プレイリスト
2021.03.29
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第42回

《マタイ受難曲》第2日(最後の晩餐)——受難週2日目

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

レオナルド・ダ・ヴィンチ作『最後の晩餐』。

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昨日の「棕櫚(しゅろ)の主日」から聖金曜日まで、6回にわたってお届けするバッハの《マタイ受難曲》。

本日はユダヤ人たちにとって重要な宗教的な行事「過ぎ越しの祭り」の食事、いわゆる最後の晩餐の場面です。音楽は福音書記者のレチタティーヴォによる案内で話が進みますが、前回同様、その部分を含む福音書のテキストのみ全文を太字で記します。なお福音書記者はテノール、イエスはバスが受け持ちます。

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福音書記者(第9曲a)「過ぎ越し祭りの第1日に弟子たちがイエスのところに来て言った」。弟子たちが口々に言います。合唱I(第9曲b)「どこに過ぎ越しの食事の用意をしましょうか」。福音書記者「彼は答えた」。イエス「町に入り、ある人のところに行ってこう言いなさい。『ご主人が言われる、私の時は近づいた、私はなたのところで弟子たちと共に過ぎ越しの食事をする』」

福音書記者「そして弟子たちはイエスに命じられた通りに言って過ぎ越しの食事の準備をした。夕方になると12人の弟子たちともにテーブルに着かれた、彼らが食事をしているときにイエスは言われた」。イエス「よくよく言っておく。おまえたちの一人が私を裏切るであろう」。福音書記者「弟子たちは非常に心を痛めて互いに言った」(第9曲c )。

弟子たちは自分たちの誰かが、イエスを裏切ると聞いて落ち着いていられません。

合唱Ⅰ(第9曲e)「主よ、私ですか」と口々に叫び、それを受けて2つの合唱がコラール(第10曲)を歌います。「私です。私こそ罰せられなければならかった。手も足も地獄に繋がれて。むち打ち、束縛、あなたが耐えられたすべて。それは私の魂にこそふさわしいものだった」。

一体誰がイエスを裏切るというのでしょう。福音書記者「イエスは答えて言われた」。イエス今、私と共に鉢に手を浸している者が私を裏切る。人の子は聖書に書いてある通り、確かに去っていく。しかし、人の子を裏切るその人は不幸だ。生まれなかった方がその人のために良かった」。福音書記者「イエスを裏切ろうとしていたユダが答えて言った」。ユダ「先生、私ですか」。イエス「それはあなたの言ったことだ」。福音書記者「一同が食事をしている時、イエスはパンを取り、賛美の祈りを捧げて、それを裂き、弟子たちに与えながら言われた」。イエス「取って食べなさい。これはわたしの身体である」。福音書記者「また盃を取り、感謝の祈りを唱え、彼らに渡して言われた」。イエス「皆、この杯から飲みなさい。これは、罪が許されるように、多くの人のために流されるわたしの血、契約後である。言っておくが、わたしの父の国であなたがたと共に新たに飲むその日まで、今後ぶどうの実から作ったものを飲むことは決してあるまい」(以上第11曲)。

このイエスの言葉を聞いたソプラノⅠ(レチタティーヴォとアリア)が、「私の心は涙に漂う。イエスが私に別れを告げられのだから。でもあの方の約束の言葉は新たな喜び。その肉と血、なんと尊いものを私に残してくださるのでしょう……」(第12曲)と述べ、「そうであれば私はあなたに心を捧げます」と喜びに満ちたアリアを歌います。伴奏は2本のオーボエ・ダモーレと通奏低音です(第13曲)。

さて、最後の晩餐を終えたイエスと弟子たちはオリーブ山に登ります。福音書記者「一同は賛美の歌を歌ってから、オリーブ山に出かけた。その時イエスは弟子たちに言われた」。通奏低音の駆け上がるような音型がまさに山に登っているようですね。イエス「今夜あなたがたは皆私につまずく。『私は羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散ってしまう』と書いてあるからだ。しかし、私は復活した後、あなた方より先にガリラヤに行く」(第14曲)。

ここで再びコラールが合唱Ⅰ・Ⅱによって歌われます(第15曲)。「私をどうか認めてください。我が守り主よ、わが牧者よ、私を受け入れてください。……」。このコラールの旋律は、この後も何度も聴くことになるでしょう。ここでイエスはペテロに預言します。

福音書記者「ペテロはイエスに応えて言った」。ペテロたとえ、みんながあなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」。福音書記者イエスは言われた」。イエスはっきり言っておく。あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度わたしのことを知らないというだろう。福音書記者「ペテロはイエスに言った」。ペテロ「たとえ、ご一緒に死なねばならなくなっても、あなたのことを知らないなどとは決して申しません」。福音書記者「弟子たちも皆、同じように言った」(第16曲)。

そして合唱が弟子たち一同の、信者たちの想いを、先ほどと同じ旋律のコラールで歌います。「私は、ここに、あなたの御許にとどまろう。どうか私を蔑まないでください……」(第17曲)。

本日はここまで。また明日お会いしましょう。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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