プレイリスト
2020.08.30
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第8回

「主を讃えよ、大いなる力に満ち栄光に輝く王を」——三位一体後第12主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

オランダの画家バルトロメウス・ブレーンベルフ作『デカポリスの聾唖者を癒すキリスト』(1635)。

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2020年8月30日は、キリスト教暦の三位一体後第12主日。本日は晴れやかな喜びに満ちたカンタータ「主を讃えよ、大いなる力に満ち栄光に輝く王を」BWV137をお届けしましょう。

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初演が行なわれた1725年8月19日のライプツィヒの教会における礼拝では「マルコによる福音書」第7章31〜37が朗読されました。イエスが聾唖の人々を癒したというものです。

07:31それからまた、イエスはティルスの地方を去り、シドンを経てデカポリス地方を通り抜け、ガリラヤ湖へやって来られた。 07:32人々は耳が聞こえず舌の回らない人を連れて来て、その上に手を置いてくださるようにと願った。 07:33そこで、イエスはこの人だけを群衆の中から連れ出し、指をその両耳に差し入れ、それから唾をつけてその舌に触れられた。 07:34そして、天を仰いで深く息をつき、その人に向かって、「エッファタ」と言われた。これは、「開け」という意味である。 07:35すると、たちまち耳が開き、舌のもつれが解け、はっきり話すことができるようになった。 07:36イエスは人々に、だれにもこのことを話してはいけない、と口止めをされた。しかし、イエスが口止めをされればされるほど、人々はかえってますます言い広めた。 07:37そして、すっかり驚いて言った。「この方のなさったことはすべて、すばらしい。耳の聞こえない人を聞こえるようにし、口の利けない人を話せるようにしてくださる。」

新共同訳聖書より「マルコによる福音書」第7章31〜37

一説によれば、もともとこのカンタータは、その祝典的な曲想やコラールの歌詞から、その年の6月24日の洗礼者ヨハネの祝日用だったのではないかとも言われています。

先週ご紹介した「主イエス・キリストよ、この上なく貴い宝よ」でコラール・カンタータのお話しをしましたが、この曲は同名のコラール全5節の歌詞がそのまま各楽章に用いられ、旋律も随所に現れる点で興味深い作例と言えるでしょう。また、第3曲のソプラノとバスの二重唱を中心として、その両端にアルトとテノールそれぞれのアリア、それを第1曲と第5曲のコラール合唱で囲むという、バッハ好みのシンメトリックな構成も注目です。しかもハ長調を中心としていることもあって、その音楽の輝かしいこと!

3本のトランペットとティンパニを用いた編成のもたらす効果も絶大です。バッハの時代、楽器には何らかの象徴的な役割を担っていました。トランペットは「神」や「王」を人々に連想させ、特別に祝祭的な曲で用いられました。それも3本1組で、ティンパニとともに。3本は、もちろんキリスト教の「三位一体」の象徴です。

冒頭の合唱。3本のトランペットとティンパニが轟き、器楽や合唱の喜ばしい動きのなかでソプラノのパートがコラールを歌います。第2曲でアルトの歌うコラールのかたわらで奏でられる独奏ヴァイオリンのパッセージは、歌詞の「主は汝を鷲の翼に乗せて安全に導く」の鷲の飛翔を思わせますし、テノールの主を讃えるアリアは濃やかな装飾音で美しく飾られ、トランペットがコラールの旋律を印象深く奏でます。今日も善き日でありますように。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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