「ピアノ三重奏のための14の変奏曲(第10番)」——ディタースドルフのオペラ《赤ずきんちゃん》のアリアをピアノ、ヴァイオリン、チェロの変奏曲で楽しむ
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ディタースドルフのオペラ《赤ずきんちゃん》のアリアをピアノ、ヴァイオリン、チェロの変奏曲で楽しむ 「ピアノ三重奏のための14の変奏曲(第10番)」
この室内楽編成の変奏曲が1804年1月にライプツィヒのホフマイスター&キューネル社から初版出版されたときには、変奏曲の主題の典拠がまったく印刷されていなかった。そのため、ベートーヴェンの自作主題と考えられていたこともあった。
しかし、20世紀になってから、この主題がウィーン生まれの作曲家カール・ディタース・フォン・ディタースドルフ(1739~99)のオペラ《赤ずきんちゃん》の中で歌われるアリア《さあ、彼女とはお別れだ》であると判明したことで、作曲年代も推定され、1792年、ボン時代の作品であると確定された。恐らく1792年に作曲されたピアノのための変奏曲《ディタースドルフのオペラ〈赤ずきんちゃん〉から〈むかしひとりの年老いた男がいたとさ〉の主題による13の変奏曲》WoO66と同時期に作曲されたものと推定されている。
解説:平野昭
ボン時代の作品とわかったのは、20世紀になってからなのですね。各変奏のちがいを楽しみながら聴いてみましょう。
「ピアノ三重奏のための14の変奏曲(第10番)」Op.44
作曲年代:1792年?(ベートーヴェン22歳?)
出版:1804年1月
楽曲構成:
【主題】アンダンテ、変ホ長調、2分の2拍子で、ピアノ、ヴァイオリン、チェロが完全にユニゾンで8分音符に8分休符を挟んでポツポツと分散和音音形を奏で、第8小節の頭で小休止するが、同じように再開して第14小節で、一旦、フェルマータで停止する。その後の8小節は豊かなハーモニーを響かせた後奏風の楽句で全22小節の主題呈示となる。
【第1変奏】主題の8分休符であった部分を刺繍音形で埋めたピアノ中心の変奏。
【第2変奏】ピアノの独奏、第3変奏はほぼピアノとヴァイオリンの二重奏に近く、チェロは控えめにピアノと同じバスを加えるだけ。
【第4変奏】ピアノとチェロの二重奏。
【第5変奏】ピアノ中心。
【第6変奏】トゥッティだが、3度平行のユニゾン。
【第7変奏】テンポをラルゴに落とし、拍子を8分の6拍子に変えて、変ホ短調のミノーレ変奏となる。ピアノの和音伴奏と左手旋律の上に、ヴァイオリンとチェロが交互に対話を続けてゆく。
【第8変奏】変ホ長調、2分の2拍子に戻り、弦楽器の細かい刻みの中にピアノがバス声部で変奏主題の一部をほぼ原形で再現する。
【第9変奏】ピアノが主導権を握るが弦楽器も同じ素材で応答する。
【第10変奏】風変わりなリズムの遊び。
【第11変奏】ピアノの3連音符分散和音形と弦楽器の16分音符による短い動機的音形のコントラスト。
【第12変奏】ピアノの両声部と弦の2声部が絡む4声部変奏。
【第13変奏】再び変ホ短調のミノーレでアダージョの重厚なコラール風変奏となる。
【第14変奏】長調の明るさを取り戻した最終変奏は8分の6拍子のアレグロで、91小節という大規模のフィナーレを堂々としたピアノ三重奏で華麗な変奏を築く。
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