プレイリスト
2021.05.25
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第59回

《彼は自分の羊の名を呼んで》BWV175——聖霊降臨節第3日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ドイツ・ニーダーバイエルンの作者不詳の絵画『よき羊飼いに扮するイエス・キリスト』。

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おはようございます。本日は1725年の聖霊降臨節3日目(5月22日)に初演されたカンタータ第175番《彼は自分の羊の名を呼んで》です。

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この日朗読された聖書は「ヨハネによる福音書」第10章1~11節。「羊の囲いの喩え」ですが、もちろん羊は人々、羊飼いや囲いの門はイエスですね。当時のイスラエルには、羊飼いたちが夜のあいだに羊を保護しておく、囲いがあったそうです。そして「わたしより前に来た者」とは、従来のユダヤの指導者たちのこと。羊たちは自分の羊飼いの声を知り、羊飼いは自分が世話をしている一頭一頭の羊を知り尽くしていて、羊の名を呼んで外に連れ出すのですが、その羊たちを命がけで守る。

10:01「はっきり言っておく。羊の囲いに入るのに、門を通らないでほかの所を乗り越えて来る者は、盗人であり、強盗である。 10:02門から入る者が羊飼いである。 10:03門番は羊飼いには門を開き、羊はその声を聞き分ける。羊飼いは自分の羊の名を呼んで連れ出す。10:04自分の羊をすべて連れ出すと、先頭に立って行く。羊はその声を知っているので、ついて行く。 10:05しかし、ほかの者には決してついて行かず、逃げ去る。ほかの者たちの声を知らないからである。」 10:06イエスは、このたとえをファリサイ派の人々に話されたが、彼らはその話が何のことか分からなかった。 10:07イエスはまた言われた。「はっきり言っておく。わたしは羊の門である。 10:08わたしより前に来た者は皆、盗人であり、強盗である。しかし、羊は彼らの言うことを聞かなかった。 10:09わたしは門である。わたしを通って入る者は救われる。その人は、門を出入りして牧草を見つける。 10:10盗人が来るのは、盗んだり、屠ったり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしが来たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである。 10:11わたしは良い羊飼いである。良い羊飼いは羊のために命を捨てる。

新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」10章1〜章11節

ちなみにこの話は、生まれつきの盲人を癒した聖書の前章と関係があると言われています。信仰によって霊的な目は見えるようになるということですが、カンタータのバスのアリアの「聾者への喩え」にその繋がりが感じられると思います。

台本はライプツィヒの女流詩人ツィーグラー。カンタータの編成はアルト、テノール、バス、合唱、トランペット2、リコーダー3、ヴィオロンチェロ・ピッコロ(小型チェロ)、弦楽と通奏低音。

テノール(レチタティーヴォ)が「彼は自分の羊の名を呼んで彼を連れ出す」という聖書の言葉で始まります。田園や羊飼いの世界を象徴する3本のリコーダーの甘い響きが印象的ですね。続いてアルト(アリア)が、やはりリコーダーとともに、「来てください。わたしを導いてください、わたしの魂は緑の牧場に憧れているのです、わたしの心は、わたしの羊飼いを求めて昼も夜も喘いでいます」

テノール(レチタティーヴォ、アリア)も、「どこであなたに会えるのですか。あなたはどこに隠れておられるのですか。早く姿を見せてください。待ち焦がれた朝よ」と言い、軽やかなテンポで小型のチェロのソロと通奏低音とともに、あなたが来られるのを見る想いです。あなたは正しい門から入られ、信仰によって迎え入れられる、真の羊飼いに他なりません。わたしはあなたの愛に満ちた優しい声を知っています。そしてあなたが救い主であることを疑うものは誰であれ、憤りを覚えます」と歌います。

アルト(レチタティーヴォ)が再び聖書から、「しかし、彼ら(ファリサイ派の人々)は、主が何のことを彼らに語られたのか分からなかった」と述べると、バス(レチタティーヴォとアリア)が「ああ、その通り! わたしたち人間は理性に惑わされて、主の言葉を何も理解しないとき、しばしば聾者に喩えられる。主イエスがおまえに語られるときに、愚か者よ、お前自身の救いに関わる話であることを悟れ」と言い、輝かしいトランペットとともに「お前たちの2つの耳よ、開け。イエスが悪魔と死を滅ぼすと誓われた。主は、満ち足りた豊かな生命を、すべてのキリスト者に与える、彼に従って彼とともに十字架を背負う者に」と歌い、最後に合唱がリスト作のコラールを静かに歌って曲を閉じます。「さあ、尊い霊よ、わたしはあなたに従います。わたしがあなたの御言葉に従って永遠に新しい生命を尋ね求めることを助けてください。あなたの御言葉は曙の明星。遠くに近くに輝かしい光を放っています。アレルヤ」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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