プレイリスト
2021.06.13
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第62回

《天は神の栄光を語る》BWV76——三位一体節第2主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

16世紀オランダで活動した匿名の画家ブラウンシュヴァイク・モノグラミスト『神の国の大宴会のたとえ』

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 おはようございます。本日は三位一体節第2主日。1723年のこの日に初演された76番をお送りしましょう。ライプツィヒのトーマス・カントル就任後、市内の教会の礼拝のために作曲されたカンタータの第2作です。

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その日、朗読されたのは「ルカによる福音書」から第14章第16~24節。イエスが、律法学者たちが多く所属するファリサイ派の家で安息日の食事をしていたときに、客の一人が「神の国で食事をする人は、なんと幸いなことでしょう」と言ったことに対する喩え話です。神の国の宴会ではすべての民に御馳走が供されるというのに(「イザヤ」25章6節)、自分勝手な理由で断ってしまう人たちがいる。そういう人たちに「わたしの食事を味わう者は一人もいない」とイエスは言います。大切なことは神の恵みを受け取る側の心構えなのですね。

14:16そこで、イエスは言われた。「ある人が盛大な宴会を催そうとして、大勢の人を招き、 14:17宴会の時刻になったので、僕を送り、招いておいた人々に、『もう用意ができましたから、おいでください』と言わせた。 14:18すると皆、次々に断った。最初の人は、『畑を買ったので、見に行かねばなりません。どうか、失礼させてください』と言った。 14:19ほかの人は、『牛を二頭ずつ五組買ったので、それを調べに行くところです。どうか、失礼させてください』と言った。 14:20また別の人は、『妻を迎えたばかりなので、行くことができません』と言った。 14:21僕は帰って、このことを主人に報告した。すると、家の主人は怒って、僕に言った。『急いで町の広場や路地へ出て行き、貧しい人、体の不自由な人、目の見えない人、足の不自由な人をここに連れて来なさい。』 14:22やがて、僕が、『御主人様、仰せのとおりにいたしましたが、まだ席があります』と言うと、 14:23主人は言った。『通りや小道に出て行き、無理にでも人々を連れて来て、この家をいっぱいにしてくれ。 14:24言っておくが、あの招かれた人たちの中で、わたしの食事を味わう者は一人もいない。』」

新共同訳聖書より「ルカによる福音書」14章16〜章24節

バッハのカンタータは先週と同じ2部構成全14曲。1部と2部の最後にルターのコラール「願わくば神我らを顧みて」を配した大掛かりなもので、編成はソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱に合唱、トランペット、オーボエ2、オーボエ・ダモーレ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、弦楽、通奏低音。さっそく聴いていきましょう。

第1部

まず、トランペットなどをともなう合唱で「詩篇」の神への賛歌が歌われます。「天は神の栄光を物語り、大空は御手の業を示す」。後半のフーガが圧巻です。

続いてテノール(レチタティーヴォ)が、「このように神は、ご自分を証言せずにはおかない。自然と恵みがすべての人に語りかける。神がなさったのだから天が活動し、霊と身体も動くのだと」。そして、御使いを出して私の愛の宴に来なさいと呼びかけると、ソプラノ(アリア)がヴァイオリンと通奏低音で「民たちよ、神の声を聞きなさい。恵みの玉座へと急ぎなさい。すべての基礎と終わりは神の独り子。すべては彼へと向かう」と歌います。

そこでバスが「でも多くの人が他の神々に向かうときに、誰が聞くだろう。古い神々の身勝手な欲望が人々を支配し、智者たちは愚行をたくらみ、悪魔(ベリアル)が神の家に居座り、キリスト者ですらキリストから去って行くのだから」と語りますが、すぐさま勇壮なトランペットとともに力強く、キリストを讃える決意を歌います。「偶像を崇拝する輩たちよ、立ち去れ!たとえこの世がわたしから離れても、キリストを讃えよう。キリストは理性の光なのだから」。

ここからが神の宴会です。アルト(レチタティーヴォ)が、神の国への宴席に呼んでくれたことに想いを馳せます。「主よ、あなたは私たちが異邦人の闇に座していた道端から、ご自分のもとへ呼んでくださいました。そして光によって私たちを元気づけてくださり、あなたご自身とともに食べ物や飲み物とあなたの御霊を送ってくださった。御霊はいつも私たちの霊の中に漂う。だからあなたにこの祈りを捧げましょう」

そしてルターの祈りのコラールで第1部を閉じます。「神がわたしたちに恵み深くあり、祝福を送ってくださりますように。明るく輝く御顔で私たちを永遠の命へと照らしてくださいますように……」。

第2部

後半はオーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)とヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音だけの、しっとりしたホ短調のシンフォニア(序曲)で幕を開けます。

まずテノール(レチタティーヴォとアリア)が「神に忠実な人々たちを祝福してくださるように」と祈ります。「信仰と愛と神聖さによって彼らが自らの栄光を証し増やせるように。彼らは地上の天国、憎しみと危険に対して戦いを挑み、この世で清められる」と述べ、「敵対する者どもよ、わたしを憎め。わたしは信仰をもってキリストを抱くためにすべての喜びを捨てます」と力強く歌ます。

続いてアルト(レチタティーヴォとアリア)が、「わたしの霊は、キリストがわたしに愛の甘美さを示し、マナ*を与えて下さることを感じています。それは現世で兄弟の絆である忠誠が常に強化され、新しくなるため」と言い、ふたたびシンフォニアと同じ編成と調性で。だから「愛しなさい、キリスト者たちよ! イエスがご自分を結び付けてくださったので、イエスは兄弟たちのために死に、兄弟たちは互いのために死ぬのです」と歌います。

*マナ:イスラエル人がエジプトを脱出して荒野を旅していたときに天から与えられた食べ物(『新共同訳聖書』日本聖書協会)

ここでテノール(レチタティーヴォ)が「このようにしてキリスト者は神の愛を讃美せよ、身をもって証せ! 敬虔な魂である天が、神と神への讃美を語るまで永遠に」と述べると、合唱が第7曲と同じルターのコラールを歌います。「民よ、よき業を持ち、神に感謝し、讃えよ。大地は豊かに稔り、御言葉が育つ。父と子の祝福があり、聖霊である神の祝福がありますように。すべての世界が神を讃美し、畏れたてまつりつつ心から言おう。アーメン」と。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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