大原櫻子が子どもたちに慕われる先生を熱演
太平洋戦争末期、20代を中心とした若き保母たちが53人の園児を連れて、東京から集団疎開して「疎開保育園」を開いた実話をもとにした映画「あの日のオルガン」。劇中では、この1月に大森南朋とAKIRA(EXILE)のW主演で北原白秋と山田耕筰の交流を描いた映画「この道」でも注目を浴びた、懐かしくも美しい童謡が様々な場面で歌われている。「この道」はもちろん、「赤とんぼ」「お猿のかごや」「夕日」「春の小川」「故郷」などの名曲が、戦時下の過酷な日々を送る園児たちに、そして保母たちにほんの束の間の、しかし確かな喜びと活力を与えていく描写は、音楽の力をあらためて感じさせてくれるシーンだ。戸田恵梨香とともに同作にW主演し、劇中ではオルガンを弾いて子どもたちと一緒に歌う姿を披露している大原櫻子に、作品の魅力と音楽にまつわるエトセトラを聞いた。
子どもたちの笑い声って宝だなと思いました
──まずは、今回の作品で野々宮光枝という女性を演じた感想から教えてください。
「光枝は保母さんなんですけど、同じ保育園のほかの保母さんに比べて一人だけ保母意識が低いというか、保母としてというよりは本能的に子どもたちと楽しい日々を過ごすタイプです。そういった役柄のおかげで、あれだけ多くの子どもたちとも、とても仲良くなれました(笑)。撮影中は、自分と役が混合するぐらいの感覚でしたね」
──ということは、自分と重なる部分も多かった?
「多かったですね。台本を読んだときに、すごく似ているなと思いました。例えば、堅苦しいことを考えるのは苦手だけど、子どもが好きなところ。実は、このお仕事をしていなかったら保育園の先生になりたいとも思っていたので、非常に重なる部分があります」
──W主演をされた戸田恵梨香さんの印象を教えてください。
「ずっと小さいころから映画などを見てきて、戸田さんが出られている作品ももちろん見ていました。映画などで感じる印象から、お会いする前はキュートでありながらもスマートでクールな女性かと思っていたんですよ。だから、今回の作品で演じられた気丈な楓先生役は、すごくぴったりなんだろうなって。初めてお会いしたのは、クランクイン前に保母さんの体験をする日でした。戸田さんと一緒に子どもたちとかけっこをして、『これ、しんどいね』って(笑)、話しかけてくれて、すごい気さくな方なんだなって思ったのが、第一印象です。あと、関西弁が本当にかわいい! 『アカーン』とかよく言っていましたし(笑)。想像していた以上に明るい性格で、落ち着いて控えめというよりはオープンハートでよく笑う方だなと思いました」
──小さいころから映画などで見てきた戸田さんとご一緒されるのは、どんな心境でしたか?
「戸田さんに限らず、このお仕事を始めてからあんまりそういうことは意識しないほうがいいのかなと思ってはいます。ただ、本心ではすごくうれしかったですね(笑)。初めて戸田さんの演技を見たのが『デスノート』のミサミサ(弥海砂)だったんですけど、実は監督の金子修介さんが私の同級生のお父さんなんです。その同級生とはすごく仲が良くて、中学生時代の年越しはその子の家で過ごしていたぐらいで。なので、当時から恵梨香さんの話を金子監督から聞いていたので、勝手に親近感があるんです(笑)。そういう経緯もあるので、監督が今回の作品を見てくださったのはうれしかったですね。それと、恵梨香さんだけではなく、こんなにたくさんの女優さんと共演するのは初めてだったので、それが新鮮でした」
──冒頭で自分と似ているという話がありましたが、逆に違う部分は?
