プレイリスト
2021.05.02
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第53回

《わたしが去るのはあなた方によきこと》BWV108——復活後第4日曜日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

バロック後期の巨匠ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作『最後の晩餐』。

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おはようございます。本日は1725年の復活後第4日曜日(4月29日)に、ライプツィヒの教会で初演されたカンタータ第108番「わたしが去るのはあなた方によきこと」をお送りします。

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この日の礼拝で朗読されたのは『ヨハネの福音書』第16章第5~15節。これから起こる迫害のことを聞いて悲しむ弟子たちに、イエスは私が去るのはあなた方にとってよいことなのだと語り、聖霊の到来を予告します。

16:05今わたしは、わたしをお遣わしになった方のもとに行こうとしているが、あなたがたはだれも、『どこへ行くのか』と尋ねない。16:06むしろ、わたしがこれらのことを話したので、あなたがたの心は悲しみで満たされている。 16:07しかし、実を言うと、わたしが去って行くのは、あなたがたのためになる。わたしが去って行かなければ、弁護者はあなたがたのところに来ないからである。わたしが行けば、弁護者をあなたがたのところに送る。 16:08その方が来れば、罪について、義について、また、裁きについて、世の誤りを明らかにする。 16:09罪についてとは、彼らがわたしを信じないこと、 16:10義についてとは、わたしが父のもとに行き、あなたがたがもはやわたしを見なくなること、 16:11また、裁きについてとは、この世の支配者が断罪されることである。 16:12言っておきたいことは、まだたくさんあるが、今、あなたがたには理解できない。 16:13しかし、その方、すなわち、真理の霊が来ると、あなたがたを導いて真理をことごとく悟らせる。その方は、自分から語るのではなく、聞いたことを語り、また、これから起こることをあなたがたに告げるからである。 16:14その方はわたしに栄光を与える。わたしのものを受けて、あなたがたに告げるからである。 16:15父が持っておられるものはすべて、わたしのものである。だから、わたしは、『その方がわたしのものを受けて、あなたがたに告げる』と言ったのである。」

新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」16章5〜15節

バッハの時代のライプツィヒにクリスティアーネ・マリアーネ・フォン・ツィーグラーという女性の詩人がいました。ライプツィヒ市長であった父親が偽装手形などの罪で投獄され、二人の夫に先立たれるなどの不幸な出来事のあとに詩を書くようになり、バッハの9曲余りのカンタータの作詞を手掛けています。

クリスティアーネ・マリアーネ・フォン・ツィーグラー(1695〜1760)
ライプツィヒに生まれ、フランクフルト・アン・デア・オーダーに没した詩人・作家。

この曲は、そんなツィーグラーが作詞を担当した2曲目のカンタータ。編成はアルト、テノールにバス、それに合唱とオーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)2、弦楽と通奏低音です。

バス(アリア)が聖書のイエスの言葉を愛のオーボエとともに歌います。「わたしが去っていくのは、あなた方にためになる(よきこと)。……わたしが行けば、弁護者(慰めの主)をあなた方のところに送る」。日本語共同訳聖書では「弁護者」ですが、ルター訳のドイツ語聖書ではカンタータの歌詞通りTröster(慰めの主)となっています。つまり聖霊ですね。

それを聴いた弟子たちの想いでしょうか。テノール(アリアとレチタティーヴォ)が、絶え間なく揺れ動く独奏ヴァイオリンとともに「どんな疑いに妨げられることなく、主よ、私はあなたの御言葉を聴きます。たとえあなたが去っても、私は信じていますから安心していられるのです。贖われた人々のいる憧れの港に到達するであろうことを」と歌いますが、心の中ではどこか不安。続くレチタティーヴォで「あなたの聖霊がわたしを正しい道に歩ませてくださいます。あなたが去ることで聖霊がきてくださるのです」と言いつつも、「心配なのでお尋ねしますが、ひょっとしたらそのお方はすでにここにおられるのでしょうか」と訊ねます。これを受けて今度は合唱がヨハネ福音書のイエスの言葉を聖霊の導きについて歌います。「しかし、その方、すなわち真理の霊が来ると、あなた方を導いて真理をことごとく悟らせる……(その方は)これから起こることをあなたがたに告げるのである」と。弟子たちの不安を取り除くかのような力強いフーガです。

そしてアルト(アリア)が、柔らかな弦楽の伴奏で「わたしの心があなたに切に願うことは必ず叶うでしょう。あなたの祝福をわたしに降り注いでください。わたしを正しい道に導いてください。とこしえにあなたの栄光を見るように」と歌い、最後にゲルハルト作のコラールが歌われて曲を閉じます。「天から与えられたあなたの聖霊は、神を愛する者すべてを切り開かれた道に導く。迷うことなく、神に祝福された場所へと」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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