系譜が追える! 新時代のピアニスト大辞典「Pianists Corner」が誕生
気になるピアニストの先生を追っていった先には……。現時点で7000人のピアニストが掲載され、ピアニズムの深淵を探ることができるWebサイト「Pianists Corner」が6月15日にオープンしました。ピアニストの海老彰子さんから情報を得た音楽ライターの船越清佳さんが、このサイトの創設者にインタビュー!
岡山市出身。京都市立堀川音楽高校卒業後渡仏。リヨン国立高等音楽院卒。長年日本とヨーロッパで演奏活動を行ない、現在は「音楽の友」「ムジカノーヴァ」等に定期的に寄稿。多く...
ピアニストの系譜に魅せられて
6月15日、世界73か国・7000人のピアニストに関する情報と演奏映像が網羅された壮大なプラットフォーム「Pianists Corner」(https://pianistscorner.com/)がオープン。先駆けて、創設者のブリュノ・サンジェルマン氏が、パリで取材に応じてくださった。
20年の構想と5年間の作業を経て完成した「Pianists Corner」には、サンジェルマン氏のさまざまな思いや願いが込められている。
彼は90年代にCDレーベル「DANTE」のプロデューサーを務めていた。パハマン、ホフマン、アラウなど往年の巨匠の録音の再リリースを多く手掛け、歴史の中のピアニストの潮流に魅せられたという。
「ピアニストにとって、師事した音楽家は人生のバックグラウンドの一部を成しています。たとえば、チリ生まれのクラウディオ・アラウは、幼少でベルリンに留学し、リストの最後の弟子であるマルティン・クラウゼに師事しました。アラウはクラウゼのもとでドイツのカルチャーに浸り、それは彼が遺したベートーヴェン、シューマン、そしてリストなどの名録音に投影されています。もしも彼がチリに留まっていたのなら、彼のピアニズムは違ったものになっていたのではないでしょうか。
またエドウィン・フィッシャーもクラウゼに師事しましたが、彼の演奏スタイルはまったく異なっていますね。こうして、私はピアニストの系譜、師弟関係の不思議に魅せられていったのです」
また、アラウの門下生たちとの交流も、彼のインスピレーションをかきたてた。
「彼らの話に、ラファエル・ダ・シルバというピアニストがよく出てくるのです。
アラウは第二次世界大戦中にドイツを去り、その後拠点としたニューヨークで50年代に学校を創設します。ダ・シルバはそこでアラウの助手として教えていた人でした。同じくチリ人のダ・シルバはアラウの幼馴染で、ドイツでクラウゼの娘に師事していました。録音もなく、まったく知られざる存在ながら、ダ・シルバはアラウの門下生たちにとっては非常に大切な、彼らの記憶に深く刻まれた人物でした。
またアラウは、この学校に南米出身のピアニストを多く迎え入れ、彼らを積極的に援助しましたが、この事実もほとんど知られていません。このような指導者としての影の業績に、もっと注目するべきだと思ったのです」
「Pianists Corner」を見てみよう!
「Pianists Corner」の大きな特長の一つは、現代から遡り、ピアニストの師弟関係のルートをワンクリックで可視化できることだ。日本ショパン協会の会長も務める海老彰子さんのページを訪問した。
左にバイオグラフィーが、右のFiliation Map(系譜図)に、海老さんを中心に、彼女が直接師事したピアニストが現れる。
写真の下のGenealogy(系譜)アイコン、そして+をクリックすると、level 1、level 2……と遡って系譜図が伸び、そのピアニストが背負うピアノの潮流を目の当たりにすることができるのである。
サンジェルマン氏の目的のひとつは、若いピアニストを応援することだ。
「コロナ危機でネット配信は重要なツールとなりました。現代の若いピアニストには、目覚ましい才能に溢れている方がたくさんいますが、ある国で評価されても、他の国ではまったく知名度がないというケースも多々あります。また皆がCDをリリースする機会に恵まれるとは限りません。一方でYouTubeでも、素晴らしい演奏映像がアップされていますね。ビデオ配信はもっと注目され、評価されるべきではないでしょうか。現時点で『Pianists Corner』では2500本のビデオを視聴できます。私は隠れた才能の存在を知らしめるために貢献したいのです」
日本のピアニストへ
「若いピアニストに、ピアニズムの歴史と自分を結び付けてほしい」というサンジェルマン氏。彼の願いは、大勢の日本のピアニストを「Pianists Corner」に招待することだ。掲載を希望するピアニストの方々は、Missing pianistのメールリンクに必要な情報を送るだけで、掲載手続きが行なわれる。もちろん無料だ。
サイトは英語とフランス語だが、操作も非常に簡単。ぜひ「Pianists Corner」の扉を開き、ピアニストたちの系譜という魅惑の森へ迷い込んでいただきたい。時間を忘れて引き込まれてしまうこと請け合いだ。
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