「チェロ・ソナタ第1番 へ長調」——史上初のチェロとピアノのために書かれた二重奏作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1792年、22歳のベートーヴェンは故郷ボンを離れ、音楽の中心地ウィーンに進出します。【天才ピアニスト時代】では、ピアニストとして活躍したウィーン初期に作曲された作品を紹介します。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
史上初のチェロとピアノのために書かれた二重奏作品「チェロ・ソナタ第1番 へ長調」
ベートーヴェンの周りにはたくさんのチェリストがいました。この作品を初演したジャン=ルイ・デュポール(1749-1819)というプロイセン宮廷の首席チェリストです。彼にはジャン=ピエール(1741-1818)という兄がいて、当初、チェロ・ソナタは彼のために書かれたと言われていました。しかし最近の研究では、ベートーヴェンがベルリンにいた1796年、ジャン=ピエールはすでに宮廷楽団奏者を引退して音楽監督になっており、弟のジャン=ルイが首席奏者に昇格していたことがわかっています。
(中略)
Op.5のチェロ・ソナタで重要なことは、ピアノとチェロのために書かれた二重奏作品の最初のものであると言えることです。ハイドンにはチェロ・ソナタはありません。チェロ協奏曲はあるのですが、すでに自らチェリストでもあったボッケリーニもたくさんのチェロ・ソナタを書いていますが、それらはチェロと通奏低音のためのものであって、現在流通している楽譜はピアノ声部を後世の人々がリアリゼーション(本来即興で演奏される低音パートをもとに、右手の音符を楽譜に起こす)したものです。
――小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ「傑作の森」への道のり』(音楽之友社)27-29ページより
ベルリンで出会ったデュポール兄弟だけでなく、ボン時代から優れたチェロ奏者に囲まれ、この楽器を身近に感じていたベートーヴェン。王の御前演奏のために書かれたこれらの作品は、ベートーヴェン自身のピアノの腕前を示すために、優れたチェロ奏者と対等か、それ以上に華やかなピアノ・パートで書かれているそうです。そんなシチュエーションが、史上初めての「チェロ・ソナタ」を生み出したのですね。比較されているボッケリーニの作品とも聴き比べてみましょう。
作曲家・教育者でもあり、兄とともに当時もっとも高名なチェリストだった。ジャン=ルイが所有していたストラディヴァリウスのチェロはのちに、ショパンの盟友フランショームや20世紀最大のロシア人チェリストであるロストロポーヴィチに受け継がれた。
ボッケリーニ:チェロとフォルテピアノのためのソナタ集
チェロ・ソナタ第1番 へ長調 op.5-1
作曲年代:1796年5~6月(ベートーヴェン26歳)
出版:1797年2月
プロイセン国王の御前で、ジャン=ルイ・デュポールのチェロと作曲者で初演
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