古楽=ラテンミュージック!? 濱田芳通が切り開いてきた「枠に収まらない」古楽の王道
中世・ルネサンスから初期バロックまでの音楽作品を、大胆な演奏解釈と生き生きとした即興性によって蘇らせてきた古楽アンサンブル「アントネッロ」(1994年結成)。近年はバッハやヘンデルなど後期バロックにもレパートリーを広げており、さまざまな音楽ファンから熱い注目を浴びています。
第53回(2021年度)サントリー音楽賞を受賞した、アントネッロ主宰者のリコーダー・コルネット奏者・指揮者の濱田芳通さん、そしてアントネッロの公演にしばしば参加してきた名カウンターテナー彌勒忠史さん、素晴らしい美声が評判のソプラノ中山美紀さんに、そのスリリングな演奏の秘密について伺いました。3人が出演する8月17日のサントリー音楽賞受賞記念コンサート「ヘンデル:オペラ『リナルド』」では、いくつの「やーらーれーたー!」に出会えるか、乞うご期待!
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
アントネッロの原点~初期バロック以前なら全部やりたくて孤軍奮闘してきた
――いま、古楽の世界では、若手の演奏家や団体がいろいろなところから出てきていますし、どんどん面白くなってきています。そうしたなかで、1994年結成のアントネッロはある意味、日本の古楽界における開拓者、パイオニアの一つだったと思います。改めて振り返ってみて、アントネッロが果たしてきた役割や独自性はいったい何だったと思われますか?
濱田芳通(以下、濱田) 役割というのもちょっとおこがましいですが……もともと、このグループの名前も中世の作曲家ですし、バロック以前に特化して演奏する目的で作りました。そこのレパートリーを演る演奏団体はそうはなかったので、いろいろな知られていない曲を初演したり、ということはあったかもしれません。
独自性はすごくあって、ちょっと孤軍奮闘みたいなところがありました。僕が勉強してきたのはバーゼルで、専門は中世の音楽でしたが、自分は初期バロック以前だったら全部好きでやりたくて、時代区分にしても範囲がとても広かった。
当時、初期バロックを演奏するということにおいて、僕が勉強した頃には確実にひとつの新しいスタイルがありました。古楽のフランス・ブリュッヘンによるバロック奏法というものがモダン奏法に対してあったように、さらにもうひとつの新しいモデルがあって、それはバロック以前を演奏するときのやり方でした。
僕は、将来的にはどの曲でもそのやり方でいけると信じて、今まで続けてきました。その方法はなかなか普及しなかったので、僕ら界隈の現場でしかやっていないかもしれません。
――レパートリー的には、何世紀ぐらいまで遡ることが可能なのですか?
濱田 楽譜があったときからですから、11世紀ぐらいまでは遡れます。
――11世紀というと今から千年くらい前の中世、日本だと平安時代ですね。これだけ時代が違うと、美学だけでなく、ものの考え方、音楽に対する捉え方、いろいろなことが根本から違ってくるでしょうね。
濱田 我々がやっている「中世」の音楽は、実は美術や歴史の上ではもうルネサンスなのです。時代区分で言うと、美術のルネサンスは14世紀からですが、その頃は音楽ではまだ中世です。200年ほど下がる。これは早いところ統一すべきだと思いますが。
僕は一応、音価が決まってから以降の曲をやろうと思っているので、レパートリーは14世紀からです。13世紀の「聖母マリアのカンティガ集」とか「カルミナ・ブラーナ」あたりも挑戦はしたのですが。
――14世紀というと、5月に東京カテドラル聖マリア大聖堂で上演された、「モンセラートの朱い本」がそれにあたりますね。あんなにも生き生きとした表情豊かで祝祭的な世界を体験してしまうと、その魅力に取り憑かれてしまいます。
これまでの活動では、南蛮音楽、つまりキリスト教の宣教師が伝来してヨーロッパ音楽も浸透していった安土桃山時代(16~17世紀)の日本の音楽も、アントネッロにとっては大事な出発点の1つですよね。
濱田 いまの日本の言葉や料理の中にその頃の南蛮文化が残っているのと同じように、そこに音楽も含まれているとすれば、西洋音楽がすでに日本人の血の中に入っているということになります。だから、僕らが西洋音楽をやる時に何も引け目を感じる必要がない。その意義はあると思います。
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