観客が「居心地の悪い」物語を~現代演劇の旗手・岡田利規が歌劇《夕鶴》を演出!
東京芸術劇場、愛知県の刈谷市総合文化センター、熊本県立劇場は、全国共同制作オペラとして、今年で没後20年となる團伊玖磨(1924-2001)の歌劇《夕鶴》を新制作する。
日本の民話「鶴の恩返し」をもとにした木下順二の戯曲『夕鶴』に、1952年、團伊玖磨が曲を書いた歌劇《夕鶴》は、国内外で上演されつづけ、上演回数が800回を超える。
名だたる演出家が手がけてきた本作を新演出するのは、国際的に活動を展開する岡田利規。自身が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニー、チェルフィッチュを主宰する演劇作家・小説家であり、演出家でもある。そのユニークな作品の中には、音楽との濃い関係が見受けられるものもある。
1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。活動は従来の演劇の概念を覆すとみなされ国内外で注目される。主な受賞歴は『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞、小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』で第2回大江健三郎賞、『プラータナー:憑依のポートレート』で第27回読売演劇大賞 選考委員特別賞、『未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀』で第72回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞を受賞。主な著書は『遡行 変形していくための演劇論』、『現在地』(共に河出書房新社)など。2016年よりドイツ有数の公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品の演出を4シーズン務め、2020年に最新作『The Vacuum Cleaner』がドイツの演劇祭Theatertreffenの“注目すべき10作品”に選出された。
音楽に造詣が深い岡田だが、オペラは初演出。オペラは物語や登場人物、シーンに寄り添い、ほぼすべてを音楽が描写していると改めて認識したなかで、演出で何ができるのかを、出演者とのワークショップなどを進めながら模索しているという。
9月28日に行なわれた記者会見では、演出の方向性について、『夕鶴』のテキストや楽譜には一切手を加えずに、劇中劇の形で現代の物語にすると話した。
「演劇・オペラの上演は、常に現在の観客に対して行なわれるもの。現在の観客に届けたい、突きつけたいと考えたとき、『夕鶴』のポテンシャルを、強くむき出しの感じで突きつける」ために、「資本主義にずぶずぶになっていく」“与ひょう”たちに対して、布を織るたびにしだいにやせ衰えていく主人公の“つう”は、「イノセント(純潔)な存在、つまり資本主義の前の状態にいるのではなく、その逆、ポスト(資本主義を経験したあと)の状態」に変えるという。
観客は「それでいいんですか」と“つう”に問いかけられる“与ひょう”であり、舞台の傍観者ではいられない。民話における純粋な“つう”とは異なるイメージで迫られ、「居心地を悪くする」ことになるだろうと岡田は言う。純粋な存在である子どもたちも、劇中劇では愚かな大人たちの物語を白けて観ている存在になるなど、重要な役割を担う。
主役の“つう”には、幼少期からバレエ、日舞などを習得してきたソプラノの小林沙羅、“与ひょう”には、テノールの与儀巧が出演。言葉や歌で表現できない部分は、台本にはないダンサー2人が演じる。
指揮者は、東京公演が辻博之、愛知公演・熊本公演は鈴木優人。
新しい歌劇《夕鶴》の物語は、歌、演技、ダンスでどのように問いかけてくるのか。客席に座る私たちは、本当に当事者として意識させられるのか、そのとき堂々と背筋を伸ばしていられるのか、確かめてみては。
村はずれの一軒のあばら家。以前、山の中で傷ついて倒れていた鶴を助けたことのある貧しい与ひょうのもとに、美しいつうがやってくる。つうは与ひょうを喜ばせようとこっそり夜中に一枚の布を織って彼に渡すが、それが都で大評判になったので、金儲けをたくらむ惣どと運ずは与ひょうをそそのかし、つうに次々と布を織らせる。布を織るたびにしだいにやせ衰えていくつう。やがて織っているところを与ひょうにのぞかれ、鶴であることを知られたつうは、もはや人間に姿を変えることもできずに夕空の彼方へ飛び去っていく。
東京公演
日時: 2021年10月30日(土)14:00開演
会場: 東京芸術劇場 コンサートホール
愛知公演
日時: 2022年1月30日(日)14:00開演
会場: 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
熊本公演
日時: 2022年2月5日(土)14:00開演
会場: 熊本県立劇場 演劇ホール
指揮:
辻博之(東京公演)
鈴木優人(愛知公演・熊本公演)
演出:
岡田利規
出演:
つう 小林沙羅(ソプラノ)
与ひょう 与儀巧(テノール)
運ず 寺田功治(バリトン)
惣ど 三戸大久(バスバリトン)
ダンス:
岡本優(TABATHA)、工藤響子(TABATHA)
管弦楽:
ザ・オペラ・バンド(東京公演)
刈谷市総合文化センター管弦楽団(愛知公演)
九州交響楽団(熊本公演)
子どもたち:
世田谷ジュニア合唱団(東京公演)
アイリス少年少女合唱団(愛知公演)
NHK熊本児童合唱団(熊本公演)
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