インタビュー
2021.12.30
音楽ファンのためのミュージカル教室 第22回

原田慶太楼がミュージカル愛を語る~インテグレーション(統合)だから楽しい!

音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第22回は、ミュージカルを心から愛する原田慶太楼さんにインタビュー! あふれ出して止まらないミュージカルへの想いを2回に分けてお届けします。まずは、ミュージカルの歴史を振り返りながら、ミュージカルの魅力や特徴をお話しいいただきました。

小学生の頃からミュージカル大好き!
原田慶太楼
小学生の頃からミュージカル大好き!
原田慶太楼 指揮者

現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジアを中心に目覚しい活躍を続けている期待の俊英。シンシナティ交響楽団およびシンシナティ・ポップス・オーケストラ、アリゾナ・オペラ、リッチ...

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

写真:各務あゆみ

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

東京のインターナショナル・スクールでミュージカルに出会い、高校生のとき、ミュージカルのピット・ミュージシャンになりたくてアメリカに渡った原田慶太楼。その後、指揮者の道を歩むことになるが、ミュージカル愛は今も失われていない。2022年には、1月に神奈川フィルハーモニー管弦楽団と、3月にNHK交響楽団とミュージカルの名曲を演奏する。ミュージカルへの熱い思いを語ってもらった。

続きを読む

歴史から振り返るミュージカルの魅力

原田 ミュージカルの歴史をリサーチしてみて初めて知ったんだけど、最初のアメリカのミュージカルって、1808年だったのね。『Indian Princess(La Belle Sauvage)』(インディアンの王女、または美しき野蛮人)といって、インディアンのお姫様ポカホンタスの出会いの物語。アメリカの物語を語った、歌の付いた、初めての作品だったそうです。

ミュージカルって、いろんなものが混ざっているじゃない、メインにはオペレッタがあって、ミンストレル・ショー(黒人に扮した白人による、音楽・踊り・寸劇を織り交ぜたアメリカのエンターテインメント)、ヴォードヴィル(17世紀にパリ発祥の演劇形式で、アメリカでは歌・踊り・手品などのショーを指す)がくっついたというように。歌がただのエンタテインメントではなく、歌の内容にくっついて物語を語るのがミュージカルの魅力だと思うのね。それに楽しいしね。

古いものだったら、まず、『ショウ・ボート』(1927)』。

——『ショウ・ボート』は最初の本格的なミュージカルといわれていますね。

原田 20年代に、ジュ―リーが歌う、「Can’t Help Lovin’ Dat Man(あの人を愛さずにはいられない)」は、本来は黒人が歌う曲なのに、白人(実は混血)のジューリーが歌うのは、当時絶対に衝撃的だったと思うし、そういうところにミンストレルのキャラクターが残っていると思うのね。ミンストレルなんて、現代だったら、超差別エンタテインメントじゃない。白人が黒人の格好をしてその時代の話をしたり、今から見たら、BLMどころじゃない酷い差別の時代。

『ショウ・ボート』より「Can’t Help Lovin’ Dat Man(あの人を愛さずにはいられない)」

原田 現代にくると、ソンドハイムの『ジョージの恋人(日曜日に公園でジョージと)』(1984)とか。あのミュージカルは、ミュージカルの歴史のターニング・ポイントだったと思うの。「Finishing the Hat(帽子を描き終えたら)」は、今までとは反対のことをやって、人に嫌われても、自分はアーティストなのだから、自分の道を進むという歌。それって、新しい時代のミュージカルの原点だと思う。天才的な作品。

『ジョージの恋人(日曜日に公園でジョージと)』より「Finishing the Hat(帽子を描き終えたら)」

そして、次は『レント』(1996)。「Seasons of Love(愛の季節)」が有名だけど、エイズやドラッグという今起きている現実を、若者たちにミュージカルというメディアを使って伝えている。『レント』は、チケットの売り上げとか気にせず、嫌われても、現実や今思っていることを伝えるミュージカル。

『レント』より「Seasons of Love(愛の季節)」

原田 ミュージカルって何って? というと、インテグレーション(統合)だと思う。劇や音楽や踊りや歌があって、今起きていることを恥ずかしがらないで語る。そういうところが面白い。

ミュージカルって、前半で必ず主人公が「“I want” song」を歌うんだよね。「私はこれがほしい」「私はこうなりたい」「私はがんばる」みたいな。

オペラって、そういうのあまり語らないじゃない。オペラって幕が開いたときには、お客さんは(予備知識として)すでに登場人物の人間関係とか人間性とか知っているけど、ミュージカルは、それを説明してくれる。私が何者かを語る。独特だよね。

——その意味で、ミュージカルって、親切ですよね。

原田 そうそう。マイ・フェア・レディ(1956)の「Wouldn’t It Be Loverly?(素敵じゃない?)」でも、「私は何者」「私は何をしたい」「私はこうなりたい」を最初に語ってくれるから、いっさい『マイ・フェア・レディ』の予備知識がなくても、この曲を聴けば、これから2時間、こういう話なんだって、すごくわかるじゃない。

