プレイリスト
2021.04.11
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第50回

《私たちの主は甦られた》BWV67——復活後第1日曜日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

「弟子たちの前に姿を現したイエス・キリスト」。ギリシャ・ヘリコン山の麓にあるオシオス・ルカス修道院のビザンチン・モザイク。

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

復活祭から最初の日曜日(主日)。その名称や数え方は、宗派や時代によって異なります。ここではバッハに従って「復活節後第1日曜日」とします。

本日は1724年のこの日(4月16日)に、ライプツィヒの教会で初演されたカンタータ《私たちの主は甦られた》を聴きましょう。

続きを読む

この日の礼拝で読まれた福音書はヨハネ20章、第19から31節でした。復活したイエスが弟子たちの前に現れて語り掛け、手と脇腹を見せたくだりです。

20:19その日、すなわち週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた。そこへ、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。 20:20そう言って、手とわき腹とをお見せになった。弟子たちは、主を見て喜んだ。 20:21イエスは重ねて言われた。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。」 20:22そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。 20:23だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される。だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、赦されないまま残る。」 20:24十二人の一人でディディモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたとき、彼らと一緒にいなかった。 20:25そこで、ほかの弟子たちが、「わたしたちは主を見た」と言うと、トマスは言った。「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない。」 20:26さて八日の後、弟子たちはまた家の中におり、トマスも一緒にいた。戸にはみな鍵がかけてあったのに、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。 20:27それから、トマスに言われた。「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」 20:28トマスは答えて、「わたしの主、わたしの神よ」と言った。 20:29イエスはトマスに言われた。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである。」 20:30このほかにも、イエスは弟子たちの前で、多くのしるしをなさったが、それはこの書物に書かれていない。 20:31これらのことが書かれたのは、あなたがたが、イエスは神の子メシアであると信じるためであり、また、信じてイエスの名により命を受けるためである。

新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」10章12〜16節

編成はアルト、テノール、バス独唱と合唱。スライド・ホルン、フルート、オーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)、弦楽と通奏低音。

スライド・ホルンとは耳慣れない楽器の名ですね。当時のホルンはバルブのないナチュラル(自然倍音)楽器なので、とんでもなく音程が外れてしまう音がありました。そこで、こうした音もきちんと出せる高音域のホルンが考案されました。現存していないので実際にはどのようなものか分かっていないのですが、バッハが楽譜に記した「コルノ・ダ・ティラルシ」(ティラルシは「引っこ抜く」の意味)という名称から、なんらかのスライド式機構を備えた楽器だったのではないかと考えられています。

アネク・スコット(コルノ・ダ・ティラルシ)によるバッハのプレリュード

本日の演奏には、トランペット奏者で古楽器研究家の島田俊雄氏が製作した楽器が用いられています。

第1曲目は全楽器を伴って合唱が、「イエス・キリストのことを覚えておけ、主は死者の中から甦られた」と新約聖書のテモテの手紙Ⅱの言葉を歌います。

続いてテノール(アリア)がオーボエ・ダモーレや弦楽、通奏低音と「わたしたちの主は、甦られた。でもいまだにわたしは何を恐れているのだろう。わたしの信仰は主の勝利を知っているのに、わたしの心は諍いを感じている。わたしの主よ、現れてください」と歌います。

すると今度はアルト(レチタティーヴォ)が「わたしのイエスよ、あなたは死の毒と地獄の疫病に言われるのですか。ああ、それでもわたしが災厄と恐れに出会うようにと。あなたはわたしたちが歌うために、私たちの舌に讃美の歌をのせたのです」と語り、合唱によるコラール「栄光の日は現れた」となります。「栄光の日が来た。この喜びは味わいつくせない。わたしたちの主、キリストは、今日勝利の凱旋をされる。敵は捕らえられる、ハレルヤ!」。

ここで再びアルト(レチタティーヴォ)が「今もなお、敵の残りが、わたしの平安を奪い、脅かしているようです、でもあなたが勝利されたからには、あなたの子であるわたしと一緒に戦ってください。そうです。わたしたちは既に信仰のうちに、平和の君主であるあなたが、あなたの言葉と御業を私たちのために成し遂げられることを感じています」と言い、バスと合唱によるアリアになります。これは戦いの様子を表す、賑やかな弦楽に始まり、穏やかな木管を背景としたバスによるキリストの声「あなた方に平和があれ!」、ソプラノ、アルト、テノールの「イエスはわたしたちと共に戦い、敵の怒りを鎮めてくださる。地獄よ、サタンよ、退け!」というように、キリストの声と救いを求める人々の合唱(ソプラノ、アルト、テノール)が交互に演奏されます。興味深いのは人々の合唱は4拍子、イエスのところだけ3拍子で歌われていることです。3は神の世界の象徴数でしたね。

そして最後に合唱によるコラールで曲を閉じます。「平和の君侯、主イエス・キリストよ、真実の人であり、真実の神よ。あなたは苦難の際の強い救い主。生きている時も死ぬときも。だからわたしたちはただあなたの御名により、あなたの父に向って叫ぶのです」。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