インタビュー
2021.09.28
連載「じっくりショパコン」第9回

審査員サ・チェンとショパン~心を込めて楽譜に向き合い、音楽と対話し、関係を築く

音楽コンクールの最高峰、ショパン国際ピアノコンクール、略してショパコン。連載「じっくりショパコン」では、第18回ショパン国際ピアノコンクールをより深く楽しむべく、ショパンやコンクールの本質に迫っていきます。
第9回は、最年少審査員のサ・チェンさんにメールインタビュー! ショパンらしさとは何か、どのように追求するのか、詳しく語っていただきました。

取材・文
高坂はる香
取材・文
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

ONTOMO編集部
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

2000年に開催されたコンクールに出場し、4位に入賞したサ・チェンさん。授賞式の様子。

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1996年リーズ国際ピアノコンクールで4位に入賞、その後、2000年ショパン国際ピアノコンクール第4位、2005年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで第3位と、数々の主要コンクールで入賞したサ・チェンさん。祖国の四川音楽院ののち、ロンドン、ハノーファーで学んだピアニストです。

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前回のコンクールでは、サ・チェンさんと同じ2000年のショパンコンクールで優勝した中国のユンディ・リさんが、33歳の若さで最年少審査員をつとめたことが話題となりましたが、今回の最年少審査員は、こちら1979年生まれのサ・チェンさん。中国からの唯一の審査員でもあります。

ご自身がコンテスタントとして参加したときの心境、また、ショパンの表現にとって大切なことについて伺いました。

サ・チェン
1979年、中国生まれ。四川音楽院で学び、94年、中国国際ピアノ・コンクールで優勝、96年にはリーズ国際ピアノ・コンクールで4位に最年少で入賞を果たしている。ロンドンのギルドホール芸術院で学んだのち、世界各国で演奏活動を行ない、名立たる指揮者やオーケストラと共演。2001年からはドイツに移住してハノーファー音楽大学で学ぶ。03年、『ショパン:作品集』にてCDデビュー。

ショパンという一人の作曲家に数多の性質が内在している

——ご自身がコンテスタントとしてショパン国際ピアノコンクールに参加されたときの心境は、覚えていますか? 一番記憶に残っているのは、どの瞬間でしょうか。

チェン 時が経つのは早いものですね。2000年のあの時間は、私の人生の中で忘れられない有意義な経験です。コンクール中のたくさんのすばらしい出来事、美しい瞬間は今もよく覚えていて、ときどき、映像のように蘇ってきます。たとえば、落ち葉の色が何種類あったかなんていうことも思い出せるような気がして、考えてしまいました(笑)。

私は1次予選のステージを、ショパンのノクターン変ホ長調op.55-2で始めました。数ヶ月間、ショパンコンクールのために努力を重ねるなかで、ステージに立つ最初の1分間をとても楽しみにしていたのです。おかげでこの演奏の経験はとても豊かで充実したものになりました。

あとは、3次予選で弾いたマズルカのことも思い出しました。ステージ上で演奏しているうちに、水の中で流れていく方法をつかんで、泳ぎ始めたような感覚があったのです。精神的に自由になる感覚を掴んだ、とても興味深い発見の瞬間でした。

サ・チェンさんが演奏するショパンのノクターン変ホ長調op.55-2

——ところで、ショパンコンクールでは毎回、「いいピアニストかもしれないが、ショパニストではない」といった議論が聞かれます。実際、ショパンの意図を理解したショパンらしい演奏とは、何なのでしょうか?

チェン おっしゃっていること、わかります。ショパンは本当に特別な作曲家で、複雑な要素が多く、たくさんのパーソナリティを内在していますが、同時にすべてに優雅さと気品をもたせないといけません。

ショパンらしい演奏について、私の心に浮かんだことをあげてみると……品位、官能、古典的な要素と至高のロマンティシズムの完璧なバランス、勇敢だけれどフラジャイルで、私的で親密でもある。これらの性質がたった一人の人間の中で起こり、そして表現されているというのは、ほとんど信じられないことです。人類の歴史における、偉大な驚異と言えるでしょう。

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