最新ヤマハチャイムを語る『NHKのど自慢』の鐘奏者 秋山気清×打楽器奏者 菅原淳
音階をもつ鍵盤打楽器の一種であるチャイム(チューブラーベル)。
打楽器奏者で、東京藝術大学の3つ違いの先輩・後輩である秋山気清さんと菅原淳さんに伺ったのは、チャイムにまつわるこんなお話から……。
●本記事は『Band Journal』2024年10月号に掲載されたものです。
1959年創刊の吹奏楽専門誌。毎月10日発売。吹奏楽の今を追い続けて60年超、学校の吹奏楽部の現場への取材やプロ奏者へのインタビューをはじめ、指導のノウハウ、楽器上達...
1967年東京藝術大学卒。卒業後は打楽器奏者として宝塚歌劇団、帝国劇場オーケストラ、東京交響楽団を経て、藝大フィルハーモニアに25年以上在籍。2002~2023年に『NHKのど自慢』の鐘奏者を務め、著書『あの鐘を鳴らしたのはわたし』(音楽之友社)を8月に出版。
1970年東京藝術大学卒。38年間、読売日本交響楽団の首席ティンパニ奏者を務めた。打楽器アンサンブル「パーカッション・ミュージアム」「パーカッション・ギャラリー」を主宰。現在、東京音楽大学と昭和音楽大学の客員教授の職にあたる。
のど自慢では歌った人の気持ちを音に
――今日はチャイムがテーマですが、やはりチャイムと言えば『NHKのど自慢』で21年間鐘を叩き続けた秋山さんですよね。一方で菅原さんはあまりチャイムを演奏しているイメージがありませんでした。
菅原 実を言うと、オーケストラでチャイムを演奏したことはほとんどありません。でも今「菅原淳アレンジ・コレクション」と題して、オーケストラの名曲を打楽器アンサンブルに編曲して演奏する演奏会を行なっています。
チャイムは好きな楽器なので、僕のアレンジではメロディを演奏することも多いです。《カルメン》や《ガイーヌ〜剣の舞》の細かい音符のメロディなども、チャイムに担当させています。《ボレロ》でもメロディを演奏しますが、間に『NHKのど自慢』の合格のときのメロディが一瞬出てくるんですよ(笑)
――秋山さんにその部分だけでもぜひ演奏してほしいですね(笑)。のど自慢のステージで叩く鐘は、オーケストラで演奏するのとは違いますか。
秋山 まったく違います。オーケストラならその曲に合った鳴らし方があるのですが、のど自慢の場合は歌っている人の気持ちを考えて、「残念だったね」とか「上手だったね」という表現をしていました。
菅原 それは面白い。のど自慢は息子と一緒にずっと見ていました。うちの息子は歌ではなく秋山さんの鐘を見るためにテレビの前に座っていて、鐘の音に拍手していたほどです。不合格の鐘2つのとき、1発目と2発目の間隔が人によって微妙に違うんですよね。
秋山 そこに気持ちを込めるんです。「残念!」とか「合格でもよかったのに」とか。たまに僕が決めているのではないかと勘違いする人もいましたが、あれはヘッドフォンで指示が来るので、自分の意思はありません。つらいところですが(笑)。
倍音が整理され 遠鳴りする響きに
――さて、今日のテーマであるヤマハのコンサートチャイムですが、2020年に新型になり、さらに今年の3月に改良が施された最新の楽器となっています
秋山 実は今日初めて試してみたのですが、昔のものよりも断然叩きやすくなっています。音もよくなりましたね。響きのなかに含まれる余分な音が減ったことで、より遠鳴りする印象です。
菅原 やはりもっとも変化したのは響きですね。チャイムの音色を決めるのは倍音の扱い方です。秋山さんが言うように新しいモデルでは倍音をうまく整理して、より教会の鐘が遠くまで響くような、そんな感じの音になったと思います。
――使い勝手はいかがですか。
菅原 ひじょうに扱いやすくなりました。ヘッドキャップ(上端部分)の厚みが増したので、両手にバチを持って速い動きをしたときでも、ミストーンをしにくくなりました。
それから幹音と派生音(ピアノでいう白鍵と黒鍵)の距離が近づいたので、メロディが演奏しやすくなりました。最近は吹奏楽曲でも鍵盤打楽器のようなパッセージがチャイムにも出てきますから、非常に助かります。
それから、新型では細管モデルが追加されているのですが、従来より高さを3センチ抑えた太管モデルに比べても、さらに10センチ低くなっているんです。細管モデルは太管と比べて、明るい音色を持っています。
細かいところでは、ペダルも操作しやすくなりました。幅が広くなったので、右足と左足を踏み替えやすいですし、「少しだけ振動を止める」というハーフペダルの調整もしやすい。メロディや音がたくさん並んでいる譜面を演奏しやすくなりました。
マレットにもこだわってきれいな音色を心がけて
――チャイムを演奏するときに、気をつけるべき点を教えてください。
菅原 一番上のヘッドキャップを叩くこと! ヘッドキャップを水平に叩くのが基本ですが、少し斜め上から叩くことで音色を変化させることもできます。
秋山 ハンマー(マレット、バチ)によっても音色はだいぶ違いますね。私の場合は、ずっと樹脂製のものと革をぐるぐる巻きにしたものを使っていました。ヤマハのチャイムに付属している合成樹脂製のバチ(YCHM-38P)は、楽器と一緒に開発されたそうで、とてもチャイムらしい音がしますね。
菅原 木製のマレットも好きですね。明るい音がします。たとえば、片側だけ先端部分に革や布を貼っておくことで、柔らかな音を出せますよ。
秋山 私の場合、打楽器は「バチで叩く」というよりも、肩から先を全部使って叩くようなイメージです。チャイムの場合は上にあるものを叩くので「腕全体を使う」というイメージが持ちにくいのですが、動きとしてはやはり使っているんですね。手の先だけで叩いたときとは、音色が違いますから。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
菅原 チャイムは、鍵盤打楽器のなかでも飛び抜けて他とは違う魅力を持っていると思います。僕自身、この金属が響く感じがすごく好きなのですが、だからこそ、きれいな音を心がけてほしいと思います。
ffだからって力任せに叩くと音が汚くなるし、楽器も痛めてしまうので、やはり心を込めて音楽を表現してほしいですね。
秋山 本当にそう思います。21年間鐘を鳴らし続けて思ったのは、やはり一番大事なのは演奏する人の気持ちだということですね。
お二人にご紹介いただいた楽器
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