「主なる神は日なり、盾なり」BWV79——宗教改革記念日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
ルターが「95か条の論題」をヴィッテンベルクの城教会の扉に掲示したのは1517年10月31日のことです。長きに渡る宗教戦争の終結後の1667年以来、ルター派プロテスタント教会では、その日を宗教改革記念日として祝ってきました。
当然バッハの暮らした地域もそうでしたが、この日のためにバッハが書き下ろしたカンタータは、本日の第79番「主なる神は日なり、盾なり」と第80番「我らが神は堅き砦」しか伝えられていません。
後者は大変な名曲なのですが他のカンタータを作り替えたものなので、本日はバッハがこの日のために書き下ろした第79番「主なる神は日なり、盾なり」をお聴きいただくことにしましょう。
1725年の記念日にライプツィヒの教会で行なわれた礼拝では、「ヨハネの黙示録」から14章6~8節の「3人の天使の言葉」が朗読されました。
14:06わたしはまた、別の天使が空高く飛ぶのを見た。この天使は、地上に住む人々、あらゆる国民、種族、言葉の違う民、民族に告げ知らせるために、永遠の福音を携えて来て、 14:07大声で言った。「神を畏れ、その栄光をたたえなさい。神の裁きの時が来たからである。天と地、海と水の源を創造した方を礼拝しなさい。」 14:08また、別の第二の天使が続いて来て、こう言った。「倒れた。大バビロンが倒れた。怒りを招くみだらな行いのぶどう酒を、諸国の民に飲ませたこの都が。」
新共同訳聖書より「ヨハネの黙示録」14章6〜8節
3人の天使が空高く飛びながら「神を畏れ、その栄光を讃えなさい。神の裁きの時が来た」と告げ知らせる場面ですが、バッハのカンタータの歌詞はとくに聖書の記述には触れていません。「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」(リンカルト作)と「いざ、われらに主なる神への感謝の歌をうたわせたまえ」(ヘルムボルト作)という2つのコラールを用いて祝祭日にふさわしい、たいへん晴れやかな気分に満ちた作品になっています。
因みにバッハの研究者クラウス・ホフマン氏によれば、当時のライプツィヒの教会では宗教改革記念日の典礼の際、牧師の説教後に前者のコラールが会衆によって歌われる習慣があったそうです。
楽器編成はソプラノとアルトとバスの独唱に合唱。ホルン2、ティンパニ、オーボエ2、弦楽と通奏低音ですが、バッハは1730年の再演の際にフルート2本を加えるなどの変更を行なっています。
第1曲は対位法的な技巧を駆使した華麗な音楽で、ホルンが勇壮な気分を盛り立てます。歌詞は旧約聖書の「詩篇」から「主なる神は太陽にして盾、主は恵みと誉を与え、正しい道を歩む者に良いものを与えてくださる」と歌います。
続いてアルト(アリア)が「神は私たちの太陽、盾。だからその慈しみを、感謝を込めて讃えます」と神を讃美します。
これにはオーボエによる初演版と、フルートによる1730年の再演版があり、本日は後者をお聴きいただきます。
ここで再びコラール「いざ、すべての者よ、神に感謝せよ」が全合奏を伴って力強く合唱され、バス(レチタティーヴォ)が、イエスが御言葉をもって救いへの正しい道を示してくださったことを感謝するとともに、まだそれを知らない多くの者への憐れみを乞い、ソプラノとバス(アリア)が旧約聖書の詩篇などの言葉を用いて、「あなたの者たちを見捨てないでください、あなたの御言葉で私たちを照らしてください、どんなに多くの敵が怒り狂おうとも」と歌います。
そして最後にヘルムボルトのコラールを穏やかに唱和して曲を閉じます。「私たちを真理のうちに生かし、永遠の自由を与えてください。あなたの御名を讃えるために。イエス・キリストによりて、アーメン」。
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