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2022.10.07
10月22日(土)すみだトリフォニーホールでモーツァルト《レクイエム》ほか

ラトヴィア放送合唱団&新日本フィル~世界最高峰の合唱芸術、祈りの響きの極致

小倉多美子
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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世界で最も合唱の層が厚いバルト三国で、最高峰と称えられるラトヴィア放送合唱団

世界で最も合唱の層が厚いバルト三国から、その中でも最高峰と称えられるラトヴィア放送合唱団が今秋来日し、10月22日(土)新日本フィルハーモニー交響楽団とヴァスクスやモーツァルトの《レクイエム》での一夜が実現する。

1940年に設立されたラトヴィア放送合唱団は、初代の伝説的な指揮者テオドルシュ・カルニンシュが四半世紀近く率いた後、2人の芸術監督や指揮者を経て、1992年から、シグヴァルズ・クラーヴァ(芸術監督&首席指揮者)とカスパルス・プトゥニンシュ(指揮者)に率いられ、ブラームスやチャイコフスキーなどの古典からバルトの同時代作曲家の作品、そして今年4月にはジョン・ケージの稀有な合唱作品をリアリゼーションした偉業とも言える新譜をリリースし、世界からの注目もひとしお。

ラトヴィア放送合唱団の注目の新譜『ジョン・ケージ:合唱作品集』(シグヴァルズ・クラーヴァ指揮)

ラトヴィア放送合唱団のシェフであるクラーヴァは、5年に1度開催されるラトヴィア最大の「歌と踊りの祭典」のシェフでもある。建国100周年に開催された折の大規模な祭典の模様は、2018年にNHK-BSで放映された「ラトビア100年物語~歌と踊りでつないだ誇り」でご覧になった方もおられることだろう。

ラトヴィアも含めバルト三国にとって、歌が、民族としての団結や自覚や独立への希求の重要な表現手段であり、人々が歌で連携し歌で発信した三国の独立運動は「歌う革命」とさえ称された。

1992年からラトヴィア放送合唱団の芸術監督&首席指揮者を務めるシグヴァルズ・クラーヴァ。これまでにラトヴィア・グレート・ミュージック・アワードを数回受賞し、ラトヴィア内閣賞と三つ星勲章を授与された。
2000年にはヤーセプス・ヴィートリス・ラトヴィア音楽院の指揮科教授に就任。ロイヤル・アルバート・ホール、コンセルトヘボウ、ベルリン・フィルハーモニーなどで指揮しているほか、多くの国際コンクールの審査、教育プロジェクトに参加している。客演指揮者として、オランダ放送合唱団、オランダ室内合唱団、ベルリンRIAS室内合唱団、ライプツィヒMDR放送合唱団をはじめ、多くの合唱団と共演している

2017年の初来日で聴かせた驚異の超絶技巧

ラトヴィア放送合唱団が初来日したのは、2017年。「武満徹作曲賞」の審査員として来日したハインツ・ホリガーが、自身の集大成とも言える大作で、無伴奏で半音よりさらに細かい微分音も要求される超難曲《スカルダネッリ・ツィクルス》の日本初演を任せるために指名したのが、ラトヴィア放送合唱団だった。その超絶技巧に驚嘆した記憶も新しい。

同団はその折、マーラーとエセンヴァルズ(ラトヴィア)やノアゴー(デンマーク)など北欧現代の佳品を組み合わせたプログラムを各地で公演し、空気さえ澄みわたらせるような透明な響きや、力強さだけでなく哀感や悲嘆の叫びまで、世界トップクラスの合唱の迫力を日本のファンの胸に深く刻んで帰国した。

再び来日した2019年も、ブラームス、マーラーと北欧&ラトヴィアの人気の合唱作品を組み合わせたプログラミングで、世界最高峰の魅力を各地で振りまいた。

ヨーロッパのプロフェッショナル室内楽合唱団のトップに数えられるラトヴィア放送合唱団(LRC)は、レパートリーに見られる洗練されたセンス、表現力の素晴らしさ、驚くほど幅の広い歌声によって、世界中にその名が広く認知されている。LRCは人間の声のもつ可能性について新たな理解を打ち立てた。合唱の新たなパラダイムを作り上げたということもできよう。LRCにおいては、メンバー一人ひとりがそれぞれ明確な声の特徴と役割をもったひとつの個として存在する。 
ザルツブルク音楽祭、モンペリエ音楽祭などの世界トップの音楽祭をはじめ、アムステルダムのコンセルトヘボウ、コンツェルトハウス(ベルリン)、シテ・ドゥ・ラ・ミュジーク(パリ)、リンカーン・センター(ニューヨーク)、聖母教会(ドレスデン)など、世界の一流コンサートホールで公演している。またリッカルド・ムーティ、ハインツ・ホリガー、エサ=ペッカ・サロネンをはじめとする著名指揮者との共演も数多く成功させている