「今回、本当に泣くシーンが多くあったんですけど、ここまで多くは泣かないといいますか(笑)、こんなに喜怒哀楽は激しくないです。だから、泣くシーンでは自分の感情を拡大させて演じていくという感覚はありましたね。でも、この作品には実際に泣いてしまうようなドラマが多いので、感情を拡大させていくことはそんなに大変じゃなかったです」
──今作では、太平洋戦争末期の1944年の生活が劇中で再現されていますが、満足にご飯を食べられないし、夏は暑く、冬は寒い。しかも、娯楽も少ない。そんな状況は、本当に過酷な状況だったんだなと今作を見てあらためて痛感しました。しかし、その一方では人と人との関係の間にある温度感や距離感などが素敵だな、豊かだなと感じる部分もたくさんありました。
「私もそれはいっぱいありましたね。特に、子どもの笑い声って宝だなと思いました。聞くだけですべてが吹っ飛ぶというか、私たち大人がこの子どもたちを守っていくことが本当に必要だと感じましたね」
2パターンの歌詞をもらった『この道』に特別な思い
──今作では、たくさんの童謡が子どもたちを元気づけ、周りの大人たちにも力を与えているように感じました。そんな作品で実際にオルガンを弾いて子どもたちと一緒に歌を歌っていた大原さんが、幼少期に音楽に力づけられた経験、慣れ親しんでいた音楽などを教えてください。
「小学校1、2年生のころは、『アニー』や『ミス・サイゴン』などミュージカルの曲をよく聴いていましたね。ピアノも習っていたので思い出の楽曲はたくさんあるんですけど、とくに印象に残っているのは、ドラマ『風のガーデン』(’08年10月〜12月/フジテレビ系)で神木隆之介さんが(バダジェフスカの)『乙女の祈り』を弾いているシーンを見て、すごいいい曲だなと感じて、どうしても自分で弾きたくなったんです。ピアノのレッスンって、その人のレベルに合った楽譜で弾いていくものですけど、通常のレッスンから脱線して練習させてもらいましたね。むずかしかったですけど、最終的には弾けるようになりました」
──劇中では歌われた童謡で、あらためて感動を覚えた曲を教えてください。
「どの曲も素晴らしいですけど、やっぱり『この道』ですね。自転車に乗っているシーンとオルガンを弾いているシーンで歌っているんですが、とても思い入れがあります。自転車は当時と同じ形のものなんですけど、サドルを低くできなくて私の足が地面につかないんです(笑)。だから、自転車の後ろに乗っている足が長い佐久間由衣(神田好子役)ちゃんが後ろに乗ったあとに私が前に乗って、『せーの!』で動き出すんですよ。だけど、あるとき2人でバーンと転んじゃって。自分たちでもやばいなって思ったし、それを見ていたプロデューサーさんが『このシーンは無理です!』って監督にも言ってくれたんです。そしたら監督は、『あのシーンは2人の大事なシーンだから、絶対に撮りたい』ということで……そのときは恨みましたけど(笑)、何回か練習して無事に撮影することができました。オルガンを弾きながら『この道』を歌っているシーンは、2番の歌詞を監督がオリジナルで作詞をしたんです。事前に2パターンの歌詞をもらって、光枝の心情的にどっちがより近いかなど、意見を求められたりもしましたし、そういう部分も含めて『この道』には特別な思いがあります」
──実際の大原さんだったら、子どもたちには何を歌って聴かせたいですか?
「やっぱり童謡ですかね。いい歌がたくさんあるので、童謡は聴かせてあげたいな。自分の曲は聴かせなくていいです(笑)」
──では、大原さんが感じるピアノ曲やクラシック音楽の良さは?
「やさしい気持ちになれますよね、どんな曲も。曲によっては切なさも増しますし。あと、ピアノ演奏と歌だけの曲だとより歌詞が聴こえてくるので、そういう部分も好きです」
──大原さんにとって、音楽ってどういうものですか?
「癒しであり、仕事のテンションを上げる栄養素みたいな感じです。ランニングが好きなんですけど、そのときもYouTubeをランダムに流しながら音楽を聴いていますね」
──最後に、アン・サリーさんが歌う主題歌の「満月の夕(2018ver)」(オリジナルは、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬とヒートウェイヴの山口洋が詞曲を共作し、’96年10月に両バンドがそれぞれシングルとしてリリース。これまでにも、数多くのアーティストに多彩な解釈でカバーされている)についてもうかがいたいです。
「初めて聴いたのですが、とてもいい曲でしたね。歌声もそうですし、メロディーもそうですし、作品にぴったりだなと思いました。この作品を観終わったあとに、物語の余韻に浸れる曲だなと思っています」
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