プレイリスト
2020.11.08
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第20回

「備えよ、わたしの魂よ」BWV115——三位一体後第22主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノやオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏。音...

17世紀のフランス人画家クロード・ヴィニョン作「仲間を赦さない家来のたとえ」。

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ドイツでは11月も中頃になると、どんどん気温が下がり、道路は銀杏の落ち葉で黄金のカーペットになります。教会暦はクリスマスの4週間前のアドヴェント(降誕節)から始まるので11月は一年の終わり。そのためでしょうか。バッハのカンタータの主題も死や眠り、最後の審判に関するものが多くなります。

さて、本日は1724年の三位一体後第22日曜日(その年は11月5日)にライプツィヒの教会で初演された「備えよ、わが魂よ」BWV115をお届けします。

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その日の礼拝で朗読されたのは、福音書マタイ18章の23から35節「仲間を赦さない家来のたとえ」。

「兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回赦すべきでしょうか。7回ですか」と弟子のペトロに訊ねられたイエスが、「7の70倍までも赦しなさい」と答えてから語り始める、たとえ話しです。

ある家来が王に借金を許してもらったのに、自分では仲間から借財を厳しく取り立て、返せないと牢屋に入れた。それを聞いた王は怒って家来を牢屋に入れた。あなた方は心から兄弟を赦しなさいというものです。

18:23そこで、天の国は次のようにたとえられる。ある王が、家来たちに貸した金の決済をしようとした。 18:24決済し始めたところ、一万タラントン借金している家来が、王の前に連れて来られた。 18:25しかし、返済できなかったので、主君はこの家来に、自分も妻も子も、また持ち物も全部売って返済するように命じた。 18:26家来はひれ伏し、『どうか待ってください。きっと全部お返しします』としきりに願った。 18:27その家来の主君は憐れに思って、彼を赦し、その借金を帳消しにしてやった。 18:28ところが、この家来は外に出て、自分に百デナリオンの借金をしている仲間に出会うと、捕まえて首を絞め、『借金を返せ』と言った。 18:29仲間はひれ伏して、『どうか待ってくれ。返すから』としきりに頼んだ。 18:30しかし、承知せず、その仲間を引っぱって行き、借金を返すまでと牢に入れた。 18:31仲間たちは、事の次第を見て非常に心を痛め、主君の前に出て事件を残らず告げた。 18:32そこで、主君はその家来を呼びつけて言った。『不届きな家来だ。お前が頼んだから、借金を全部帳消しにしてやったのだ。 18:33わたしがお前を憐れんでやったように、お前も自分の仲間を憐れんでやるべきではなかったか。』 18:34そして、主君は怒って、借金をすっかり返済するまでと、家来を牢役人に引き渡した。 18:35あなたがたの一人一人が、心から兄弟を赦さないなら、わたしの天の父もあなたがたに同じようになさるであろう。」 

新共同訳聖書より「マタイによる福音書」18章23〜35節

バッハのカンタータはソプラノ、アルト、テノール、バスに合唱、ホルン、フルート、オーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)、それに小型のチェロ(ヴィオロンチェロ・ピッコロ)、弦楽と通奏低音。最初と最後の楽章などにカンタータと同名のコラール(讃美歌)を使ったコラール・カンタータです。

歌詞の内容は直接的に聖書とは関係がないのですが、言うなれば、兄弟を赦して天の国に備えなさい、神の裁きは常に人の罪に寛容なのだ、ということでしょうか。

第1曲合唱。フルートやオーボエ・ダモーレなどの器楽に続いて合唱がコラールを歌います。「備えよ、わたしの魂よ、目覚めて祈りなさい。突然悪い時が来ないように。多くの信徒にサタンが誘惑の手を伸ばすのだから」。明るく勇ましく確信に満ちた音楽です。

ここで音楽は長調から短調に変わり、アルト(アリア)が、揺れるようなシチリアーノ風のリズムで、眠っている魂に呼びかけます。この歌詞も、先のコラールに由来し、「眠っている魂よ、まだ休んでいるのか。起きなさい。裁きがお前を目覚めさせるかもしれないのだから。眠ったまま永遠の死が訪れますよ」

するとバス(レチタティーヴォ)が、「暗い罪を嫌う神は、いつもお前の魂を見張っていてくださる。お前に慈悲の光を送り、お前の魂が起きていることを求める。サタンは理由なく罪人を魅了する。お前が恵の契約を破るなら二度と神の助けは得られない。この世と、その仲間は偽りの兄弟。それなのにお前の肉と血は、ただこの世にこびへつらうばかり」と語ります。

ソプラノ(アリア)も同様のことを歌います。「そのような時にもはっきりと目覚めていて祈りなさい。どんな大きな罪にもお前の裁きの主が寛容であられることを願いなさい。罪から自由にし、浄めてくれることを」。フルートと小型のチェロが、美しいパッセージを奏でます。

そしてテノール(レチタティーヴォ)が「主は私たちの叫びに耳を傾けてくださる。どんなに敵が私たちの苦しむ様子を喜んでも、私たちは主の力で勝利を得る。私たちが祈る御子が、私たちに勇気と力を与え、救い主として私たちのもとに来てくれるのだから」と語り、最後に合唱がコラールを静かに歌って曲を締めくくります。「だからつねに目覚め、ひたすら祈りなさい。不安や苦難、危機はすぐそこにあるのだから。神が私たちを裁き、この世を滅ぼすその時は、決して遠くないのだから」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノやオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏。音...

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