原田慶太楼の音楽家人生の始まりはミュージカル~理想は「ジャンルレスな音楽の世界」
音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第23回は、ミュージカルを心から愛する原田慶太楼さんにインタビュー! 後編では、インターナショナル・スクール時代からのミュージカル愛の変遷、そして、好きなミュージカルBEST3や今後の展望についてお話しいただきました。
東京のインターナショナル・スクールでミュージカルに出会い、
インターナショナル・スクールでミュージカルに出演し、ピット・ミュージシャンに憧れて渡米!
——原田さんは幼い頃からインターナショナル・スクールに通っていて、そこでミュージカルに出会ったと聞きました。
原田 アメリカのハイスクールでは、毎年、全員でミュージカルをつくりあげるのが伝統になっています。先生も入って、コリオグラファー(振付師)がきたりして、体育館に舞台を作って、コスチュームも自分たちで作って、お客さんを入れていましたね。映画やブロードウェイで『ハイスクール・ミュージカル』というミュージカルが大ヒットしたのも、みんな高校でミュージカルをやってきたという歴史があるから。
原田 うちの学校で上演したのは、『ウエスト・サイド・ストーリー』、『オクラホマ』、『シカゴ』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『ミュージック・マン』。『グリース』なども。
僕は、中学生のときはピットで楽器を吹いてたけど、高校生のときは歌って、踊ってた。『ガイズ・アンド・ドールズ』や『ウエスト・サイド・ストーリー』、『ミュージック・マン』に出演しました。
『ガイズ・アンド・ドールズ』(フランク・レッサー作曲)
——楽器を始めたのは中学生の頃?
原田 ピットに楽器できる子が集まって演奏していたけど、でも演奏のクオリティは高くないよ(笑)。
中学生のとき、そのためにサックスを始めました。先生につかず自己流だった。サックス、クラリネット、フルート、オーボエ、ホルン、何でもやっていたよ。下手くそだったけど、楽しくて。
——それで、アメリカに渡った。
原田 ミュージカルのピット・ミュージシャンになりたかったし、自分はマルチに楽器ができたから。サックス吹きながら、左手はシンセサイザー弾いてたりって、楽しそうじゃない。
——でも、なんでピット・ミュージシャン?
原田 あんまり歌が上手じゃないのよ。で、歌が上手じゃないとステージに立てないなというのがわかって、でも、ミュージカルの仕事はやりたかったから。今、考えれば、ミュージカルだったら、演出家とか総合監督とか、すごくやりたいなと思う。
——曲を書きたいというのはなかったですか?
原田 それはない。作曲はするし、ミュージカルっぽい曲も書いたことあるけど、それの天才たちがたくさんいるから。ソンドハイムとかバーンスタインとか聴いちゃうと、僕は書かなくていい(笑)ってなっちゃうよ。
小さいときは漫画家になりたかった。物語を自分で考えて絵を描いたり、4コマ漫画とか、よくやってましたね。
好きなミュージカルBEST3~人生を変えたバーンスタインとの出会い
——それでは、大好きなミュージカルを3つあげるとすると何をあげますか?
原田 『ウエスト・サイド・ストーリー』。この作品がなかったら、自分は音楽家をやってなかったと思う。クラシックも何も知らない僕には衝撃的だった。初めて学校で見たミュージカルが『ウエスト・サイド・ストーリー』だった。インターナショナル・スクールの小学1年生だったとき、学校の高校生たちがやっていたミュージカルが『ウエスト・サイド・ストーリー』だったというのは運命的な出会いだった。それがきっかけになった。
『ウエスト・サイド・ストーリー』(レナード・バーンスタイン作曲)
原田 レナード・バーンスタインという人間が、まさかニューヨーク・フィルやウィーン・フィルを振っているマエストロだということは知らなかった。“『ウエスト・サイド・ストーリー』のバーンスタイン”と“指揮者のバーンスタイン”がつながったときは超衝撃的だった。17歳くらいまでは、“バーンスタイン=『ウエスト・サイド・ストーリー』の作曲家”でしたから。クラシック音楽に進もうと決めてから、バーンスタインってスゲーと(笑)。今となれば、全部がくっついている。だから伝記で一番読んで知るのはバーンスタイン。すごい人生だよね。
『ウエスト・サイド・ストーリー』で、バーンスタイン(作曲)、ロビンズ(演出・振付)、ソンドハイム(作詞)のトリオが一緒に仕事していたっていうのも、本当にすごいこと。
——バーンスタインは、『ウエスト・サイド・ストーリー』が開幕した1957年に、ニューヨーク・フィルからオファーが来て、指揮者を取るかミュージカルを取るかで悩んで、ニューヨーク・フィルの音楽監督になった。