『マイ・フェア・レディ』より「Wouldn’t It Be Loverly?(素敵じゃない?)」

ミュージカルの特徴は、感情を表現する歌と社会問題も扱うこと

——ミュージカルって、何も知らないで見に行っても楽しめるように作ってありますよね。オペラは前もって勉強しておかないと楽しめなかったりする。

原田 ミュージカルって会話が気づいたら歌になっている。セリフだけでは表現できない、エモーションの高まりを歌で表現する。そして、詩を音楽で表現している。

ミュージカルは、音楽で感情を表現するのが上手だと思う。『スウィーニー・トッド』(1979)のオーケストラだけの音楽でも、あれだけ恐い音楽ってなかなかないじゃない。あれっ、床屋さんなのに人を殺すんだ~とか驚く。音楽であれだけ恐くなれるのはすごいなあと思う。

『スウィーニー・トッド』(スティーヴン・ソンドハイム作詞作曲)サウンドトラック

原田 もう一つソンドハイムで、『カンパニー』(1970)の「Another Hundred People」もエモーションが爆発するのよね。

『カンパニー』より「Another Hundred People

原田 ミュージカルは、オペラとちがって、今起きていること、現在の社会問題を扱う。『南太平洋』(1949)では人種差別の問題を、『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)ではプエルトリコなどの移民問題を扱っている。

そのあと、『レント』では、同性愛、エイズ、ドラッグ、貧困。あそこまでやるかと思うし、オペラが触れないことを触れるのはすごいなあと思う。『レント』はプッチーニの《ボエーム》から来たミュージカルなんだけど。でも、『レント』のあとのミュージカルは、現実を取り上げ、行き過ぎて、上手くいかなくなった。

 『南太平洋』(リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞)『ウエスト・サイド・ストーリー』(レナード・バーンスタイン作曲、スティーヴン・ソンドハイム作詞)、『レント』(ジョナサン・ラーソン作詞作曲)

原田 でも、『アベニューQ』(2003)は超面白い。セサミストリートのようなパペットを使うミュージカルで、一見、子どものためのミュージカルのように見えるけど、扱っているのは社会問題ばかり。人種差別、戦争、政治のこと。でも大爆笑なんだよ。キャッチ―な曲で覚えさせて、歌わせる。天才的だと思う。

『アベニューQ』( ロバート・ロペス作詞作曲)2o1o年来日公演時のPV

原田 1960年代にロックが入ってきて、『ヘア』(1967)が作られるけど、70年代のブロードウェイは低迷。1980年代に『キャッツ』(1981)などのロンドン・ミュージカルが出てくる。でも、『キャッツ』とか未だにどういう話かよくわからない(笑)。『オペラ座の怪人』(1986)とかもスペクタクルとしては面白いけど。

劇団四季による『オペラ座の怪人』PV

——ロンドン・ミュージカルでは、『レ・ミゼラブル』(1985)や『ミス・サイゴン』(1989)も出てきますね。

原田 90年代は、ディズニーのミュージカルの登場。ディズニーはブロードウェイの救世主だと思う。ミュージカルを物語がわかるものに戻した(笑)。

1930年代に『白雪姫』(1937)がディズニーの初めての長編アニメーションとして作られ、ブロードウェイの人たちがハリウッドに行き、ディズニーのミュージカル映画を育て、1990年代にディズニーがブロードウェイを助けに戻って来るという歴史は美しいと思う。クラシックなミュージカルの作り方はディズニーが1930年代からずっとやってきたことだから。

『ライオン・キング』(1997)を最初に見たとき驚いたね。「『キャッツ』みたい、だけどちゃんと物語がある」(笑)。『ライオン・キング』は何度見ても楽しい。そして『アラジン』(2011)。今、ブロードウェイで僕の知り合いが『アラジン』でアラジン役をやっていて、この間観に行ったけど、楽しいよね。

ディズニー・オン・ブロードウェイ『ライオンキング』PV

——最近では『アナと雪の女王』(2018)もすごかった。

原田 ほかに『美女と野獣』(1994)や『リトル・マーメイド』(2008)も。

——オペラとの違いとして、ミュージカルではPA(音響機材)を使うことや、歌唱法が違うこともあげられます。そういうの気になります?

