「弦楽五重奏曲 ハ長調」——ベートーヴェン唯一のオリジナル・クインテットは隠れた名作
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ベートーヴェン唯一のオリジナル・クインテットは隠れた名作「弦楽五重奏曲 ハ長調」
隠れた名曲の筆頭かもしれない。ベートーヴェンの弦楽五重奏曲は3曲と数えられることがあるが、他の2曲、Op.4はOp.103の管楽八重奏の《パルティア》の改作(編曲)、Op.104は3つの《ピアノ三重奏曲》Op.1から第3番ハ短調の編曲であるので、オリジナルの弦楽五重奏曲はこのOp.29だけだ。
1800年12月15日付けの出版社に宛てた手紙に、弦楽五重奏曲の作曲について言及されているが、実際に残されているスケッチ帳は1801年のものである。交響曲第1番を完成させた後であり、バレエ音楽《プロメテウスの創造物》を作曲していたころに着手されたと思われる。
第1楽章、ハ長調のアレグロ主部主題は、交響曲第1番や《プロメテウスの創造物》序曲と同じように、2度調(ハ長調に対して2度上のニ短調)に連結されて繰り返される。
注目すべきは終楽章だ。8分の6拍子の急速なプレスト楽章で、強いアクセント打撃で和音を、ピアニッシモでトレモロ奏する高音域に、第1ヴァイオリンがまるで閃光が走ったかのような鋭い音形で割り込む。この開始部には、ハ長調でありながら嵐のような不気味さが漂う。これはまさしくバレエ音楽《プロメテウスの創造物》の序曲後の導入曲《ラ・テンペスタ(嵐)》の木霊であり、7年後の交響曲第6番《田園》第4楽章「雷鳴・嵐」につながる、遠い前触れ予震だ。
解説:平野昭
弦楽四重奏曲は第16番まで書いたベートーヴェンですが、弦楽五重奏はオリジナル作品が1曲しかないとは驚きです。弦楽四重奏にヴィオラを足した(2ヴァイオリン、2ヴィオラ、チェロ)編成で作曲されました。
四重奏に比べると演奏機会は多くないようですが、直前に書かれた交響曲第1番や、後の傑作《田園》とも繋がりを見出せる重要作品のひとつです。交響曲作曲家としてデビューを果たし、名作が怒涛のごとく続く「傑作の森」に分けいっていく準備なのでしょうか。
「弦楽五重奏曲ハ長調」Op.29
作曲年代:1800年末~01年(ベートーヴェン30〜31歳)
出版:1802年12月
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