インタビュー
2022.04.24
室田尚子の「音楽家の“タネ”」第10回

作曲家で演出家!額田大志が8人組バンド「東京塩麹」や演劇カンパニーに行き着くまで

音楽家の子ども時代から将来の「音楽のタネ」を見つける「室田尚子の“音楽家のタネ”」。
第10回は、8人組バンド「東京塩麹」や演劇カンパニー「ヌトミック 」を主宰する、作曲家、演出家の額田大志さん。音楽と演劇で目指すものとは?

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

写真:各務あゆみ

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2022213日、金沢21世紀美術館で興味深いライブが行なわれました。その名も「ジャーニー 目黒→横浜→金沢」。“旅”をテーマに、ライブを重ねるごとに新しい要素が加わるという一種の“開かれた作品”で、上演したのは東京塩麹という8人から成るバンドです。

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音楽と映像の絶妙なコラボレーションに興味を持ち調べてみると、バンドのリーダーは作曲家として、また自らの演劇カンパニーを持って演出家としても活躍する額田大志さん1992年生まれ、東京藝術大学音楽環境創造科卒。

“新しい世代”を強烈に感じさせる額田さんを育てた“音楽家のタネ”に迫ります。

額田大志(ぬかた・まさし)
作曲家、演出家。1992年東京都出身。
東京藝術大学在学中に8人組バンド『東京塩麹』結成。2017年にリリースした1st Album『FACTORY』は、NYの作曲家スティーヴ・ライヒから「素晴らしい生バンド」と評された。翌年、FUJI ROCK FESTIVAL'18に出演。
2016年、演劇カンパニー『ヌトミック』を結成。「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出で、パフォーミングアーツの枠組みを拡張していく作品を発表している。演劇作家として『それからの街』(2016)で第16回AAF戯曲賞大賞、『ぼんやりブルース』(2021)が第66回岸田國士戯曲賞ノミネート。古典戯曲の演出でこまばアゴラ演出家コンクール2018最優秀演出家賞を受賞。
そのほかの活動として、令和三年度「文化庁東アジア文化交流使」として韓国の作曲家ユン・ソクチョルとオンラインで音楽制作を実施。またJR東海『そうだ 京都、行こう。』を始めとする広告音楽や、Q/市原佐都子『バッコスの信女-ホルスタインの雌』(あいちトリエンナーレ2019)などの舞台音楽も数多く手掛ける。

すべてはユニコーンから始まった

額田さんの音楽との出会いは、物心つくかつかないかの2歳の頃、お母さまが経営していたリトミック教室に通い始めたのがきっかけだったそう。しかしご自身が「本格的に音楽に目覚めた」と語るのは、中学2年のときに出会ったユニコーンでした。

額田 友だちに勧められて聴いたユニコーンに衝撃を受けて、さらにブルーハーツなど8090年代の日本のロックにハマりました。そこで友だちを集めてバンドを作って、ユニコーンのコピーとかをやってたんですが、中3の頃にその流れでオリジナル曲を作るようになりました。

ユニコーンのトップトラック

「自分の好きな音楽に出会って、初めて音楽が本当に好きになった」と語る額田さんは、高校に進むと音楽漬けの日々を送ります。

額田 高校では吹奏楽部と軽音楽部をかけもちしていたのですが、吹奏楽やバンドの曲のアレンジもしていました。徹夜で曲を作って、朝イチでスタジオに行ってひとりで練習して、それから学校に行くけど授業中はずっと寝てる、みたいな毎日でした(笑)。そのせいで成績は下から2番目とかになっちゃいまして……。

実は、僕が通っていた高校は、東大とか早稲田とかにバンバン入るような進学校で、そんな中で自分が行ける大学はと考えたときに、音楽、特に作曲がやりたいという思いがあって、藝大の音楽環境創造科受験を決めたんです。

中学の吹奏楽部ではクラリネット、高校ではサックスや指揮、編曲をしていたのがベースにあるそう。

当時の音楽環境創造科、通称「音環」の入試科目は、自己表現・小論文・音楽知識だけだったそうです。ん、自己表現……?