原田 バーンスタインが指揮者よりもミュージカルの道を選んでいたら、ソンドハイムは曲を書かなかったかもしれないと思う。書けなかったんじゃない。「バーンスタインがミュージカルに来なくて良かった」とソンドハイムは思っていたと思うよ(笑)。ソンドハイムはバーンスタインみたいのは書けなかったけど。スタイルが違うからね。でも、ブロードウェイにバーンスタインがいなかったからこそ、ソンドハイムはソンドハイムになれたと思うんだよね。
原田 次に、『レント』かな。これだけの社会現象を起こしたミュージカルはすごいと思う。僕はオペラのなかでは《ラ・ボエーム》が一番好きだから、それが「ミュージカルになるとこのアングルでいくんだ」というところが面白い。
『レント』(ジョナサン・ラーソン作曲)
原田 3つ目は、ディズニーものを入れたいから、『ライオン・キング』。生の『ライオン・キング』を見て、怒って帰る人はいないと思う。
『ライオン・キング』(ハンス・ジマー音楽、エルトン・ジョン作曲)
——最初の「サークル・オブ・ライフ」は圧倒的ですよね。
原田 あれ見たら、生きていて良かったと思わない? 今日があって良かったと思うもの。こっちかも、あっちからも(動物たちが)出てくるんだ!(笑)って。
あと、『ウィキッド』もすごいよね。たぶん人生で一番見ているミュージカル。10回以上見ている。シカゴやブロードウェイでは、当日券を10ドルで変えるチケットがあって、それで『ウィキッド』を何度も見た。『オズの魔法使い』が始まる前の物語。音楽が面白いし、演出も最高だし、人間は飛んでいるし(笑)。人間が飛んでいるミュージカルを見たのは『ウィキッド』が初めてだった。
『ウィキッド』(スティーヴン・シュワルツ作曲)
ジャンルレスな音楽の世界を目指して
——原田さんはSNSを積極的に活用していますが、アメリカと日本では何か違いがありますか?
原田 面白いのは、日本ではTwitterのファンが多くて、海外はInstagramとFacebookが多いこと。Twitterよりも先にFacebookができて、最初は、アイビー・リーグ(アメリカ北東部にある難関私立大学8校の総称)の学生しかできなかったものが、アイビー・リーグの友達の紹介があれば使えるようになったときに始めたので、僕がFacebookを始めたのは、日本人ではかなり早いほうだったと思う。使用期間がかなり長いので友達も多く、ほとんど英語で投稿しています。
あと、僕の日本デビューのきっかけはTwitterでした。オーケストラ事業協同組合の方がTwitterで僕のことを見つけてくれて、6年前、日本でデビューすることができた。地元が品川なので、きゅりあんで新日本フィルを振りました。
一番気になるのは、日本のSNSは自分の名前を出さないこと。そ
——アメリカでの音楽活動が長い原田さんから見て、日本の音楽界にはどんな課題があると思いますか?
原田 まず、褒めるべきことは、こんなにたくさんのコンサートをやっていること。日本全国、365日やっている。世界で一番多いかもしれない。ただ、あまりにも多過ぎて、何に行っていいのか、わからないことになっている。日本は、そこにはまってしまった。初心者がどこからスタートしていいかわからなくなってしまった。
普通の人がコンサートに来ない理由を、「何着ていいかわからない」「チケットが高いと思う」「チケットをどうやって買ったらいいのかわからない」「どこで拍手したらいいのかわからない」とお決まりのように言っているけど、本当にそうだとしたら、新しいお客さんを待っているのではなく、私たちが新しいお客さんのほうに行けばいいと思う。そのために、人の集まるところでコンサートをやればいい。渋谷ハチ公前で野外コンサートをやるとか、東京駅でパーンと大きなことをやるとか。
あと、テレビもうまく使っていないと思う。クラシックの音楽家が普通の人が見る番組にほとんど出ていない。清塚(信也)くん、(木嶋)真優、高嶋(ちさ子)さんは、がんばっているけど。その意味で、(反田)恭平が報道ステーションやNHKのニュースウオッチ9に出たのはすごく良かった。
——将来的にミュージカルでやりたいことは何ですか?
原田 そろそろ日本でも、ミュージカルをコンサート・スタイルでやっていきたい。アメリカではあるけど、日本では少ないじゃない。それはそろそろやりたいと思う。名作ミュージカルを、生オーケストラで、声にはPA(音響機材)を入れて、いいホールで、一作丸ごとやりたい。ミュージカル系のスターたちとコラボしたい。
僕が目指しているのは、ジャンルレスな(ジャンルのない)音楽の世界。だから敢えてN響とミュージカルのプログラムをやるのは、僕のやりたいこととメチャ合っている。日本のトップ・クラスのオーケストラとやるのはすごく意味があると思う。
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