バッハの重要なモテットとリゲティのトーン・クラスターの名曲を含むプログラム

そして2022年、クラーヴァに率いられる日本ツアーでは各地それぞれのプログラムを聴かせるが、新日本フィルハーモニー交響楽団との10月22日は、バッハのモテット、リゲティ《ルクス・エテルナ》、ペトリス・ヴァスクス(1946~)、モーツァルト《レクイエム》という独自のプログラムを携えて登場する。

冒頭を飾るのは、J.S.バッハ《イエス、わが喜び》。4声体の合唱や大規模なフーガ、コラールの変奏等を織り成しながら、罪ゆえに身体は滅びても救われると歌う、バッハの歌唱作品の中でも重要なモテットで幕を開ける。

「レクイエム」の典礼文の一節にある「ルクス・エテルナ」(主よ、彼らを永遠の光でお照らしください)によるリゲティのトーン・クラスターの名曲も、澄み切ったラトヴィア放送合唱団の響きが、どれほど天上的な世界に誘ってくれるのか。想像を超えた美しい響きの地平が広がることであろう。

ラトヴィア作曲界の泰斗ヴァスクス(1946~)の合唱作品は、ラトヴィア放送合唱団が何枚もリリースしており、その中から今回のプログラムに選んでいるのは、ヴァスクスと同年代のラトヴィアを代表する詩人・ジャーナリストのマーリス・チャクライス(1940~2003)の詩による《私たちの母の名》。人間と自然の複雑な相互関係を追究し、生命の美しさと共に環境やモラルの崩壊という、ヴァスクスが音楽言語で表現したいテーマが、コントラストに満ちたドラマチックな緊張感で綴られている傑作だ。

新日本フィルハーモニー交響楽団。今回のラトヴィア放送合唱団との共演では、祈りのプログラムがよりいっそうの荘厳さをもって聴き手の胸に迫るだろう

日本におけるモーツァルト《レクイエム》演奏史上屈指の演奏となること必至

そして、新日本フィルハーモニー交響楽団とのモーツァルト《レクイエム》。未完のこの作品をモーツァルトの弟子が補筆完成したジュースマイヤー版の他にも、後世の音楽学者等による版がいくつも存在する中から、今回はどの版を用いるのか? 第8曲「ラクリモーサ」の「アーメン・フーガ」はどの様な形を選ぶのか? 第4曲「トゥーバ・ミルム」のトロンボーンが響き渡ったあとの静謐な四重唱も楽しみだし、直後の第5曲「レクス・トレメンデ(恐るべき王)」はテンポも含めどれほどの威厳を放つのか。日本におけるモーツァルト《レクイエム》演奏史上屈指の演奏となるだろう。

最高峰の合唱芸術を体験できる10月のすみだトリフォニーホール。聴き逃せない一夜だ。

公演情報
ラトヴィア放送合唱団& 新日本フィルハーモニー交響楽団

日時:2022年10月22日 () 15:00開演

会場:すみだトリフォニーホール 大ホール

出演:シグヴァルズ・クラーヴァ(指揮)、ラトヴィア放送合唱団、新日本フィルハーモニー交響楽団

・モーツァルト《レクイエム》ソリスト

イネセ・ロマンツァーネ(ソプラノ)
イエーヴァ・パルシャ(アルト)
ヤーニス・クルシェヴス(テノール)
アルトゥルス・シュヴァルツバフス(バス)

曲目:J.S.バッハ《イエス、わが喜び》、リゲティ《ルクス・エテルナ》、ヴァスクス《私たちの母の名》、モーツァルト《レクイエム 》ニ短調 K.626

料金:S¥6,000 A¥5,000 ※すみだ区割、すみだ学割あり

問い合わせ:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212

公演詳細はこちら

 

小倉多美子
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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