プレイリスト
2021.06.24
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第64回

《人々よ、神の愛を讃えなさい》BWV167——洗礼者ヨハネの祝日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ルネサンス期イタリアの画家ドメニコ・ギルランダイオ作『聖ヨハネの誕生』。

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洗礼者ヨハネは神の国の接近と悔い改めを解いて ヨルダン川で人々に洗礼を施した人です。イエスも彼から洗礼を受け、「女から生まれた者のうち、ヨハネより偉大な者はいない」(ルカによる福音書第7章28)と述べています。本日6月24日は、そのヨハネの誕生日、洗礼者ヨハネの祝日です。

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1723年6月24日のライプツィヒの教会で行なわれた礼拝では、「ルカによる福音書」第1章57から80節「洗礼者ヨハネの誕生」が朗読されました。

ユダヤ王ヘロデの時代の祭司ザカリアと、その妻エリサベトにはなかなか子どもができなかったのですが、ザカリアが聖所で香を焚いていると主の天使ガブリエルが現れ、エリザベトの懐妊を告げられます。

ドメニコ・ギルランダイオ作『ザカリアに懐妊を告げる天使ガブリエル』。

聖書の箇所は月が満ちてヨハネが生まれ、ザカリアが神を賛美する場面です。その出来事の半年後に、やはり天使ガブリエルからイエスを身籠ったことを知らされたマリアが、エリザベトを訪問して神の賛歌を謳いました。

ちなみに、この「洗礼者ヨハネの日」は夏至に近いことから、欧州では別名「ミッドサマー・デイ(真夏または夏至の日)」とも呼ばれています。

01:57さて、月が満ちて、エリサベトは男の子を産んだ。 01:58近所の人々や親類は、主がエリサベトを大いに慈しまれたと聞いて喜び合った。 01:59八日目に、その子に割礼を施すために来た人々は、父の名を取ってザカリアと名付けようとした。 01:60ところが、母は、「いいえ、名はヨハネとしなければなりません」と言った。 01:61しかし人々は、「あなたの親類には、そういう名の付いた人はだれもいない」と言い、 01:62父親に、「この子に何と名を付けたいか」と手振りで尋ねた。 01:63父親は字を書く板を出させて、「この子の名はヨハネ」と書いたので、人々は皆驚いた。 01:64すると、たちまちザカリアは口が開き、舌がほどけ、神を賛美し始めた。 01:65近所の人々は皆恐れを感じた。そして、このことすべてが、ユダヤの山里中で話題になった。 01:66聞いた人々は皆これを心に留め、「いったい、この子はどんな人になるのだろうか」と言った。この子には主の力が及んでいたのである。 01:67父ザカリアは聖霊に満たされ、こう預言した。 01:68「ほめたたえよ、イスラエルの神である主を。主はその民を訪れて解放し、 01:69我らのために救いの角を、僕ダビデの家から起こされた。 01:70昔から聖なる預言者たちの口を通して語られたとおりに。 01:71それは、我らの敵、すべて我らを憎む者の手からの救い。 01:72主は我らの先祖を憐れみ、その聖なる契約を覚えていてくださる。 01:73これは我らの父アブラハムに立てられた誓い。こうして我らは、 01:74敵の手から救われ、恐れなく主に仕える、 01:75生涯、主の御前に清く正しく。 01:76幼子よ、お前はいと高き方の預言者と呼ばれる。主に先立って行き、その道を整え、 01:77主の民に罪の赦しによる救いを知らせるからである。 01:78これは我らの神の憐れみの心による。この憐れみによって、高い所からあけぼのの光が我らを訪れ、 01:79暗闇と死の陰に座している者たちを照らし、我らの歩みを平和の道に導く。」 01:80幼子は身も心も健やかに育ち、イスラエルの人々の前に現れるまで荒れ野にいた。

新共同訳聖書より「ルカによる福音書」1章57〜章80節

バッハの音楽はソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱に合唱、トランペット、オーボエ、オーボエ・ダ・カッチャ(狩のオーボエ)、弦楽、通奏低音です。

希望に満ちた、上行の音型を奏でる弦楽の前奏に続いて、テノール(アリア)が「人々よ、神の愛を讃えない。純粋な心から神の良き業を讃えなさい。神が私たちにしかるべき時の救いの角、命の道を御子イエスのもとで与えてくださったのです」とザカリアの気持ちを歌います。

するとアルト(レチタティーヴォ)が「主なるイスラエルの神を讃えよう。神は恵みとともに私たちに御子を天上の玉座から送って世の救い主とされました。最初にヨハネが救い主に道を準備するために現れなければなりませんでした。その後イエスご自身が現れました。貧しい人たちや迷える罪びとを愛と恵で喜ばせ、悔い改めのうちに天国へと導くために」と言い、ソプラノとともに二重唱を歌います。「神のみ言葉は欺かない。神の約束が実現するのです。神が楽園で幾百年もの昔に父祖たちに約束されたことを私たちは体験したのです」

そしてバス(レチタティーヴォ)が「女から生まれた者が来た。時が満ちたのちに、神がアブラハムに約束された祝福がもたらされた。太陽がかがやくばかりに。私たちの悲嘆は沈められ、口のきけないザカリアは神を讃美する。民に示された御業を。あなたがたキリスト者たちよ、神の行ないを思い、感謝の歌をささげよ」と述べ、最後に合唱がグラーマンのコラールを歌います。「讃美と称賛と栄光が、父にして子、聖霊なる神にありますように。神がご慈悲にもわたしたちに約束してくださったことが増しますように。わたしたちは神を信じ、身を委ね、心から信頼します。……今こそ歌おう、アーメンと。わたしたちは達成するであろうことを、心の祖底から信じましょう」

ドメニコ・ギルランダイオ作『キリストの洗礼』。
那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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