ノ・ミヌが語る創作活動とミュージカル~「大切なのは自分の本当の心を表現すること」
歌、ダンス、演奏……超人的な圧巻のパフォーマンスで我々を魅了してくれるステージ上のアーティストたち。類い稀な才能のみならず、そこには裏打ちされた確かな技術と並々ならぬ努力がある。本連載では、そんな彼らのパフォーマンスの源を探っていく。
今回のゲストは、日本にゆかりのある人気俳優ノ・ミヌさん。アーティスト、俳優、モデル、タレントと、マルチに活躍中。後編では、曲づくりで大切にしていることや現在から未来のアーティストとしての活動などについて話を聞いた。
大学卒業後、(株)ベネッセコーポレーションに入社。その後、女性誌、航空専門誌、クラシック・バレエ専門誌などの編集者を経て、フリーに。現在は、音楽、舞踊、フィギュアスケ...
海外進出を見据えた音楽制作を
——これまでも音楽活動を精力的に行ってきましたが、この度、ワーナーミュージック・コリアと契約されて、さらに活躍の場が広がりそうですね。
ノ・ミヌ もっとグローバルな感覚を持ちながら、EDMなどのエレクトロニック系の音楽をはじめ、国内外問わず通用する楽曲をつくり、活動の幅を広げていきたいと考えています。今アルバムの準備をしていまして、年末ぐらいにはご報告できるかもしれません。
今回は、ワンマンバンドというわけではないのですが、自分でピアノやドラムやギターを演奏して録音したものを重ねていって、ひとつの作品をつくる予定です。
——歌、ピアノ、ギター、ドラム、作詞作曲……ひとりでできてしまう。もう、すごいのひと言です。作詞作曲をする上で大切にしていることを教えてください。
ノ・ミヌ いちばん大切にしていることは、自分の“本当の心”を表現することです。僕は器用ではないので、自分の心にウソはつけなくて。なので、すべての作品はリアルです。
ファンの方は、いつも僕の成長を、僕のすべてを見てくれているので、今のノ・ミヌが考えていること、思っていることをそのまま伝えたい。たまにファンの方のほうが僕のことをよく知っているときもあって(笑)、それによって気づかされることもたくさんあるので、とてもありがたく思っています。ですから、今の自分を知っていただくためにも、素直な心で、正直に曲をつくることを大事にしています。
——創作意欲はどのようなときに湧くのでしょうか。
ノ・ミヌ 苦しいとき、孤独を感じるとき、悲しいときですね。逆に、幸せすぎたり、健康な生活を送っていたりするときは、作りたくもないし(笑)、作れません。曲が自分の中から湧き出てこない。幸せなときって、ずっと外に出ていたくなりませんか? 散歩したり、人と会ったり、旅行をしたり。だから、創作意欲は幸せではないときに湧きます。
——クラシックの作曲家たちも、そのようなタイプが多い気がします(笑)。
ノ・ミヌ ちょっと似ているところがあるかもしれないですね(笑)。たまに過去の曲を聴いていると、「こんな曲を作っていたのか⁉」と自分でも驚くことがあります。僕はいったい何を考えて作ったんだろうと思って当時のダイアリーを見返すと、めちゃくちゃ苦労していたりするんですよ。そこから再びインスピレーションを得て、創作につながることもあるので、日々ダイアリーをつけたり、こまめにメモをとるようにしています。
日本のためにできることをしたい
——ミヌさんが2011年の東日本大震災の追悼公演を行なった際、反響も大きく、励まされた人が多かったと聞きます。先ほど、その時々の思いを曲にされると言われましたが、その素直な心、思いが届いたのではないでしょうか。
ノ・ミヌ あのときは、日本のために何かできることはないだろうか、ただその思いだけで曲をつくり、追悼公演を企画しました。僕の曲で、ひとりでも多くの方が希望を持ってくださったらと。「大切なあなたに」は、まさにこのときの自分の思いを込めてつくった曲です。
「大切なあなたに」
——追悼公演ではオーケストラと共演されています。ミヌさんがピアノを弾きながら歌うだけでも十分成立したように思いますが、なぜオーケストラと共演を?
