インタビュー
2023.10.20
注目のピアニスト、日本ツアー中に突撃インタビュー!

田所 光之 マルセルに訊きたい5つのこと〈前編〉プログラムづくり、恩師、好きな作曲家

2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでの演奏が配信により日本でも注目され、ONTOMOで現地インタビューも行なった田所 光之 マルセルさん。その後「大好きな」日本でリサイタル・デビューを果たし、着々とファンを増やしています。師のシェレシェフスカヤ氏が「例外的な才能を持った真のプロ。聴衆に媚びることのない、本当に深みのある音楽性を持っている」と讃えるマルセルさんに、今訊きたいことのすべてをぶつけました!

取材・文
道下京子
取材・文
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...

メイン・ビジュアル:東京・神楽坂にて
撮影:各務あゆみ

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1.プログラムづくり

作品を探し求めるのが好き

――8月30日のフィリアホールでのリサイタルを拝聴しました。マルセルさんの、重みを帯びた音から紡ぎ出される濃厚な音楽に、心を奪われました。

マルセル(以下、M) リハーサルのときから、楽しい時間を過ごすことができました。フィリアホールでは、最弱音で弾いてもすべての音が返ってきました。

――ロシアの作曲家の、比較的レアな作品によるプログラムでした。直前に、チャイコフスキー国際コンクールでも演奏されたチャイコフスキーの「ピアノ・ソナタ 嬰ヘ短調」から、「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」に変更されました

M プログラムを選ぶ段階で、その2曲のどちらを演奏するか悩んでいました。それで、いったん「ピアノ・ソナタ」を選んだものの、演奏会を楽しんでいただくことを考え、変更しました。

「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」と同じく、スヴェトラーノフの「12のプレリュード」にも、メドレーのようなところがあります。スヴェトラーノフの作品は、彼が好きだったであろう音楽を、自分というフィルターを通して詰め込んだような感じです。それとチャイコフスキーが「歌劇《地方長官》」の中で好きだった音楽をパラフレーズとして詰め込んだピアノ曲との対比も、面白いかと考えました。

 

8月30日・フィリアホールにおけるマルセルさんのリサイタル・プログラム

スヴェトラーノフ:12の前奏曲

ラフマニノフ(田所光之マルセル編):ヴォカリーズ Op.34-14

チャイコフスキー:歌劇《地方長官》の主題による「ポプリ」

ヘンゼルト:12のサロン風エチュードより~アヴェ・マリア Op.5-4、愛の詩 Op.5-11

グラズノフ:サロン風ワルツ Op.43

ラフマニノフ:サロン小品集より~ワルツ Op.10-2、ユモレスケ Op.10-5

チャイコフスキー(プレトニョフ編):演奏会用組曲《くるみ割り人形》Op.71

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――マルセルさんは、「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」をいつ頃知ったのですか

M フランスへ留学してからです。作品を探し求めるのは好きです。

――知られざるピアノ作品を発掘するのも好きなのですね。

M 好きですね。今回のプログラムは、奇を衒った選曲というよりも、コンセプトに沿って選んだ結果、偶然にそのようなプログラムになりました。プログラムの軸になっているのが、スヴェトラーノフの作品とヘンゼルトです。

――ところで、グラズノフのワルツからラフマニノフのワルツへ移る時の、あの繋がり! カッコいいですね。

M 即興を入れました。僕は連結をとても大事にしています。あのグラズノフからラフマニノフへの移り変わりは、何度やってもうまくいかなくて、それで即興を入れようと決めました。

――即興を、言葉のようにすらっと表現できるなんて、とても素敵です

 即興を専門でやっているわけではないのですが、練習などで、インスピレーションを得るためによくやっています。

田所 光之 マルセル Marcel Tadokoro
2021年のエリザベート王妃国際コンクールでセミ・ファイナリスト、モントリオール国際音楽コンクールでファイナリストとなり、2022年はヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでジョン・ジョルダーノ審査員長特別賞、サンタンデール国際ピアノコンクールでは第3位を受賞。一躍脚光を浴びた。日本人の父とフランス人の母の間に生まれ、8歳よりピアノをはじめる。名古屋市立菊里高等学校音楽科卒業後、パリ国立高等音楽院に満場一致の首席で入学。同時期に行なわれたドビュッシー国際コンクールで第2位を受賞。同音楽院ピアノ科を卒業し、続いて修士課程を修了するまでに、数多くのコンクールで受賞を果たした。その後、パリのエコール・ノルマル音楽院に奨学生として入学。レナ・シェレシェフスカヤ氏のもとでさらに自らの音楽に磨きをかけ、ほかにもオリヴィエ・ガルドン、マルク・ラフォレ、アレクサンダー・ロマノフスキー、海老彰子、田島三保子、長野量雄の各氏からも教えを受ける。

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