ホルスト生誕150年に組曲《惑星》ボイジャー楽章が世界初演 人類の宇宙への夢を描く
あらゆるクラシック音楽のなかでも高い人気を誇るホルストの組曲《惑星》。作曲家の生誕150年に当たる今年、7つの楽章からなるこの作品に8つめの楽章として新曲「ボイジャー」が追加される壮大な企画が実現する。7月7日、七夕に合わせてすみだトリフォニーホールで世界初演。去る4月15日には、的川泰宣・JAXA名誉教授ら宇宙研究の大御所や作曲者が登壇して記者会見が開かれ、新作楽章から曲中歌が披露された。その気になる音楽的内容を中心に、会見の模様をレポートする。
国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...
宇宙研究に長年貢献した惑星探査機「ボイジャー」を讃える企画
地球を除く太陽系の惑星を題材とした組曲に、新たに追加される楽曲のテーマが宇宙探査機となったのはなぜなのだろうか。その疑問のために、まずは「ボイジャー」について触れておこう。1977年、太陽系の惑星探査のために打ち上げられた2機の無人惑星探査機のことであり、「ボイジャー」の撮影した写真やデータによって外惑星やその衛星についての数多くの発見が成された。現在は太陽圏を出て恒星間空間へと入り、あと数年で寿命を迎えようとするなかでも、貴重なデータを地球へ送り続けている。
本企画はその長年の功績を称えて行なわれるものであり、作曲は、ホルストが講師を務めたハーバード大学出身の作曲家・清水研作が行ない、シズオ・Z ・クワハラの指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団、ソプラノの秋本悠希によって演奏される。
4月15日、世界初演に先駆けて、すみだトリフォニーホールにて記念公開プレゼンテーションと楽曲披露会が行なわれた。当日は楽曲に関わる清水と秋本のほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授の的川泰宣、国立天文台上席教授の渡部潤一、東京都墨田区に本社を置き世界に先駆けて宇宙ゴミ問題に取り組む株式会社アストロスケールホールディングスの創業者兼CEOの岡田光信の各氏が出席。ボイジャーの功績と現在が語られ、この惑星探査機が人間が宇宙を研究するにあたっていかに重要な役割を果たしてきたのかがわかった。そして各惑星を占星術的な視点から描き出した《惑星》に「ボイジャー」が加わることで、人間と宇宙とのつながりの深さ、未来への希望といったものが強く感じられることになるだろう。
ホルストの管弦楽組曲op.32。1914-16年作曲。太陽系の7つの惑星を占星術的な性格づけによって表現。全7曲。1.火星―戦争の神 2.金星―平和の神 3.水星―翼のある使いの神 4.木星―快楽の神 5.土星―老年の神 6.天王星―魔術の神 7.海王星―神秘の神
ホルストが勤めたハーバード大学出身の清水研作が新楽章を作曲
清水は作曲の経緯について、「ホルストの《惑星》に、曲中歌のついた第8楽章を作曲するというオーダーをいただいた」と語った。今回の記者会見の時点ではまだ楽曲は完成していないが、15分程度の3部構成となり、4管編成*の楽曲になるという。また、ホルンは9本、ワーグナーテューバ*は4本使用するということなので、かなり響きを充実させたものが仕上がることを窺わせる。
*4管編成:オーケストラの楽器編成の一種。3管編成(木管楽器のフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットが各2本ずつにさらに派生楽器を加えた規模)をさらに拡大した、大規模な編成
*ワーグナーテューバ:ワーグナーが《ニーベルングの指環》で使用するために考案した特殊なテューバ
また作曲にあたってはボイジャーを擬人化して考えたという。50年近く宇宙を探索するなかで目にしたであろう景色、長い旅のなかで感じた孤独や悲しみも曲に反映される。作曲技法的には“混ざる”ことを意識し、「水墨画のように、先に描いた墨が乾ききらないうちに、違う濃度の墨を落とす“たらしこみ”の技法を思わせる語法で書いていきたい」という。その絶妙な混ざり具合によって、宇宙の生命体や景色を描き出そうという想いが込められている。
ボイジャーの長く孤独な旅を、多彩な響き、大きなスケールで描く
さまざまな楽曲のモティーフが散りばめられるアイディアも発表された。これはボイジャーに「ゴールデンレコード」というレコード盤が搭載されていることに起因する。地球外の知的生命体や未来の人類がそれを見つけて解読することを期待したものであり、地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収録されている。そこにはバッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ第3番」やベートーヴェン「交響曲第5番《運命》」なども収められていることから、これらのモティーフもデフォルメして曲に使用するそうだ。
今回の発表の最後に、作中歌「さらば地球よ」が秋本の歌唱、本山乃弘のピアノによって披露された。長く孤独な旅を、使命をもって遂行し続けたボイジャーの想いが切実に語られた楽曲であり、遥か彼方にある母星である地球との別れの悲しみが伝わってくるが、同時に凛とした強さも感じさせる。さまざまな星が輝く宇宙を描くように多彩な響きに包まれており、どこか懐かしさを覚えるような旋律でありながら新鮮な感覚も味わうことができた。オーケストラの伴奏になることでよりスケールの大きな楽曲となることであろう。この作中歌はクライマックスの導入部に置かれるということで、全体像がどうなるのか、今から期待が膨らむ。
日時:2024年7月7日(日)17:00開演
会場:すみだトリフォニーホール
出演:
シズオ・Z・クワハラ(指揮)
桐朋学園大学・One Voice K (女声合唱)*
秋本悠希(ソプラノ)
清水研作(作曲[ボイジャー楽章])
新日本フィルハーモニー交響楽団
的川泰宣(JAXA名誉教授)
渡部潤一(国立天文台上席教授)
曲目:
ホルスト/アヴェ・マリアOp.9b*
ホルスト/セントポール組曲Op.29-2
トークセッション/「ボイジャーと遥かなる大宇宙」
ホルスト/組曲「惑星」Op.32 全曲 ボイジャー楽章付き〈世界初演〉
チケット:S席6,000円 A席5,000円
※すみだ区割・すみだ学割あり
問合せ:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
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