プレイリスト
2021.05.23
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第57回

《わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る》BWV74——聖霊降臨日(ペンテコステ)

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

19世紀ライプツィヒ生まれのドイツ人画家ユリウス・シュノル・フォン・カロルスフェルト作『聖霊降臨』。

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本日はクリスマス、イースターとともに、キリスト教の三大祝日のひとつとされる聖霊降臨日です。

復活祭から数えて50日目、昇天日から十日後の日曜日にあたります。もともとユダヤ教では、イスラエルの民がエジプトから救い出されたことを祝う過越祭の安息日から数えて50日目だったことから、ギリシャ語のペンテコステ(五旬祭)といい、春の収穫を祝う祭りの日であると同時に、モーセがシナイ山において神から律法を受けたことを記念する日でもあったのですが、この日にイエスの弟子たちの聖霊が下ったとされたのです(『使徒言行録』)。

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聖霊は神と神の子イエスとともに三位一体のひとつであり、復活後ふたたび天に昇ったイエスが、聖霊を弟子たちに送ることによってイエスの福音が各地にひろまっていき、それによってキリスト教会が誕生したのですから、とても大切な日なのです。

バッハの時代のライプツィヒの教会ではこの日から3日間にわたってペンテコステのカンタータを上演しているので明日、明後日にもお届けします。

14世紀の祈祷書に描かれたペンテコステ(ナショナル・ライブラリー・オブ・ウェールズ所蔵)。聖書によれば「激しい風のような音が聞こえ、天から炎のような舌が一人ひとりの上に分かれて降った」。

さて、《わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る》BWV74は、1725年の聖霊降臨日(5月20日)に演奏されました。当日の福音書はヨハネの第14章23から31節です。受難を前にしてイエスと弟子たちが交わした会話のひとつです。

14:23イエスはこう答えて言われた。「わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る。わたしの父はその人を愛され、父とわたしとはその人のところに行き、一緒に住む。 14:24わたしを愛さない者は、わたしの言葉を守らない。あなたがたが聞いている言葉はわたしのものではなく、わたしをお遣わしになった父のものである。 14:25わたしは、あなたがたといたときに、これらのことを話した。 14:26しかし、弁護者、すなわち、父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊が、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる。 14:27わたしは、平和をあなたがたに残し、わたしの平和を与える。わたしはこれを、世が与えるように与えるのではない。心を騒がせるな。おびえるな。14:28『わたしは去って行くが、また、あなたがたのところへ戻って来る』と言ったのをあなたがたは聞いた。わたしを愛しているなら、わたしが父のもとに行くのを喜んでくれるはずだ。父はわたしよりも偉大な方だからである。 14:29事が起こったときに、あなたがたが信じるようにと、今、その事の起こる前に話しておく。14:30もはや、あなたがたと多くを語るまい。世の支配者が来るからである。だが、彼はわたしをどうすることもできない。 14:31わたしが父を愛し、父がお命じになったとおりに行っていることを、世は知るべきである。さあ、立て。ここから出かけよう。」

新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」14章23〜章31節

実はこの74番は、バッハが前年の聖霊降臨日に作曲したカンタータ(BWV59)を、ツィーグラーが台本を担当し、楽曲の数を増やすなど、より規模を大きくして改作したものです。編成はソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱にトランペット3、ティンパニ、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽に通奏低音。

本日は現代楽器ですが、ライプツィヒ・トーマス教会のカントル(バッハが就いていたポスト)であるビラーが指揮する聖トーマス教会合唱団と、ゲヴァントハウス管弦楽団による演奏で聴きましょう。ソプラノとアルトは聖トーマス合唱団の少年が歌っています。

第1曲は3本のトランペット(神の楽器。3という数も神の世界を表わしています)を伴う合奏とともに、合唱が聖書のイエスの言葉を告げます。「私を愛する人は、私の言葉を守る。私の父は、その人を愛され、父と私はその人のところに行き、一緒に住む」。それを受けてソプラノ(アリア)が歌います。「来てください、私の心はあなたに開かれています。そこをあなたの住処としてください。あなたを愛しています。待ち望んでいます、あなたの御言葉がわたしのもとで成就することを。あなたを求め、畏れ、愛し、歌う人に父なる神は好意を寄せてくださるからです。だから私はもう迷いません…」

アルト(レチタティーヴォ)も言います。「住まいは整いました。心はあなただけに捧げられています。ですからあなたがわたしから離れるなどと考えてわたしを苦しませないでください。そのようなことは二度と起こらないように」。するとバス(アリア)がイエスの言葉を歌います。「わたしは去って行くが、またあなた方のところに戻ってくる。わたしを愛しているなら、(私が父のもとに)行くのを喜んでくれるはずだ」

イエスがまた戻ってくる! この言葉を聞いたテノール(アリア)が伸びやかな歌声を聞かせます。「急いで来てください。弦と歌を喜ばしい音に合わせよう。讃えられた神の子である、主は去って行くが、ふたたび戻って来られる。でも、もちろんサタンは、あなたの人々を呪おうと狙っています。大変ですが、主よ、私はあなたを信じています」。そこに響くのは、バス(レチタティーヴォ)による新約聖書「ローマの信徒への手紙8-1」の言葉です。「イエス・キリストに結ばれているものは、非難される(罪に定められる)ことはありません」

再びアルト(アリア)が今度はソロ・ヴァイオリンを伴って、「主、イエスよ、あなたの血以外に地獄の鎖から私を救えるものは何もない。あなたの苦しみや死が、わたしを相続人としてくれるのだから、サタンの怒りなど笑うだけ」と歌い、合唱が「この世の何人もこの気高い恵みに値いしない」と聖霊降臨節のためのコラールを唱和して曲を閉じます。「ここで力を発揮するのは、キリストがわたしたちのために贖いと和解によって勝ち取ってくださった神の愛と恵みだけ」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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