ピアニスト・辻井伸行さん「Today at Apple」に登場!クラシック音楽の楽しみ方を語る
2025年2月12日、Apple表参道で開催されたイベント「Today at Apple」に、ピアニスト・辻井伸行さんが登壇し、クラシック音楽の魅力や最新アルバムについて語りました。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ベートーヴェンの《ハンマークラヴィーア》に込めた想い
辻井伸行さんは2024年4月に、世界的なクラシック音楽レーベル「ドイツ・グラモフォン」と日本人ピアニストとして初めて専属契約を結び、昨年11月にはアルバム『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第29番《ハンマークラヴィーア》、遥かなる恋人に』をリリースしました。Apple Music ClassicalではDolby Atmosに対応し、臨場感あふれる音響で楽しむことができます。
今回のアルバムに収録されているベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番《ハンマークラヴィーア》は、技術的にも表現的にも極めて難易度が高いと言われています。
「この曲はベートーヴェンの全32曲のピアノ・ソナタの中でももっとも難しい作品と言われています。演奏時間も約45分あり、体力的にも精神的にもひじょうに大変です。でも、その中には作曲家の葛藤や苦しみ、そして最後には戦いに勝利したような強いメッセージが込められています」と辻井さん。
また、2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本人として初めて優勝した際に、この曲を演奏した時のことも振り返りました。
「当時20歳だった僕には、まだこの作品の奥深さを十分に理解できていませんでした。ただ必死に弾くことに集中していました。でも、15年経った今、ようやくこの曲の持つ深みを少しずつ表現できるようになったと感じています」
ヴァン・クライバーン氏とはコンクールの後も交流があり、クライバーン氏から最後にかけられた『クラシックに興味のない人にも生の演奏を聴いてもらえるような演奏家になりなさい』という言葉が今も辻井さんの心に深く刻まれていると言います。
ドイツで感じたベートーヴェンの息吹
今回のアルバムはドイツ・ベルリンで録音されました。ドイツでの環境が演奏にどのような影響を与えたのか尋ねると、辻井さんはこう答えました。
「僕は自然が大好きなのですが、ドイツの街もとても自然が豊かで、録音したスタジオの周りでは小鳥の鳴き声が聞こえていました。ベートーヴェンもこうした自然の中を散歩しながら作曲していたのかなと思うと、とても感慨深かったです」
さらに、ベートーヴェン以外でとくに魅力を感じる作曲家については、ショパンの名前が挙がりました。
「僕にとってショパンは特別な作曲家です。僕が8ヶ月の頃に、母がショパンのCDをかけていて、それを聴きながらリズムを取っていたと聞きました。僕のピアノの原点とも言える存在です」
現在行なわれている日本ツアーでも、ベートーヴェン、リスト、ショパンの作品がプログラムに組まれており、チケットはすべて完売するほどの人気です。
クラシック音楽をより身近にするために
クラシック音楽は敷居が高いと感じる人も多いですが、その楽しみ方について辻井さんは次のように語ります。
「まずはたくさん聴くことが大切です。CDやApple Music Classicalなどで聴くのもいいですが、やはりコンサートに足を運ぶことで、ライブならではの魅力を体感できます。同じ曲でもホールやピアノの種類によってまったく異なる響きになりますし、その瞬間にしか聴けない演奏があります」
また、登山やハイキングが趣味の辻井さんは、自然の中で聴くのにおすすめのクラシック曲としてフランスの作曲家ラヴェルの《水の戯れ》を紹介しました。
「《水の戯れ》は水の流れやしぶきを音で表現した曲で、自然の美しさを感じることができます」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ」全32曲演奏への夢
今後の目標について尋ねると、辻井さんはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲の演奏に挑戦することを目標にしていると話しました。
「いつかベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を演奏するのが夢です。また、ロシア作品など、これまで手がけてこなかったレパートリーにも挑戦していきたいです」
このイベントでは、辻井伸行さんの音楽への深い情熱が伝わるとともに、コンサートでしか味わえない感動を体験できる機会となりました。これからは、Apple Music Classicalのような最新のテクノロジーが、クラシック音楽をより身近なものへと進化させていくことでしょう。
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