インタビュー
2021.06.23
室田尚子の「音楽家の“タネ”」第4回

横山だいすけ——大好きな歌を子どもたちに届けたい! 歌のお兄さんやミュージカルへ

子ども時代に蒔かれ、すくすくと芽生えた「音楽のタネ」を探す連載「室田尚子の“音楽家のタネ”」。第4回のゲストは、NHK「おかあさんといっしょ」の“歌のお兄さん”を歴代最長となる9年間務め、卒業後はドラマや舞台、またソロアーティストとして活躍する横山だいすけさんです。
この7月にはミュージカル『オープニングナイト~桜咲高校ミュージカル部~』で主役のテッペイ先生を演じる横山さん。何よりも歌が大好きで、さらに子どもが大好きという“だいすけお兄さん”を育てた「タネ」とは?

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

写真:各務あゆみ

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横山だいすけ
千葉県出身。2006年に国立音楽大学音楽学部声楽学科を卒業。 幼い頃から歌が大好きで、小学校3年生から大学卒業まで合唱を続ける。 劇団四季時代は「ライオンキング」等の舞台に出演。 NHK Eテレの幼児番組『おかあさんといっしょ』では、番組史上歴代最長となる9年間“歌のお兄さん”を務める。 2017年4月に卒業後、ドラマ、バラエティ、CM出演、舞台、声優と活躍の場を広げ、 2019年7月にはソロアーティストとして初のオリジナルアルバム「歌袋」をリリースした。
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幼い頃から、ずっと「歌」が大好きだった

NHKの「おかあさんといっしょ」は、日本で子育てをした人でお世話にならなかった人はいないのではないか、というくらい大人気の長寿番組。かくいう私も、息子が熱を出したり咳が出たりするたびに駆け込んだ朝の小児科の待合室で流れる「おかあさんといっしょ(通称・おかいつ)」にどれだけ助けられたかしれません。息子が0歳のときに “歌のお兄さん”に就任した横山だいすけさんは、わが家の「恩人」と言っても過言ではないのです。そんな“だいすけお兄さん”が初めて「歌」というものに出会ったのは、3、4歳の頃のことでした。

横山 ウィーン少年合唱団を題材にした『青きドナウ』という映画を3歳か4歳の頃に観て、自分は金髪でも青い目でもないけれど、この人たちと一緒に歌を歌いたい、と思ったんです。今でもそのときの記憶は残っています。それが僕の「歌」というものに出会った最初の一歩でした。もともと母がとても音楽が好きで、家の中には音楽があふれていました。母は、音楽は人の心を豊かにするものだと考えていて、特にクラシックやディズニーの音楽をよく聴かせてくれました。

ウィーン少年合唱団の歌声

とにかく歌が好きになっただいすけ少年。母に勧められて、小学校3年生のときに少年少女合唱団に入団します。高校2年生で将来の進路を決めるにあたっても、この「歌が好き」という思いがきっかけとなります。

横山 高校の図書室で見つけた資料集に「幼少期にたくさんの音楽を聴くことが心の豊かさにつながる」と書かれてあり、僕は子どもも好きだったので、子どもに音楽を届ける仕事につきたいと思いました。

最初は幼稚園か保育園の先生というのを考えたんですが、そこで「おかあさんといっしょ」の“歌のお兄さん”という存在を知り、ぜひなりたいと思ったんです。

「物心ついたときにはもう歌が好きだった」という。

“歌のお兄さん”になるために

さて、実際に“歌のお兄さん”になるにはどうしたらいいのか。地元で習っていたピアノの先生から、「歌を勉強するためには音楽大学に行ったらどうか」と聞いてきた母親が、音大の夏期講習会への参加を提案。エレクトーンは習ってはいたものの、専門的な勉強をしていたわけでもなかった横山さんは、最初は躊躇しますが、おそるおそる国立音楽大学の夏期講習会に参加することになります。

横山 何をしたらいいのかもわからないので、高校の音楽の教科書だけを持って講習会に行きました。先生方は皆さんとても優しく指導してくださり、何もわからなかったからこそ、その体験がとても大きな刺激になったんですね。そして、この講習会で出会った副科ピアノの先生が、ご自身が主宰していらした合唱団に誘ってくださり、そこで音楽の基礎的な勉強をすることができたんです。

