清水勇磨 バリトンの俊英がイタリアで体に叩き込んだオペラの神髄を披露する演奏会
次代を担う若手芸術家に贈られる「五島記念文化賞」第28回のオペラ新人賞を受賞し、ボローニャで研修を行なったバリトンの清水勇磨さんが、帰国記念のリサイタルを開催します。
最近では、東京二期会《パルジファル》(宮本亜門演出)のアムフォルタスで日本人離れしたスケールの大きい歌唱を聴かせてくれた清水さん。
歌手になろうと思ったきっかけや、イタリア留学の体験談、また今回のリサイタルにかける思いなどをうかがいました。
東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...
2ヶ月の準備で音大附属高に合格!の武勇伝
——国立音楽大学附属高校から国立音楽大学・大学院と、歌手としてはまっすぐな道を進まれてきたようにみえますが、そもそも歌に興味を持ったきっかけを教えてください。
清水 いやいや、小学校の時は野球少年で、音楽とは無縁の子ども時代だったんですよ。ただ歌うのは好きで、中学3年の時に地元の八王子で開かれたのど自慢大会に出たら、審査員をされていたファゴット奏者の馬込勇さんから「高校で歌をやってみたら」と勧められまして。
それが年末のことで、それから2月の高校入試まで歌はもちろん、ピアノにソルフェージュにと猛勉強しました。
——ということは、それまでピアノも弾いたことはなかった?
清水 そうです。ピアノも習っていないのに国立音大附属高校に合格したのは創設以来初めて、といわれました(笑)。
プロのオペラ歌手になるための挑戦
——それは驚きました!そんな清水さんがプロのオペラ歌手になろうと思われたのはいつ頃だったのでしょうか。
清水 大学院時代に、1ヶ月ほどボローニャ歌劇場付属のオペラ研修所で短期研修を受ける機会に恵まれたんです。
そこで演技やドラマトゥルギーのことをこれだけ勉強しないと舞台に出てはいけないんだなということを知り、逆に歌をやるなら海外で勉強したいと強く思うようになりました。
そのために1位をいただいた東京音楽コンクールを含め、色々なコンクールなどに挑戦し、2017年に五島記念文化賞オペラ新人賞をいただいた時にやっと、将来はプロの歌手としてやっていけるかもしれない、と思えるようになりました。
留学先で自分を振り返る時間を持つことの大切さ
——2年間のボローニャ留学を通して、ご自身ではどんなことを得られたとお考えになっていらっしゃいますか。
清水 まず精神面では、自分のやりたいことを主張しないとダメだ、ということです。
ヨーロッパの歌手はたとえきちんとできていなくても「私はこれだけPassione(情熱)がある」ということを堂々と主張してきます。本来僕はそういう性格ではないと思うんですが(笑)、どんどん主張するようにしました。
また五島記念文化賞の海外研修では、毎月・四半期ごとに報告書を提出することが義務付けられているんですが、書くのは大変だったものの、考えをまとめるために自分と向き合うことができ、次の課題などを見出すことができてとても有意義だったと思います。
イタリア語のリズムやイントネーションをとことん体に染み込ませた
——さて、今回のリサイタルは、このボローニャ研修の成果発表でもありますね。
清水 ボローニャで徹底的に叩き込まれたのは、言葉のリズムやイントネーションを体に染み込ませるということで、それは外国人である僕にとっては非常に重要なことでした。
テクストにある言葉のどこで感情が切り替わるのか、表面に露出するポイントはどこなのか、ということを読み取って歌う、というのが僕自身の最近のテーマにもなっています。
今回のリサイタルの前半はイタリア古典歌曲を集めましたが、音楽が言葉から成り立っているということをもっともよく表しているのがこれらの作品です。
またさらに、その発展形としてリストの《ペトラルカによる3つのソネット》を取り上げますが、言葉による音楽の芸術性をどれだけ高められるか、という自分自身の課題でもあります。
ボローニャで学んだことをすべて詰め込んだプログラム
——後半は、ご自身のレパートリーの中心であるヴェルディのオペラ・アリアの他、ヴェリズモ作品なども並んでいます。
清水 名メゾ・ソプラノであるルチアーナ・ディンティーノ先生から「勇磨はtemperatura(温度感)があるからヴェリズモが歌えるかもしれない」といわれたことも大きいです。
研修中に体験したこと、学んだことが詰まっている曲目を選びました。皆様にもイタリアの空気や温度を感じていただけたらと思っています。
***
これまで数々の優れた才能を世に送り出してきた五島記念文化賞ですが、真面目で、かつ思慮深い清水勇磨さんはとびきりの逸材であることを感じさせるインタビューでした。
今後もイタリア・オペラを中心に「共感できるドラマを持った作品に出演したい」という清水さん。まずは「イタリア」を感じさせるこのリサイタルに注目です。
バリトン歌手。国立音楽大学附属高校を経て国立音楽大学、同大学院修士課程首席修了。最優秀賞受賞。2013年野村財団の芸術文化助成を受けイタリア・パルマにて研修。第13回東京音楽コンクール声楽部門第1位。2017年東京二期会公演《ばらの騎士》ファーニナル役で本格的オペラ・デビュー。2018年より五島記念文化賞オペラ新人賞の海外研修、文化庁在外派遣研修員、ロームミュージックファンデーションの奨学生としてボローニャ歌劇場付設オペラ研修所にて研鑽を積む。2019年7月ボローニャ歌劇場公演《椿姫》ジェルモン役に抜擢され、大きな成功をもって話題となった。同劇場主催公演《セビリアの理髪師》フィガロ役での卓越した演唱でも喝采を浴びた。ヴェルディのオペラ作品を中心に、ヴェリズモ作品、プッチーニ、ワーグナーに至るまでの幅広いレパートリーを持ち、数少ない正確な技術と音楽性を兼ね備えた歌手として期待と信頼を集めている。2020年にもボローニャ歌劇場主催公演《蝶々夫人》《オテッロ》に出演し、活躍が目覚ましい。2021年2月東京二期会公演《タンホイザー》ヴォルフラム役(セバスティアン・ヴァイグレ指揮)にて出演し、柔らかい美声、品格のある歌唱、内に秘めた情熱で注目を浴びた。今年は東京二期会公演において4月《エドガール》フランク役、7月《パルジファル》アムフォルタス役に出演、今後も活躍が期待されている。二期会会員。
日時:2022年9月18日(日)14:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
曲目:スカルラッティ《陽はすでにガンジス川から》、ジョルダーニ《いとしい女よ》、グルック《ああ私の優しい情熱の》、リスト「ペトラルカの3つのソネット」
レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》より〈よろしいですか?紳士淑女の皆様!〉、プッチーニ:歌劇《エドガール》より〈この愛を、この恥を〉、ヴェルディ:歌劇《ドン・カルロ》より〈私の最期の日〉/歌劇《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》より〈プロヴァンスの海と陸〉/歌劇《ファルスタッフ》より〈夢かまことか〉、ジョルダーノ:歌劇《アンドレア・シェニエ》より〈祖国の敵か〉、他
ピアノ:藤川志保
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