インタビュー
2026.03.20
ドキュメンタリー映画『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』

『左手のフルーティスト』畠中秀幸のドキュメンタリー映画が全国6都市で公開

『左手のフルーティスト』(音楽之友社刊)の著者でフルート奏者・建築家の畠中秀幸さんは、2011年、突然の脳内出血に襲われ、今もなお右半身にまひが残っています。
畠中さんに密着したドキュメンタリー映画『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』の公開にあわせ、本作の見どころや今後の展望を伺いました。

Ⓒ HBC

この記事をシェアする
Twiter
Facebook
続きを読む

フルート奏者・建築家として活躍する畠中秀幸さんに密着したドキュメンタリー映画『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』が、「TBSドキュメンタリー映画祭2026」で上映される。2011年、42歳のときに突然の脳内出血で倒れ、後遺症で右半身にまひが残る畠中さん。しかし、病気に絶望することなく、「むしろこの体になったことのほうがラッキー」と語る畠中さんのもとには、フルート奏者としても全国から演奏や共演依頼が次々と舞い込んでいる。そんな畠中さんのさらなる魅力を探るべく、インタビューを敢行。

闘病中の畠中さんを支えた同志について、創作の原点から人生観まで、エネルギッシュな言葉で語ってくれた。

畠中秀幸(はたけなか・ひでゆき)
1969年広島県生まれ。9歳からフルートをはじめ中学3年より「個人コンクール北海道大会」で3年連続1位。京都大学工学部建築学科大学院修士課程修了。2011年脳内出血で右半身まひに。2024年『左手のフルーティスト』(音楽之友社)を刊行。
現在、左手のフルーティスト・建築家として活躍。

――現在、北海道の長沼町を拠点に活動されている理由を教えてください。

畠中 建築では、ミニマリズムといって、すごく単純な形がぼくは好きなんです。北海道は寒いので、建築の表面積が小さいもの、すなわちシンプルなものが好まれる傾向にあります。複雑な形だと表面積が大きくなるので、熱損失がどんどん出てしまう。気候風土が持っている方向性と、ぼくのやりたい建築の方向性が合っていると感じています。

音楽では、もともと音楽の仲間が北海道にいたことが大きいのと、空気が乾燥しているので、音の飛びがすごくいい。さらにいうと、北欧、特にフィンランドが好きです。フィンランドの作曲家、ジャン・シベリウスと、アルヴァ・アアルトという有名な建築家を尊敬しています。北海道は、風景が似ているだけでなく文化的な相似性を感じています。

憧れの大先輩から受け取った言葉

――映画の冒頭で「障がいがあってラッキーだった」と語る姿が印象的でした。入院中、芸術家の端聡さんにかけられた一言で「表現の幅が広がった」と仰っていましたが、ご自身にとって端さんはどのような存在ですか。

畠中 ぼくが32歳か33歳の頃に、アート関係の仲間の紹介で端さんと知り合いました。北海道文化財団で、端さんを筆頭に若手のアーティストを集めて、1つの舞台芸術を作ろうという取り組みがあり、そこで初めてお会いしたんです。

端さんは、札幌国際芸術祭で坂本龍一さんと一緒に活動したり、現代アーティストとしてかなり有名な方。憧れの大先輩ですよ。かっこいいな、あんな風になりたいなとずっと思っていて。哲学もわかる方で、いろいろな話をしてきました。そういう前提の中で、ぼくが病気で倒れた2日後に、「彼にはこういうことを言っても大丈夫だろう」と思ってくれたんでしょうね。「ハンディキャップじゃなくて、アドバンテージだと思っていいんだよ」と言ってくれた。ぼくの中では端さんとずっと積み上げてきたものがあったからこそ、その言葉を受け取ることができたのだと思います。

――沖縄、そして地元の広島と、戦争の傷跡が残る地で慰霊演奏を行なうシーンもありました。

畠中 おそらく沖縄や広島の方々は大変な経験が受け継がれているので、こちらの伝えたいことがすぐに伝わるというか、感性を持っていらっしゃるんだなと思いました。やはり強烈なメッセージが伝わったんだと思います。観客の方とお話をしたら、「自分がフルートを吹いているような感じがした」とおっしゃっていて、本当にありがたく、嬉しかったです。

ドキュメンタリー映画『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』予告

――今回の密着取材を受けたことで、新たな気づきはありましたか。

畠中 「まひがある右側」と「そうではない左側」とが同居しているという図式、マスコミとの関係性において外側から客観的に見てくれる視点を再認識できてすごく勉強になりました。ぼくは元気な体と、元気ではない体をもつ2人の自分が対話しながら生活していますが、最近もう一つ、ぼくの中では意思決定機関みたいな3人目の自分という視点が出てきています。そのような認識をもてたことも、複数の視点が複雑に絡み合ったのは貴重な経験でした。

時崎監督は、面白い人です。ちょっと天然なところもありますが(笑)。ぼくは結構難しい人間なのかもしれませんが、弱音を吐かずにわからないことはわからないと言って、食らいついてきてくれたので「この人は本気なんだな」と思いました。

自分で設計したホールで仲間と音楽を

――建築や音楽以外で、普段どのようにリフレッシュされていますか。

畠中 もともと建築も音楽も仕事だと思っていないんです。だから、リフレッシュする必要がない。フルートを吹いたり、建築を考えることがもうすでにリフレッシュされている感じ。かっこよくないですか(笑)?

ただ、やっぱり人間なので飽きることもありますよね。たとえば、建築をやっていて「ちょっと難しいところにハマってきたな」というときには音楽をやってリフレッシュする。音楽も同じで、フルートを練習していて悩み始めたら、建築をやるんです。そうすると、建築が音楽を助けてくれたり。

何が好きかで言えば、車、ガンダム、仏像、絵画が好きですね。とくに車で移動することがすごく好きです。体が思うように動かないからかもしれません。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

畠中 今後は、長沼に作っている「アートビレッジ」を拡張していきたいと思っています。今は、次にできる予定の美術館の設計を端さんと一緒に進めているところです。夢としては、室内楽でもリサイタルホールでも良いので、自分でホールを設計して、そこで音楽仲間と一緒に演奏ができたら、人生の1つのゴールかなと。そこにたどり着くまでは、絶対に諦めません。言い続けたら絶対にうまくいくと思っているので(笑)。演奏活動と設計活動の両方とも質を落とさないように、頑張りたいなと思っています。

上映スケジュール
映画『矛盾に抱かれて 音楽 建築 哲学 悲哀 循環』

TBSドキュメンタリー映画祭2026

【東京】2026年3月31日(火)16:00 ヒューマントラストシネマ渋谷

※東京以外の会場での舞台挨拶の有無・スケジュールは、各劇場公式サイト・映画祭公式サイトをご確認ください。

 

関連書籍

左手のフルーティスト
畠中秀幸 著

 

2011年5月、音楽を愛し、将来を嘱望された建築家が脳出血に襲われる。右半身の機能を失った彼は望みを捨てず、左手のみで動かせる木管フルートを特注し、ついに「左手のフルーティスト」として舞台に立つ。

TBS全国ネットでも紹介された「左手のフルーティスト」畠中秀幸の、病に倒れてからそれを乗り越えるまでの数々の苦悩や喜びを描く。巻末にピアニスト舘野泉との特別対談を収録。2024年、音楽之友社。

 

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