インタビュー
2023.09.26

ルイサダにきく 若いピアニストの指導哲学〈前編〉過去を振り返ること、感受性の確立

9月2~3日、日本ピアノ教育連盟の第36回全国研究大会に、特別講師としてジャン=マルク・ルイサダが迎えられました。ピアニストとしてのみならず、多くの日本人ピアニストが薫陶を受けてきた名伯楽としても知られています。人間的な魅力にあふれ生徒に慕われるルイサダさんに、教育者としての考え、高く評価する日本のピアニストのことなどを伺いました。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

撮影:各務あゆみ

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優れた古いものにもっと目を向けてほしい

——多くの若いピアニストたちを育てている中で、感じていることはありますか? また、教えるうえで心がけていることはなんでしょうか?

ルイサダ 若い頃は、演奏する上でのバランスを失いがちです。私自身も若き日はそうでしたが、夢中になりすぎると、クレイジーな犬のような演奏になってしまう(笑)。そこを正しい方向に直してあげるのが、私たち教師の役割です。

そして今の若い世代には、知的で才能豊かな方がたくさんいます。ただ、優れた古いものを見ようとしない人が多いようにも感じています。過去を知ることはすばらしいことなのに。

今YouTubeなどで観られる新進の演奏家は、効果的な演奏で人々を魅きつけます。ただ忘れてほしくないのは、1920年代、30年代のマエストロの存在です。彼らは優れたスタイルを持ち、今聴いても決して古めかしくありません。

 

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こういう話をしていると、安川加壽子さんのことを思い出します。彼女は、私の師の一人でアンリ・デュティユー夫人であるジュヌヴィエーヴ・ジョワ=デュティユーの親しい友人でした。

マダム安川は、若い頃フランスでラザール・レヴィに師事し、フレンチ・スクールの知識を日本に持ち帰って次世代に伝えました。私の師のマルセル・シャンピもレヴィと兄弟弟子でしたが、この流派はロシアン・スクールに近く、指ではなく腕の重さで豊かな音を鳴らします。マダム安川はそのスタイルを当時の日本人に教えたのです。

彼女は天才的な教育者、ピアニストでした。でも今の日本の若い世代には彼女のことを知らない人もいるでしょう。これは悲しいことで、私はこの状況を変えたいと思っています。

ジャン=マルク・ルイサダ
6歳でピアノを始め、パリでM.シャンピとD.リヴィエールに学んだあと、英国のユーディ・メニューイン音楽学校に進学。16 歳でパリ国立高等音楽院のピアノ科・室内楽科に入学し、両課程で一等賞を受賞後、大学院に進学。この間D.メルレ、N.マガロフ、P.バドゥラ=スコダ等に師事。1985年第11回ショパン国際ピアノコンクール第5位に入賞し、併せて国際批評家賞を受賞。ドイツ・グラモフォンと契約を結んで数多くの録音を行い、1998 年には RCA Red Seal/BMG フランスと独占契約を結ぶ。2005年には、「NHK スーパーピアノレッスン-ショパン編」に講師として出演し、大好評を博した。無類の映画愛好家としても知られ、ジャンヌ・モロー等、名優と共演、諸芸術の融合にも力を注いでいる。これまでに、デュトワ、フィッシャー、インバル、スクロヴァチェフスキ、ティルソン・トーマス等の指揮により世界の名だたるオーケストラやソリストと数多く共演、世界各地の主要ホールでの演奏を重ねている。1989年芸術文化シュヴァイエ勲章、1999年国家功労5等勲章、2003年芸術文化オフィシエ勲章をフランス政府より授与された。

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