晴れて、国立音楽大学音楽学部声楽学科に入学。専攻はテノール。大学で音楽漬けの日々を送る中でも、将来の夢は“歌のお兄さん”という思いはぶれなかったという横山さん。ある時先輩からの耳寄りな情報をゲットします。

横山 “歌のお兄さん”について書かれた新聞記事を教えてもらい、その記事のコピーを机の前に貼り付けました。歴代のお兄さんの多くは芸能事務所や劇団の出身者、ということを知ったのもその記事です。お兄さん、お姉さんのオーディションは代が替わるタイミングにしかありませんから、毎年受けられるわけではありません。そこで、当時、歌のお兄さんだった今井ゆうぞうさんが劇団四季出身だったことを知り、大学4年のときに劇団四季のオーディションを受験。合格することができました。

劇団四季の『ライオンキング』を観劇した際に、ミュージカルを通しても子どもたちに歌を届けることができると確信したそう。

劇団四季では名作『ライオンキング』に出演するなど多忙な日々を送った横山さん。そこでも、子どもたちが目を輝かせて舞台に観入っている姿に、ますます子どもに音楽を届けることの素晴らしさを実感したそうです。こうして、2年間の劇団四季での生活のあと、2008年3月31日、第11代歌のお兄さんに就任しました。

横山 国立音大でも劇団四季でもそうですが、先輩や先生方などさまざまな人との“出会い”が僕の人生を作ってくれたと思っています。僕の人生は“出会い”でできているんです。

番組卒業、そして「いろいろな人を応援できる存在」へ

横山さんが番組を卒業したのは2017年4月1日。9年間というのは歌のお兄さん歴代最長期間です。卒業にあたってはどんな思いでいらしたのでしょうか。

横山 実は卒業は、僕から番組に申し出たんです。「おかあさんといっしょ」では、お兄さん・お姉さんが替わると歌のレパートリーも一新するんですね。僕としてはずっとやりたいという気持ちはありましたが、それよりも次の世代にバトンタッチすることで、今を生きる子どもたちがよりたくさんの音楽を受け取ることができると考え、卒業を決意しました。

あくまでも今の、そして将来の子どもたちのために卒業を決めた横山さん。卒業後の計画などは何もなかったといいます。

横山 僕の人生は、歌が好きで子どもが好きという感情から始まったので、番組を卒業してもその思いがあればなんでもできるのではないか、と直感的に思ったんです。「好き」という思いひとつを胸に、次の世界に一歩を踏み出した感じです。

最後の幕が閉まるまでは、歌のお兄さんに集中したという横山さん。それからは一つひとつの現場を大切にし「目の前のことを楽しむ」と心がけてきたそう。

今年は卒業から5年目にあたりますが、横山さんはドラマ、バラエティ、CM、舞台、そして声優とさまざまなジャンルにチャレンジを続けています。

横山 音楽に直接結びついていなくても、僕が何かにチャレンジし続けることで、「だいすけお兄さんは今、こんなことやっているんだ。だったら私もこれにチャレンジしてみようかな」と思ってもらえたらいいなと思っています。いろいろな人を応援できる存在であることが、今の活動の原動力なんです。

横山さんをみていると、とにかく「好き」なことを形にしてきたエネルギーを感じます。そういえば、この7月に横山さんが出演するミュージカル『オープニングナイト』も、ミュージカルが「好き」という思いがいろいろな人を動かす物語です。

横山 子どもでも大人でも、何かを「好き」という気持ち、何かを「やってみたい」という気持ちに変わりはありません。だから、例えば、今は子どもが人生の中心になっているという方でも、何かをやりたいと思うなら全然遅くはないんです。この『オープニングナイト』はそういうことを描いた作品です。

公演情報
ミュージカル『オープニングナイト~桜咲高校ミュージカル部~』

日時: 2021年7月2日~5日(team Blue)。7月8日~11日(team Red)

会場: 日本青年館ホール

出演: 横山だいすけ、三倉佳奈、福井貴一、野々村真

team Blue
武藤潤(原因は自分にある。)、杢代和人(原因は自分にある。)、大倉空人(原因は自分にある。)、瑛、中谷優心、村上貴亮

team Red
星名美怜(私立恵比寿中学)、河村花、小泉遥香(超ときめき♡宣伝部)、前田悠雅(劇団4ドル50セント)、竹内夢、杏ジュリア(超ときめき♡宣伝部)

渡邉心結、湖月わたる、ほか

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取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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