プレイリスト
2020.08.23
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第7回

「主イエス・キリストよ、この上なく貴い宝よ」——三位一体後第11主日

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ジョン・エヴァレット・ミレー作『パリサイ人と取税人』(1864)。

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2020年8月23日は、キリスト教暦の三位一体後第11主日。1724年のこの日に当たる8月20日に、ライプツィヒの礼拝で初演された「主イエス・キリストよ、この上なく貴い宝よ」BWV113は、全8曲からなり、第1曲、第2曲、第8曲は同名のコラール(讃美歌)の歌詞の各節がそのまま、他の曲では部分的に用いられ、旋律もコラールとよく似ています。このような曲をコラール・カンタータといいます。

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この主日のために作曲されたカンタータは、他にBWV179と199がありますが、いずれも同じ聖書の箇所が朗読されています。すなわち「ルカによる福音書」第18章9~14、神殿で祈る「パリサイ人と取税人のたとえ」です。

パリサイ派の人は掟や律法を守っているので自分は正しい人間だと自惚れており、徴税人は自らを罪人だと胸を悲しみでいっぱいにして神に「私を憐れんでください」と祈る。ここでイエスは「義は徴税人のほうにある」という、古くから絵画などでも親しまれている主題です。

18:09自分は正しい人間だとうぬぼれて、他人を見下している人々に対しても、イエスは次のたとえを話された。 18:10「二人の人が祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人で、もう一人は徴税人だった。 18:11ファリサイ派の人は立って、心の中でこのように祈った。『神様、わたしはほかの人たちのように、奪い取る者、不正な者、姦通を犯す者でなく、また、この徴税人のような者でもないことを感謝します。18:12わたしは週に二度断食し、全収入の十分の一を献げています。』 18:13ところが、徴税人は遠くに立って、目を天に上げようともせず、胸を打ちながら言った。『神様、罪人のわたしを憐れんでください。』 18:14言っておくが、義とされて家に帰ったのは、この人であって、あのファリサイ派の人ではない。だれでも高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる。」

新共同訳聖書より「ルカによる福音書」第18章9~14

オランダの画家バーレント・ファブリティウス作『パリサイ人と取税人』(1661)。

編成は4声合唱、フラウト・トラヴェルソ、2本のオーボエ、2本のオーボエ・ダモーレ、弦楽、通奏低音。「私の心がどれほど大きな痛みに苦しんでいるか、どうぞご覧ください」と、「この上なく貴い宝」であるイエスに語り掛けるコラールの歌詞と音楽は、徴税人の心に寄り添うようです。弦楽と通奏低音のパッセージを背景にアルトが「このような苦しみにある私を、どうぞ憐れんでください」とコラールを歌います。続くバスのアリアは、「私の罪を思うと恐ろしくてたまらない、あなたから慰めの言葉がいただけなければ疲れ果ててしまう」と歌うのですが、2本のオーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)とシチリアーノ風のリズムによる音楽は穏やかなダンス風。第4曲以後はイエスから受け入れられた想いが歌われますが、フルートの名人芸的なオブリガートを伴うテノールのアリアや、ソプラノとテノールの二重唱など、聴きどころ満載です。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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