ノ・ミヌ 「大切なあなたに」はクラシックをベースに、オーケストラのアレンジを想定してつくりました。これから挑戦していくエレクトロニック系の音楽制作にも、クラシックの要素やオーケストラのアレンジを想定して創作していく予定です。
ミュージカルは怖いけれどやみつき
——昨年、トート役でミュージカル『エリザベート』に出演されました。初出演だったそうですが、いかがでしたか。
ノ・ミヌ めっちゃ怖かったです! すべてが怖かったのですが、やみつきになる感じもあって。怖いのにもう1回乗りたくなるジェットコースターのような。ミュージカルはやみつきになりそうです。
それと、歌い方を全部変えなければならなくて、最初は相当戸惑いました。ミュージカルのマイクは僕が普段使っているマイクとは違うので、いつも通りに歌ったら、僕の声だけ小さく聞こえたんですよ。「普段通りに歌っているのになぜ?」と疑問に思い、エンジニアさんに「僕のマイクだけ、なんでこんなに音が小さいんですか?」と尋ねたら、「いえ、みなさん一緒ですよ」って……(笑)。それで、エリザベート役のオク・ジュヒョンさんに、歌い方や発声の仕方などを教えていただきました。新人の頃のような気持ちでずっと取り組んでいましたね。
あと、ミスが許されない緊張感も独特でした。自分のライブでは多少ミスをしたとしても、ファンのみなさんが笑ってくれて、生ならではの楽しさだと思ってもらえるじゃないですか。でも、ミュージカルは何十人もの人が一緒につくりあげていくもので、誰ひとりとしてミスをしてはいけない。その厳しい雰囲気に圧倒されて、地方公演を含む約半年の上演期間中、ずっと緊張していました。
——今回なぜミュージカルに出演することに?
ノ・ミヌ 実は5年前から出演のオファーをいただいていたんです。主催の方が、どこかのバーで僕がピアノを弾きながら歌っているのを見て、トート役が似合うと思われたそうで。でも、ミュージカルは未知の世界で怖かったのでお断りしていました。ただ今回はなぜか「何度もオファーをいただくのには何か理由があるのかもしれない」と思い、挑戦することに。それから、僕が出演することになったという記事が出たのですが、想像以上に反響がすごくてびっくりしました。
——ミュージカルは日本でも人気ですが、韓国はそれ以上にすごいと聞きます。
ノ・ミヌ そうなんです。でも、そういう文化があることを知らなくて。僕がトート役を務めることになったという記事が出た途端、ミュージカルファンの人たちが僕に対する辛口のコメントをSNSなどに書き込んでいて驚きました(笑)。今回は特に10周年記念公演だったこともあり、「一度もミュージカル経験ないノ・ミヌがなんでトート役をやるのか」と。
——『エリザベート』は人気があるので期待度は高いと思いますが、それでも厳しいコメントを目にすると……。
ノ・ミヌ 正直、ショックでしたね。えっ? 僕、そんなに悪いことしたの? って思って落ち込みました。YouTubeに僕のラストダンスの映像が上がっていて、そこに2000件ぐらい辛口のコメントが書き込まれていたんですよ。それから2日間は眠れませんでした。稽古は毎日朝10時から夜10時まであったので、お酒を飲むわけにもいかず……。でも、落ち込んでばかりいられないと思い直し、YouTubeにコメントをしたんです(笑)。
——自ら投稿を!?
ノ・ミヌ はい(笑)。「みなさんのその貴重な意見、すべて読みました。ちゃんと努力して、かっこいいトートをつくるので、期待していてください」って。公演が始まったら、その方たちが観に来てくださったようで、僕が成長していく姿を見て思い直してくれたのか、最終的にチケットはソールドアウト、書き込まれていた悪口は公演のたびにひとつずつ消えていって、最終的に辛口のコメントがすべて消えていました。
——ミヌさんの真摯に取り組む姿や誠実さが伝わったのですね。
ノ・ミヌ そうだと嬉しいですね。今回出演してみて、ミュージカルをものすごく愛している方が多いことを知りましたし、僕自身もミュージカルはとても魅力的なものだと思いました。いまはできるだけミュージカルを観に行くようにして、次回に備えて勉強しています。ご縁をくださった主催者の方にも感謝しています。
——今後出演のご予定は?
ノ・ミヌ お話はいただいているのですが、先ほどお話した新作のアルバムとプロモーションが控えているので、それが落ち着いてからになりそうです。絶対にまた出たいと思っています。オファーをいただけたらの話ですが。
——最後に、ファンの方にメッセージをいただけますか。
ノ・ミヌ うーん……(しばし考えて)、僕の頭の中にずっと残り続けている『エリザベート』の劇中歌の歌詞があります。シシィことエリザベートが姉・ヘレネのお見合いについていくと、お見合い相手にひと目惚れされる場面で歌われる「計画通り」という曲の歌詞なんですけど、「計画は無駄だ、計画してもその通りにはならないから、計画はいらない」みたいな内容で、本当にその通りだなと。どんなに綿密に計画したとしても、いいことも悪いことも、思ってもみなかったことが起こる場合もある。それが人生だと思うんです。
だから、失敗したり、つまずいたりするようなことがあっても、そのことにこだわらないで、楽しんで生きていくことが大事なんじゃないかと。人生を自分でコントロールできないなら、自分に起きるすべてのことを楽しんで生きていきましょう! ということをみなさんにお伝えしたいです。これから音楽活動を含め、いろいろ活動していく予定なので、みなさんに会える日を心から楽しみにしています。
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