インタビュー
2026.01.13
CD『ラフマニノフ&プロコフィエフ ふたつのチェロ・ソナタ』リリース

チェリスト辻本玲がロシアの二大ソナタ録音~ピアノとの丁々発止、刺激的なデュオ誕生

チェリスト辻本玲さんが、ラフマニノフとプロコフィエフの名高きチェロ・ソナタを収録したCDをリリースしました。共演は、いま弦楽器奏者から熱い視線を浴びるピアニスト、沼沢淑音さん。チェロもピアノも互いに一歩も引かず、丁々発止の音の対話が繰り広げられたレコーディングの過程、また、辻本さんの現在を形づくる留学時代や、N響での貴重な経験の数々についても伺いました

取材・文
伊熊よし子
取材・文
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

撮影:武藤 章

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リハーサルからプレーバックまで続いたデュオの「攻防戦」

NHK交響楽団の首席チェロ奏者を務め、ソロ、室内楽と幅広い活動を行なっている辻本玲が、新譜をリリースした。大好きだと明言するロシア作品で、ラフマニノフの「チェロ・ソナタ ト短調 Op.19」とプロコフィエフの「チェロ・ソナタ ハ長調 Op.119」。共演はさまざまな弦楽器奏者との共演で知られ、アルゲリッチからも賞賛されているピアニスト沼沢淑音。選曲、作品に関して、共演者について聞いてみると……。

辻本「3年前、沼沢さんとラフマニノフのこのソナタで共演したことがあり、彼は相手にピタリと合わせるタイプではなく攻防戦になる。それがすばらしいと感じ、今回は共演を依頼しました。

案の定、沼沢さんには確固たるラフマニノフ像があり、リハーサルからテンポや間の取り方などで意見が分かれ、丁々発止のやり取りになった。互いにいい演奏を目指すわけですから結果的には納得のいく録音ができましたが、プレーバックを聴きながらも攻防戦は続きました。

ラフマニノフはふたりのフィーリングがよく合うため、なれ合いの共演ではなく刺激的な音楽が生まれたと思います」

辻本 玲 Rei Tsujimoto
東京藝術大学音楽学部器楽科を首席で卒業。シベリウス・アカデミー、ベルン芸術大学に留学。第72回日本音楽コンクール第2位(「聴衆賞」受賞)。2009年ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール第3位入賞(日本人最高位)。2011年にサントリーホールなどでデビュー・リサイタルを開催。2013年齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。2019年にCD『オブリヴィオン』(『レコード芸術』誌特選盤)、2025年11月に2ndアルバム『ラフマニノフ&プロコフィエフ ふたつのチェロ・ソナタ 辻本玲』をリリース。毎年サイトウ・キネン・オーケストラ、東京・春・音楽祭などに参加。室内楽でも精力的に活動。使用楽器は宗次コレクションより1730年製作のアントニオ・ストラディヴァリウスを、弓は住野泰士コレクションよりTourteを特別に貸与されている。現在、NHK交響楽団首席チェロ奏者を務める

プロコフィエフでは「音楽を練り上げた」

作品に関しては、こう続ける。

辻本「ラフマニノフは第1楽章は序奏からテンポが変容しますが、ひとつの流れになるように考えています。ピアノは濃密で表情豊か。第2楽章はシンプルでトリオが2つ登場します。第3楽章は私のもっとも好きな楽章で、よくアンコールで演奏します。ピアノとともに盛り上がっていくところがいいですね。第4楽章はどんよりした感じが一気に変わって透き通った快晴のよう。ピアノは深い音の集合体のようです」

プロコフィエフに関しては、ふたりはまさに「音楽を練り上げた」という。

辻本「プロコフィエフは古典的で和声のひねりが興味深い。ピアニストにとっては音楽的なチャレンジともいえる作品です。

第1楽章はオーケストレーションの基になっている感じで、さまざまな管楽器の響きが聞こえてくるようです。音が少ない分、難しさがあり、ふたりで大もめにもめました(笑)。呼吸の合わせ方、色彩感などについても互いに一家言をもっていますから、一歩も引かない(笑)」

厳しい師のもと練習に明け暮れた留学時代

こうしてプロ根性に徹し、自身の音楽を一途に追及する刺激的なデュオが誕生した。その演奏を磨き上げたのは、フィンランドで師事したアルト・ノラス、スイスで師事したアントニオ・メネセスの薫陶の賜物である。

辻本「ノラス先生には”友だちは作るな”といわれ、2年間ずっと練習漬け。生涯でいちばん練習した時期でした。弓を目いっぱい使い、どれだけブリリアントなトーンで弾けるかを学びました。

メネセス先生は弓をコンパクトに用い、引き出しの多さを教えてくれました。両極端の教えがとても大切で、あの留学時代はすごく貴重。戻りたいくらいですね(笑)」

N響で偉大なマエストロたちから学んだこと

N響には世界の偉大なマエストロが多数訪れ、その指揮から学ぶことはひじょうに大きい。

辻本「シャルル・デュトワ、マレク・ヤノフスキ、ヘルベルト・ブロムシュテットをはじめ偉大なマエストロから学ぶことは山ほど。ヤノフスキはとても厳しく、正論で攻めてくる。ブロムシュテットは年々音楽が若くなっている。その姿勢から大きな刺激をもらいます」

演奏終了後、精神を休めるため夜釣りに出かける。愛器は1730年製アントニオ・ストラディヴァリウス(宗次コレクション)。弓はTourte(住野泰士コレクション)を特別貸与されている。オーケストラで培ったスケール感と音色の幅広さ、色彩感が全面開花している。

CD情報
『ラフマニノフ&プロコフィエフ ふたつのチェロ・ソナタ』

[KICC-1637]

収録曲

①ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調Op.19

②プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調Op.119

チェロ:辻本玲

ピアノ:沼沢淑音

定価:¥3,300(税抜価格 ¥3,000)

詳細はこちら

取材・文
伊熊よし子
取材・文
伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経てフリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌に限らず、新聞、...

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