インタビュー
2025.01.29
舞台『マスタークラス』主演・望海風斗インタビュー

2025年春、望海風斗が演じるマリア・カラスのマスタークラスを受講する!

20世紀の伝説的な名歌手マリア・カラス(1923-1977)が、音楽院で教えていたことを知っていますか?
十数年の短い全盛期を駆け抜けるように活動した後、1971年から72年にかけて、ニューヨークのジュリアード音楽院で後進の指導をつとめたカラス。当時の貴重な講義録をもとに創られた演劇『マスタークラス』は、1996 年度のトニー賞・最優秀演劇作品賞を受賞しました。
2025年3月~4月、この名作が日本で26年ぶりに再演されます。教師になったマリア・カラスが、自らの歌への信念や想いを余すところなく生徒にぶつけ、歌手の道へと導いていく数々の名場面は、彼女の「マスタークラス」を受講しているかのようなリアリティに満ちあふれています。
マリア・カラスを演じる俳優・望海風斗さんは、宝塚歌劇団の元雪組男役トップスターであり、2021年の退団後も『INTO THE WOODS』や『next to normal』などのさまざまなミュージカル作品で活躍されています。自らも「歌」とともにキャリアを歩んでこられた望海さんは、この作品を、あるいは主人公のマリア・カラスをどのようにとらえていらっしゃるのでしょうか。お話を伺いました。

取材・文
かげはら史帆
取材・文
かげはら史帆 文筆家

東京郊外生まれ。著書『ニジンスキーは銀橋で踊らない』(河出書房新社)、『ベートーヴェンの愛弟子 – フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)、『ベートーヴェ...

写真:各務あゆみ

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──望海さんは、宝塚歌劇団雪組の退団公演『fff -フォルティッシッシモ- ~歓喜に歌え!~』でベートーヴェン役を演じていらっしゃいます。

ベートーヴェンとマリア・カラスの両方を演じる舞台人はなかなかいないと思いますが、演じる上で何か違いを意識されますか?

望海 現代では、ベートーヴェンと会ったことがある人はもういないですし、作品の演奏も人それぞれの解釈によります。ですが、マリア・カラスは録音も映像も残っていて、実際に生の歌声を聴いた方もいます。その意味では、「本人を知ってる人がいる」という怖さはありますね。自分なりの解釈でいいわけじゃない、ということはどうしても意識してしまいます。

でも、ひとつのことにこだわりをもって突き詰めていくという意味では、両者が似ている部分もあると思います。

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──マリア・カラスはどのような人だと思いますか?

望海 自分の人生をさらけ出せる人だと思います。「Mut(勇気)」という言葉が作中に登場しますが、それは単に頑張る勇気ではなく、自分をさらけ出す勇気という意味だと思います。歌手自身が心をかき乱されているからこそ、観ている人の心もかき乱される。たとえば笑いながら歌っているのに、それを観てすごく泣けてくることがありますよね。目に見えない人生が観客に届くからこそ、ひとはカラスに魅了されるのではないでしょうか。

そして、自分の才能に甘んじずに何かを渇望し、努力する人でもありました。そういう人だからこそ、自分が教える側になってもつい本気になってしまうんでしょうね。

──まもなくお稽古が始まるとお伺いしました。役作りとして何かご準備をされていますか?

望海 イタリア語を学んだり、実際に歌うわけではありませんがオペラの発声を学んだり、ドキュメンタリーや映画を観たり、録音を聴いたりしています。『マスタークラス』の元になっている講義録も聴きましたが、途中で笑いが起きるシーンもあり、カラスは歌に関わることを本当に楽しんでいたんだろうなと感じました。

また、周りの親しい人からは「自信がなかった」「弱い人だった」とも言われていたそうで、それを知ってどこかほっとしました。そういう一面があるからこそカラスはこういう人なんだ、ということが紐解かれた感じで、役作りの参考になりました。

──今回はご自身初の「ストレートプレイ」(歌唱を含まない演劇)とのことですが、これまで演じてこられたミュージカルとの違いはありますか。

望海 ミュージカルでは、キャラクターの心情をお客さまにだけお伝えするツールとして歌が用いられることが多いです。今回はいわゆる会話劇ではなく、カラスの独白のシーンが多い特殊な作品なので、その部分で心情を表現していけばいいのかなと考えています。その意味ではこれまでとかけ離れているわけではないのですが、歌がない分セリフが多いので、覚えるのがとても大変です(笑)。

────台本の情報量が本当にすさまじいですよね。実際の講義録に基づく、さまざまな歌手論や音楽論が登場します。

望海 私自身にとっても突き刺さる言葉がたくさんあります。たとえば冒頭では、歌手は作曲家が生み出したものにどれだけ真摯に向き合い、音楽に身も心も服従させるかが大事、と語られています。演者が作品をどういう風に作っていくかを、カラスの言葉を通して知ることができます。

また、この舞台は単に芝居をお客さまに届けるものではないと思っています。お客さまは公開授業を見学しに来た人でもあるので、お客さまが客席に入らないと完成しない部分も大きいのかなと。

────この舞台を観に来た人は、マリア・カラスのマスタークラスの聴講生になれるんですね! 音楽や歌を勉強している人にとっては必見ですね。

望海 カラスのマスタークラスは、指導を受けている生徒にとっては、トラウマになってオペラをやめてしまうんじゃないかというくらい厳しい体験かもしれません。カラスのようにうまく歌いたい、技術的なことを教わりたいという思いできた生徒が、「まず自分自身がないことには何もできない」という教えを突きつけられるので。若い人にはまだ理解できない言葉も多いと思います。でも私自身、若い頃にショックを受けた厳しい言葉の意味や、その言葉をくださった方の優しさを、あとになって理解できたことがたくさんあります。

音楽に限らず、仕事や生活に対して役立つ教えもあります。人が注意されているのを見て我が振りを直すというか、自分に当てはまることもたくさんあるはず。マリアからの厳しい言葉をいっぱい持って帰ってもらいたい。

芝居を見るというより、ぜひマスタークラスを「受けに」いらしてほしいですね。

──開幕を心待ちにしています!

マスタ―クラス
公演情報
マスタ―クラス
原作: テレンス・マクナリー 
翻訳: 黒田絵美子 
演出: 森新太郎
 
キャスト:
望海風斗/池松日佳瑠、林真悠美、有本康人、石井雅登/谷本喜基 
スウィング:
岡田美優、中田翔真 
 
日程・会場
東京: 2025年3月14日(金)~23日(日)世田谷パブリックシアター
長野: 2025年3月29日(土)~30日(日)まつもと市民芸術館主ホール
愛知: 2025年4月5日(土)~6日(日)穂の国とよはし芸術劇場PLAT
大阪: 2025年4月12日(土)~20日(日)サンケイホールブリーゼ 
 
料金
東京: S席11,000円 A席9,500円
長野・愛知: 10,000円
大阪: 11,000円
U25 6,000円 ※観劇時25歳以下対象(当日指定席券引換・座席数限定・要本人確認書類)
一般発売
2025年2月1日(土)10:00
取材・文
かげはら史帆
取材・文
かげはら史帆 文筆家

東京郊外生まれ。著書『ニジンスキーは銀橋で踊らない』(河出書房新社)、『ベートーヴェンの愛弟子 – フェルディナント・リースの数奇なる運命』(春秋社)、『ベートーヴェ...

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