フィドルの越境者、ネマニャと仲間たちの来日公演。大いに楽しみである。

ネマニャ・ラドゥロヴィチ presents ドゥーブル・サンス
東京オペラシティ公演

日時: 2025年1月24日(金)19:00開演

会場: 東京オペラシティ コンサートホール

出演: ネマニャ・ラドゥロヴィチ(ヴァイオリン)、ドゥーブル・サンス (弦楽合奏/チェンバロ)

曲目: ベートーヴェン(ラドゥロヴィチ編)/ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47「クロイツェル」(ヴァイオリン・ソロ & 弦楽合奏版)
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 BWV1052R (原曲:チェンバロ協奏曲)

料金: 全席指定 S席 9,500円 A席 7,500円 B席 5,000円

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かつしかシンフォニーヒルズ公演

日時: 2025年1月25日(土)14:00開演

会場: かつしかシンフォニーヒルズ

出演: ネマニャ・ラドゥロヴィチ(ヴァイオリン)、ドゥーブル・サンス (弦楽合奏/チェンバロ)

曲目: ベートーヴェン(ラドゥロヴィチ編)/ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47「クロイツェル」(ヴァイオリン・ソロ & 弦楽合奏版)
J.S.バッハ/シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004より)※ヴァイオリン独奏
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 BWV1052R (原曲:チェンバロ協奏曲)

料金: 全席指定 一般7,500円、会員7,000円

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兵庫県立芸術文化センター公演

日時: 2025年1月26日(日)14:00開演

会場: 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール

出演: ネマニャ・ラドゥロヴィチ(ヴァイオリン)、ドゥーブル・サンス (弦楽合奏/チェンバロ)

曲目: ベートーヴェン(ラドゥロヴィチ編)/ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op.47「クロイツェル」(ヴァイオリン・ソロ & 弦楽合奏版)
J.S.バッハ/シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004より)※ヴァイオリン独奏
J.S.バッハ/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 BWV1052R (原曲:チェンバロ協奏曲)

料金: 全席指定 A席 4,000円、B席 3,000円、C席 2,000円、D席 1,000円

詳しくはこちら

山崎浩太郎
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

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