田所 光之 マルセルに訊きたい5つのこと〈前編〉プログラムづくり、恩師、好きな作曲家
2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでの演奏が配信により日本でも注目され、ONTOMOで現地インタビューも行なった田所 光之 マルセルさん。その後「大好きな」日本でリサイタル・デビューを果たし、着々とファンを増やしています。師のシェレシェフスカヤ氏が「例外的な才能を持った真のプロ。聴衆に媚びることのない、本当に深みのある音楽性を持っている」と讃えるマルセルさんに、今訊きたいことのすべてをぶつけました!
2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...
1.プログラムづくり
作品を探し求めるのが好き
――8月30日のフィリアホールでのリサイタルを拝聴しました。マルセルさんの、重みを帯びた音から紡ぎ出される濃厚な音楽に、心を奪われました。
マルセル(以下、M) リハーサルのときから、楽しい時間を過ごすことができました。フィリアホールでは、最弱音で弾いてもすべての音が返ってきました。
――ロシアの作曲家の、比較的レアな作品によるプログラムでした。直前に、チャイコフスキー国際コンクールでも演奏されたチャイコフスキーの「ピアノ・ソナタ 嬰ヘ短調」から、「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」に変更されました。
M プログラムを選ぶ段階で、その2曲のどちらを演奏するか悩んでいました。それで、いったん「ピアノ・ソナタ」を選んだものの、演奏会を楽しんでいただくことを考え、変更しました。
「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」と同じく、スヴェトラーノフの「12のプレリュード」にも、メドレーのようなところがあります。スヴェトラーノフの作品は、彼が好きだったであろう音楽を、自分というフィルターを通して詰め込んだような感じです。それとチャイコフスキーが「歌劇《地方長官》」の中で好きだった音楽をパラフレーズとして詰め込んだピアノ曲との対比も、面白いかと考えました。
スヴェトラーノフ:12の前奏曲
ラフマニノフ(田所光之マルセル編):ヴォカリーズ Op.34-14
チャイコフスキー:歌劇《地方長官》の主題による「ポプリ」
ヘンゼルト:12のサロン風エチュードより~アヴェ・マリア Op.5-4、愛の詩 Op.5-11
グラズノフ:サロン風ワルツ Op.43
ラフマニノフ:サロン小品集より~ワルツ Op.10-2、ユモレスケ Op.10-5
チャイコフスキー(プレトニョフ編):演奏会用組曲《くるみ割り人形》Op.71
――マルセルさんは、「歌劇《地方長官》の主題によるポプリ」をいつ頃知ったのですか。
M フランスへ留学してからです。作品を探し求めるのは好きです。
――知られざるピアノ作品を発掘するのも好きなのですね。
M 好きですね。今回のプログラムは、奇を衒った選曲というよりも、コンセプトに沿って選んだ結果、偶然にそのようなプログラムになりました。プログラムの軸になっているのが、スヴェトラーノフの作品とヘンゼルトです。
――ところで、グラズノフのワルツからラフマニノフのワルツへ移る時の、あの繋がり! カッコいいですね。
M 即興を入れました。僕は連結をとても大事にしています。あのグラズノフからラフマニノフへの移り変わりは、何度やってもうまくいかなくて、それで即興を入れようと決めました。
――即興を、言葉のようにすらっと表現できるなんて、とても素敵です。
M 即興を専門でやっているわけではないのですが、練習などで、インスピレーションを得るためによくやっています。
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