プレイリスト
2021.06.20
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第63回

《ああ主よ、哀れなる罪人のわたしを》BWV135——三位一体節第3主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

16世紀オランダの詩人、画家ヤン・ルイケンのエッチング『羊飼いの帰還』。

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おはようございます。本日は、1724年の三位一体説後3主日(1724年6月25日)にライプツィヒで演奏されたカンタータ第135番を聴きましょう。

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その日朗読された福音書は「ルカ第15章第1~10節」。見失った一匹の羊や一枚の銀貨を、悔い改めるべき罪人に喩え、神はそういう者たちこそ大切にするというお話です。

15:01徴税人や罪人が皆、話を聞こうとしてイエスに近寄って来た。 15:02すると、ファリサイ派の人々や律法学者たちは、「この人は罪人たちを迎えて、食事まで一緒にしている」と不平を言いだした。 15:03そこで、イエスは次のたとえを話された。 15:04「あなたがたの中に、百匹の羊を持っている人がいて、その一匹を見失ったとすれば、九十九匹を野原に残して、見失った一匹を見つけ出すまで捜し回らないだろうか。 15:05そして、見つけたら、喜んでその羊を担いで、 15:06家に帰り、友達や近所の人々を呼び集めて、『見失った羊を見つけたので、一緒に喜んでください』と言うであろう。 15:07言っておくが、このように、悔い改める一人の罪人については、悔い改める必要のない九十九人の正しい人についてよりも大きな喜びが天にある。」 15:08「あるいは、ドラクメ銀貨を十枚持っている女がいて、その一枚を無くしたとすれば、ともし火をつけ、家を掃き、見つけるまで念を入れて捜さないだろうか。 15:09そして、見つけたら、友達や近所の女たちを呼び集めて、『無くした銀貨を見つけましたから、一緒に喜んでください』と言うであろう。 15:10言っておくが、このように、一人の罪人が悔い改めれば、神の天使たちの間に喜びがある。」

新共同訳聖書より「ルカによる福音書」15章1〜章10節

この曲は、16世紀のルター派牧師、賛美歌作家、作曲家、音楽理論家でもあったキリアクス・シュネーガスが、詩編第6を基に書いたコラールの歌詞を、冒頭と最後の合唱などに用いた「コラール・カンタータ」です。コラールの旋律は、ルネサンスの作曲家ハスラーのもので、バッハはのちに《マタイ受難曲》で使っています。ただ、カンタータの冒頭合唱曲では、バスの声部に旋律の音価が長く引き伸ばされて奏でられているので、わかりにくいかもしれません。歌詞は作者不詳ですが、迷える羊や銀貨の立場から、神への救いを求める声が歌われます。

編成はアルト、テノール、バスの独唱、4部合唱。コルネット(ドイツでツィンク、リコーダーのような指孔をもち、トランペットのようなマウスピースのついた管楽器)、トロンボーン、オーボエ2、弦楽と通奏低音です。

合唱がイ短調のコラールの第1節を歌います。「ああ主よ、この哀れな罪びとをあなたの怒りで罰しないでください。激しい怒りを和らげてください。そうでなければわたしは滅んでしまいます。ああ主よ、どうかわたしとわたしの罪を赦し、慈しんでください。とこしえに生き、地獄の苦しみから逃れられるように」

続いてテノール(レチタティーヴォとアリア)が、同名のコラールの第2節の歌詞を基に「ああ、魂の医者であるあなたよ、どうか私を癒してください。私はとても病み衰えています。人は私の骨の数を数えるでしょう。これほどひどい状態にしたのは、私自身の禍いであり、私自身の十字架、苦しみなのです。わたしの顔は涙に濡れ、魂は不安と恐怖に満ちています。いつまでこんなことが続くのでしょう」と言い、オーボエとともに「イエスよ、わたしの心を慰めてください。そうでなければわたしは死の底に沈んでしまいます。あなたの良き業で魂の深い苦しみから助けてください。死の国では誰もあなたのことを考えないからです。愛する主よ、御心ならば、どうかわたしを喜ばせてください」と歌います。

ここでアルト(レチタティーヴォ)が、「わたしはため息に疲れました。魂には力がありません。魂は安らぐことも平安もなく、わたしは夜の間ずっと汗と涙に暮れています。あまりの恐れに死ぬほど苦悩し、嘆き、老いさらばえていきます」と述べ、バス(アリア)が力強く、「悪者どもよ、退け、わたしのイエスが慰めてくださる。イエスは涙と嘆きの後で再び喜びの太陽を輝かせる。荒天は変わり、敵は倒れ、彼らの矢は彼ら自身に放たれる」と歌って、最後に合唱がコラールの第6節を唱和します。「天の玉座に栄光あれ、高き誉れと讃美とともに、御父と御子と、そして同じく聖霊に栄光がありますように。世々とこしえに、神がわたしたちすべてに永遠の祝福を与えられますように」。歌詞は異なりますが、これこそ《マタイ受難曲》の第54曲のコラールと同じ音楽です。

《マタイ受難曲》第54曲コラール「おお、血と涙にまみれし御頭」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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