プレイリスト
2020.12.25
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第27回

クリスマス・オラトリオ第1部「歓呼の声を放て、喜び踊れ」——降誕節第1日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ルイ14世時代のヴェルサイユ宮第一画家、シャルル・ル・ブラン作『主の降誕』

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フローエ・ヴァイナハテン(メリー・クリスマス)! 1月6日の顕現日(エピファニー)までのクリスマス(降誕節)期間の始まりです。

バッハの時代のお話をしましょう。1734年12月25日から翌年6日にかけて、ライプツィヒの聖トーマス教会と聖ニコライ教会で、バッハの6曲のカンタータが演奏されました。

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それぞれ独立した楽曲ですが、本日25日はイエスの御生誕(第1部)、26日は天使たちの羊飼いたちへのお告げ(第2部)、27日は羊飼いたちのイエスの訪問(第3部)が、そして年が明けた1日には信徒たちの御子生誕へのさまざまな想いが歌われ(第4部)、最初の日曜日(今年は1月3日)はイエス降誕の知らせを聞いたヘロデ王の不安とおののき(第5部)が、1月6日の「主顕現日」には東方3博士のイエス訪問というように、一連の物語になっていることから、《クリスマス・オラトリオ》のタイトルで親しまれているのです。

17世紀のフランス画家ジョルジュ・ラ・トゥール作『聖誕』。クリスマスオラトリオ第1部で歌われる、主の生誕を描いている。

他のカンタータと違うところは、テノールの福音書記者(エヴァンゲリスト)が聖書(ルカによる福音書)の言葉をレチタティーヴォで語ることでしょう。他はコラールと、宗教的な自由に作詞されたアリアが歌われます。

もう一つ申し添えておきたいのは、大部分の曲が世俗カンタータ《岐路に立つヘラクレス》BWV213や《太鼓よ轟け、ラッパよ響け》BWV214など、バッハ自身が作曲した楽曲の再利用(パロディ)ということです。とはいえ、どの曲も歌詞と音楽が見事に合致しているので最初から計画していたと思えるほどです。

礼拝では聖書の朗読や牧師の説教が行なわれましたが、物語の内容と同じとは限りません。そこで、ここでは各曲のご説明とともに福音書記者の語る聖句を記します。

編成はソプラノ、アルト、合唱、トランペット3、ティンパニ、ホルン2、フルート2、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ2、弦楽と通奏低音。

さっそく第1部から聴いていきましょう。神の世界を象徴する3本のトランペットとティンパニが高らかに鳴り響く壮麗なシンフォニアで幕を開けます。「喜べ、声を上げよ、日々を称えよ。褒めよ、今日いと高き方が行なったことを!

まず、福音書記者(レチタティーヴォ)がイエスの誕生を伝えます。「そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行なわれた聖書の住民登録である。人々は皆、登録するためにおのおのの自分の町へ旅立った。ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちた」。(「ルカ」第2章第1~6節)

アルト(レチタティーヴォ、アリア)が「今こそわたしの最愛の花婿が、ダビデの末裔の勇者が、この世の慰めと救いのために産まれる……」と言い、「シオンよ、備えよ。最も美しく、愛すべき人がまもなくお前のもとにやってくるのだから……」とイエス誕生の喜びを歌います。

ここで合唱による降誕節のコラール歌われます。「どのようにあなたをお迎えし、あなたにお目にかかりましょう。この世の憧れよ、わたしの魂の誉れよ!……」

ふたたび、福音書記者(レチタティーヴォ)による聖書の一節です。そしてマリアは「初めての子を産み、布にくるんで飼葉桶に寝かした。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである」(同第7節)

そこでソプラノがルターのコラールを一行ずつ歌うごとに、バスがそれに対する思いを語ります。ソプラノのコラール「彼が貧しい姿でこの世に来られた」-バス「私たちの主が私たちに抱かれるこの愛を、誰が高められるでしょうか?」-コラール「私たちを憐れまれるために」-バス「そうです。人の苦しみがどれだけあの方の心を動かしたか、誰が理解できるでしょうか」-コラール「天において富む者となすために」-バス「いと高き者の子がこの世に来られた」-コラール「そして神の愛すべき天使と等しくしてくださるために」-バス「だからこそ彼は自ら人として生まれたのですね」-コラール「主よ、憐れみたまえ」。

続いてバス(アリア)が「偉大なる主よ、力強い王よ、親愛なる救い主よ、あなたの目にこの地上の輝きなどあまりにも小さすぎる。この世のすべてを保ち、その輝きと誉を創られた方が、今硬い飼葉桶の中で眠らなければならない」と歌い、最後に合唱が「ああ、心から愛するイエスよ、柔らかな寝床をつくり、わたしの心の宮でお眠りください。あなたを決して忘れることがないように」とルターのコラールを静かに合唱します。

聖書の個所は新共同訳『聖書』日本聖書協会1999年より引用。

14世紀ドイツの画家コンラート・フォン・ゼスト作『キリストの誕生』。
那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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