額田 自己表現は、なぜその作品を作ったのか、そしてそれが社会においてどういう意味を持つのか、というのが問われる試験でした。そこで僕は、五反田駅と大崎駅の発車メロディの速さの違いに注目して、両駅の駆け込み乗車率を調べたんです。そうしたら、テンポの速い五反田駅の方が少しだけ率が高かったので、こういう曲なら事故防止になるのではというメロディを作ってプレゼンをしました。

もともと音環は、社会と音楽との関わりをベースに、自分なりにどう考えるのかが求められる科。額田さんのプレゼンテーションはそうした音環の求めるものとしっかり合致していました。そのメロディ、いつか五反田駅で採用してくれないかなあ……。

藝大「学外」の活動から東京塩麹の結成へ

晴れて東京藝大音楽環境創造科へ進んだ額田さんですが、在学中は、学外での活動がメインだったといいます。このあたりも、フツウの「藝大生」とは違うところ。 

額田 早稲田大学のフュージョンサークルに参加したり、六本木にあったイベントスペースSuper Deluxe(2019年に閉店)ではライブを開催したりしていました。Super Deluxeは、閉店までの最後の数年間の関わりでしたが、活動におけるホームのような場所でした。そんな中で知り合ったメンバーと大学2年のときに結成したのが、東京塩麹です。

パーカッションのタカラマハヤ君が多摩美術大学のジャンベ部(注:多摩美では花形の部活だそう)だったのをはじめ、メンバーはみんな多摩美、慶應、明治など他大学の人ばかり。ただ、初期の頃には、同じ藝大の同期でWONKの江崎文武、打楽器の石若駿、King Gnuの常田大希なんかにも参加してもらっていました。

東京塩麹 “ふてぶて都市” Live at SuperDeluxe(2016年)

同世代の中でもライブハウスなど積極的に大学の「外」で活動をしていた仲間と出会い、音楽活動が形になっていく。小さい頃から楽器を死に物狂いで勉強して、音大に行って、そこで切磋琢磨してコンクールに出て……といういわゆる「音大生」とはまったく違う「ルート」を通ってきた音楽家・額田大志のユニークさがおわかりになるのではないでしょうか。

そして、それはそのまま、東京塩麹の音楽のユニークさにつながっている気がします。

額田 僕自身は、さっき言ったようにいわゆる「クラシック音楽」は通ってないんですよね。大学に入って、現代音楽、特にスティーヴ・ライヒなどのミニマル・ミュージックには影響を受けましたが。敢えてクラシックの中で好きな作曲家を挙げるとすれば、バッハ。あのストラクチャーにとても興味があります。

確かに、額田さんが大好きだというユニコーンも、非常に「構成的」な音楽を作ります。そして、東京塩麹のライブで見たような、音楽と映像との徹底的な統一性も、額田さんのストラクチャーへの拘泥が生み出したものといえるのではないでしょうか。

東京塩麹 単独公演『ジャーニー 目黒→横浜→金沢』Trailer

舞台音楽から演劇へ…音楽と演劇における身体性を考える

東京塩麹としての活動のほかに、額田さんは作曲家として多くの舞台の音楽を手がけています。舞台音楽の魅力は2つある、と額田さんは語ります。

額田 まず1つ目は、普段自分がやらないことを試すことができるということです。自分の音楽はバンドでできているので、舞台では演出家がやりたいことを媒介するのが役割です。

例えば、舞台上で行なわれていることがそのままでは観客に伝わりにくいときに、音楽がその橋渡しになる、というところに興味があり、楽しんでいます。

2つ目は、苦手なジャンルの音楽を作れること。要求されれば、普段はまったく聴かないようなジャンルの音楽でも作らなければならないので、逆にそれが僕自身にとってはチャレンジになるんです。

舞台音楽から舞台そのものにも興味が出てきたという額田さん。2016年には演劇カンパニー「ヌトミック」を結成。演出家としての活動もスタートさせます。

ヌトミック『それからの街』(作・演出:額田大志)

額田 例えば、大学では年に1回、作品発表の機会がありますが、そのために取れる時間というのは、ごく限られているんですね。もっと長い時間をかけてひとつのものを創るフォーマットはないのか、と考えたときに、舞台芸術にたどり着いたんです。

額田 さらに、僕は演奏するときの身体のあり方というものにとても興味があったんですが、演奏家の人に「なぜその動きをするのか、意味を考えてやってください」と言ってもなかなか難しい。むしろ、そうした舞台における身体を意識的に考えられるのは俳優だ、ということに気づいたんです。

もちろん、俳優の人も自然にできるわけではありません。音楽は抽象度が高いので、譜面に書いてあれば迷わずそのレールに乗れるけれど、言葉には意味があるので、身体性を成立させていく過程は難しいんですが、反面それが面白くもある。

演劇カンパニーでは意識的にそういうテーマを掲げ、俳優とディスカッションしながら実現していこうとしています。

演奏、作曲から舞台創造へと自らのフィールドを広げてきた額田さん。この連載は“音楽家のタネ”というタイトルですが、額田大志という人は、単なる「音楽家」ではなく、「表現する人」というほうが適切なのかもしれません。

「最近は自分のやりたいことをやれるようになってきたので、今後はより多くの人に聴いてもらうためにはどうしたらいいのかを考えたい」と語る額田さんの音楽、そして表現活動に注目し続けていきたいと思います。

取材・文
室田尚子
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室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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