原田 あんまり気にならない。会場にもよるから。もともとオペラは、小さい劇場で歌うものだった。メトロポリタン・オペラとか東京文化会館とか、あれだけ広いホールで、マイクなしで歌うのは大変なことだと思う。もちろん、マイクなしで声を出せる人もいる。ドミンゴもそうだったし、今のトップスターたちもそうだけど。

オーケストラが最小限の音に抑えるよりも、声に少しPAを入れるほうがオーガニックに聴こえるように思う。お客様にとっても、そのほうがコンフォタブル(快適)だし、PAを使うほうがノドが疲れず、歌手のキャリアにとってもいいと思う。オペラは休養のため2~3日、公演の感覚を空けるけど、ミュージカルは1000日連続でも上演できる。オペラが昔のやり方にこだわっているのは物足りないかな。

1月と3月の演奏会ではミュージカルへの想いがつまったプログラムを指揮

——2022年1月には神奈川フィル、3月にはN響とのコンサートでミュージカルを取り上げますね。

原田 神奈川フィルとのコンサートは、シルビア(・グラブ)と一緒にやるので、「何やりたいの?」ってきいて、彼女の魅力が一番よく伝わるプログラムを考えました。シルビアは、インターナショナル・スクールの先輩で、これまでにも共演しています。彼女はエンターテイナー。英語が母国語だし、超うまい。

有名な曲のほか、なかなか日本で演奏される機会のない『シカゴ』、『イントゥ・ザ・ウッズ』、『ニューヨーク・ニューヨーク』が聴けるのがいい。『美女と野獣』などのディズニーの曲も入れました。小さい子からお年寄りの方まで、絶対に1曲は「これ好き!」という曲が入っている、オール・エイジで楽しめるプログラムです。

N響とのコンサートは、まずBunkamuraから「アメリカ」というテーマを提案されて、小曽根真さんがガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》をやりたいということだったので、ガーシュウィンに引っ掛けて、日本であまり演奏されない《ポーギーとベス》をやろうと思いました。《ポーギーとベス》は自分が超得意なオペラ&ミュージカルです。

ガーシュウィン:オペラ《ポーギーとベス》

原田 あとは、ミュージカルつながりで、《キャンディード》序曲、『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクションズ、それから『サウンド・オブ・ミュージック』。ポップス的なハッピー・プログラムです。『ウエスト・サイド・ストーリー』は、シンフォニック・ダンスではなく、敢えてメイソン版にしました。

——メイソン版のほうが「マリア」や「トゥナイト」などの有名な曲が入っていますよね。

原田 そう、メイソン版のセレクションズのほうが聴きやすいかなと思います。シンフォニック・ダンスみたいに重くないし。シンフォニック・ダンスのほうが、楽譜が難しく、リハーサルもたいへん。先日も国立音楽大学のオーケストラと演奏したけど、これはどのプロ・オーケストラとやっても大変だと思う。

『ウエスト・サイド・ストーリー』より「マリア」、「トゥナイト」

原田 『サウンド・オブ・ミュージック』は、日本にいながら、英語でしか聴いたことがありませんでした。「ドレミの歌」は、僕は、ドは雌鹿(doe)で、レは太陽(ray)としか覚えてないので、日本の人とここでコミュニケーションがつながらなかった(笑)という衝撃的な思い出があります。言葉がわからないときから『サウンド・オブ・ミュージック』を聴かされ、作品のワールドに入っていたから、思い出深いミュージカルですね。

映画『サウンド・オブ・ミュージック』より「ドレミの歌」のシーン

まだまだ盛り上がるミュージカル・トーク! 後編は1月中旬に公開予定!

演奏会情報
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 県民名曲シリーズ第13回

日時: 2022年1月9日(日)14:00開演

会場: 神奈川県民ホール

出演: 原田慶太楼(指揮)、シルビア・グラブ(歌)

曲目: ミュージカル『シカゴ』より「All that Jazz」、映画『ピノキオ』より「星に願いを」、チャイコフスキー/バレエ音楽《眠れる森の美女》より「ワルツ」、映画『美女と野獣』より「美女と野獣」、映画『風と共に去りぬ』より「タラのテーマ」、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』セレクション、映画『スター・ウォーズ』より「メインタイトル」、映画『007 スカイフォール』より「スカイフォール」、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より、ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』より「No One is Alone」、バーンスタイン/ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクション、映画『ニューヨーク・ニューヨーク』より

料金: S席6,000円、A席4,500円、B席3,000円

詳しくはこちら

NHK交響楽団 第118回 オーチャード定期

日時: 2022年3月12日(土)3:30開演

会場: Bunkamuraオーチャードホール

出演: 原田慶太楼(指揮)、小曽根真(ピアノ)

曲目: バーンスタイン/《キャンディード》序曲、バーンスタイン(メイソン編)/『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクション、ガーシュウィン/《ラプソディ・イン・ブルー》、ロジャース&ハマースタインII(ベネット編)/『サウンド・オブ・ミュージック』、ガーシュウィン(ベネット編)/《ポーギーとベス》交響的絵画

料金: S席8,800円、A席7,300円、B席5,700円、C席3,600円

詳しくはこちら

小学生の頃からミュージカル大好き!
原田慶太楼
小学生の頃からミュージカル大好き!
原田慶太楼 指揮者

現在、アメリカ、ヨーロッパ、アジアを中心に目覚しい活躍を続けている期待の俊英。シンシナティ交響楽団およびシンシナティ・ポップス・オーケストラ、アリゾナ・オペラ、リッチ...

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