《復活祭オラトリオ》BWV249——復活祭(イースター)
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
今日は、イエスが受難から3日後に復活したことを記念する復活祭。キリスト教のもっとも古くからある最大の祝日です。
クリスマスと違って「春分の日」の満月後の日曜日なので移動祝日ですが、春の祭りなのは英語のイースターやドイツ語のオーステルンが、それぞれアングロサクソンとゲルマンの神話に登場する曙や春の女神の名前を語源としていることからもおわかりでしょう。
たとえばドイツなどでは、復活祭になると家々や、お店にカラフルに彩色された鶏卵(実際には卵の殻)をぶらさげたツリーが飾られて復活祭の気分を盛り上げるのです。
それは祭の前の晩に、兎が卵の贈り物をもってやってくるという言い伝えがあるためです。西洋諸国では繁殖力の強い兎と卵は生命誕生のシンボルなのです。
さて、バッハの《復活祭オラトリオ》は1725年の復活祭(4月1日)に、ライプツィヒで初演されました。実はこの作品は、バッハお得意のパロディ技法で作られています。既存の楽曲を転用して別の作品に仕立てる方法ですね。
原曲は同年2月23日に演奏された世俗カンタータ《逃れよ、消えよ、退き失せよ》BWV249a。4人の羊飼いが出てくる牧歌劇で、《復活祭オラトリオ》には全10曲中、7曲の楽曲が用いられています。
台本は新訳聖書の4つの福音書の復活の記事をもとにしていますが、受難曲のような福音書記者は登場しません。イエスが復活したという知らせを受けた人たち、——ヤコブの母マリア(ソプラノ)、マグダラのマリア(アルト)、ペトロ(テノール)、ヨハネ(バス)が物語を進行し、管弦楽とともにレチタティーヴォで語り、かつ歌います。それでは、さっそく聴いていきましょう。
編成は上記の声楽家のほか、合唱とトランペット3、ティンパニ、リコーダー2、フルート、オーボエ2、オーボエ・ダモーレ、弦楽、通奏低音。
第1曲シンフォニアも何らかの協奏曲の転用と考えられています。神の世界を象徴する3本のトランペットが活躍。最高にハッピーな出来事にふさわしく、ニ長調という明るい調性で躍動感いっぱい。管弦楽の軽やかなテンポは、知らせを聞いて喜び馳せ参じる人々の足取りのようです。続く第2曲も器楽のみ。これも失われた何らかの協奏曲の緩徐楽章の転用。ロ短調のしっとりとした憂いを帯びた情感が美しいですね。この曲の独奏楽器は初稿のオーボエと、再演の際のフルート、2つの選択が可能です。本日はオーボエによる版でお聴きいただきます。
第3曲は再び第1曲と同じ楽器と調性に戻って、合唱が「おいで、急げ、走れ、駆け抜ける足よ、イエスが葬られた洞窟に急げ!」と歌い、テノール(ペトロ)とバス(ヨハネ)が「笑いと冗談が心から湧き上がる。救い主が復活されたのだから」と歌います。以下、登場人物の名でご案内しましょう。
第4曲は先の4人の嘆きの対話です。当時のユダヤ人たちの間では、臨終に際して香油で体を浄める習慣があるのですが、それをイエスにして差し上げられなかった。マグダラのマリア(アルト)が言います。「おお、男たちの心は冷たい。主に報いるべきお前たちの愛はどこへ行ったのか」、ヤコブの母マリア(ソプラノ)「一人の弱い女性がお前たちに恥をかかせることになるなんて!」、ペトロ(テノール)「ああ、悲しみの極致」、ヨハネ(バス)「それと心の不安と痛みが」、ペトロとヨハネ「塩辛い涙と憂いに満ちた憧憬とともに、彼に葬りの塗油を施そうとしたのに」、2人のマリア「その思いも無駄になった」。
第5曲 続いてヤコブの母マリアが「魂よ、おまえの香料は、もう葬りの没薬ではない。なぜなら燦然と輝く月桂冠だけが、お前の望みを満たすのだから」と歌います。
没薬は、死体の防腐剤として用いられていたために死の象徴だったのですが、イエスが生まれたときに東方の三博士が贈り物として以来、イエスの受難後の復活を象徴するものになったのです。独奏フルートがしっとりとした情感を添えます。
第6曲で再びマグダラのマリアとペトロとヨハネが登場して、イエスの墓に到着したときの言葉を交わします。ペトロ「ここが墓なのだけど」、ヨハネ「墓を覆っていた石がこんなところに。でも私の主はどこに?」、ペトロ「見てごらん、嬉しいことに御頭を包んでいた亜麻布が落ちている」。
第7曲はペトロのアリア。「イエスよ、あなたの亜麻布によって、私の死の苦しみはやわらぎ、眠りのまどろみとなります。そうです。それは私を力づけ、私の苦しみの涙は優しく拭われます」。風がそよぐような弦楽の音型が、なんともさわやかですね。
第8曲と第9曲は、2人のマリアのレチタティーヴォ。「でも、今すぐに救い主にお会い出来れば、燃え上がる思いとともに吐息をもらすでしょう」。マグダラのマリア(アリア)が力強く歌います。「教えてください。早く、どこで主に会えるのでしょうか。私の魂の愛する主に!来てください、私をしっかり抱きとめてください。あなたがいなければ私の心はみなし子のようにただ悲しみにくれるだけ」。
第10曲はヨハネ(レチタティーヴォ)が、「私たちは喜びに満ちている。私たちの主イエスが再び蘇られたのだから。始めは悲しみに押し流されるばかりだったが、今は喜びの歌を歌おう」と述べ、最後にすべての楽器とともに壮麗な喜びに溢れる合唱(第11曲コラール)で幕を閉じます。「賛美と感謝、主よ、あなたの誉め歌をとどめ置いてください。冥府と悪魔は蹴散らされ、門は破壊された。喜びの声を上げよ、天に届けよ。開け天国の扉よ、ユダの獅子が勝利の凱旋をするのだ!」
復活祭の礼拝は3日間続きます。いわば復活節三が日ですね。というわけで明日と明後日もお送りします。
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